埋葬 (1)
いつものようにマミリがラルクレの農場の様子を見に行くと、ジャニがドニとバリーにあれこれ指図をしているところだった。
「だめだよ! それじゃ! もっと大事に扱えよ!」
とジャニが怒っていた。
ドニとバリーを連れて来たのも、ジャニだった。
「まあまあ、そんなにカッカしないで!」
とマミリはなんだかおかしくなってジャニに言った。
「だけど姉さん、こいつら、目を離しているとすぐになまける!」
とジャニが言う。
なんだかこのごろジャニは怒りっぽくなってしまったようだった。
アンジェに付き合っている人がいるらしいのだ。それはマミリもうすうす知っていたし、ときどきアンジェはマミリも誘おうとするのだけれど、マミリは今、農場のことや市場のことがおもしろくて、それどころではなかった。
「ねえ、ジャニ。もしかして、ジャニったら、アンジェがお気に入りだったのね?」
とマミリが言うと、ジャニはますます怒って、
「違う! おれは仕事が恋人なんだ! 姉さんだってそうだろ!」
と同意を求める。
そんな時、ふと、マミリはシャリーはどうしているのだろうと思うのだった。
家に帰ると、またいつものようにムーニーがラルクレにあれこれと野菜のこと、店のことを言っている最中だった。
「ただいま!」
と声をかけると、ムーニーは今度はマミリに向かって来た。
「マミリ!」
とムーニーが話し出すと長くなる。マミリが、
「はいはい」
と先に返事をして、逃げようとすると、
「違うのよ! タイラのことなの!」
とムーニーが言う。
「え? どうしたの?」
と聞くと、
「ここ二週間、買い物に来ていないのよ」
「だけど、そんな日は前にもあったでしょ?」
「そうだったかしら?」
「そうよ。いつも同じ所で買い物するとも限らないし。タイラはセロトで乗り換えてジルに行くこともあるみたいだから、セロトの市場やジルの農場で野菜を買うことだってあるでしょ!」
とマミリはぴしゃりと言った。
「でも、なんだか心配だから、あなた、見て来て!」
とムーニーが言う。
「え? 今から?」
もう暗くなり始めている。こんな時間からミミュウの方へ行くなんて、怖すぎる。
「じゃあ、あたしも着いて行くから」
「もう、大丈夫だから! 大丈夫! タイラなら大丈夫よ!」
そうきっぱりと言ったマミリだったが、なんだか夜が更けるにしたがって、だんだん嫌な気分になってきていた。
「もう、ママったら…。よけいなことを言うから、あたしも心配になってきちゃったわ」
とマミリは言った。
その夜、マミリはあまりぐっすり眠れなかった。なんだかタイラの住む黒い館ではいろいろ不吉なことが起こってもおかしくないような気がした。
マミリは思った。
「しょうがない! 朝になったら確かめに行くわ! 明るくなったら!」
そう一人で言うとなんだか少し安心して、それから朝まではぐっすりと眠ることができた。
幸い、次の日は明るい朝になりそうだった。これから暑い季節になる時で、お日様の光が強くなってきている。
マミリはいくつか、タイラへのお土産に野菜を選ぶと、意を決してミミュウに向かった。
黒の館には近づいたことがない。
ラルクレの農場の先に少し小高い山があって、そこから黒の館の方が見える。森はいつでも不気味だった。
お日様が強く輝き出しているというのに、森の木々はその光を遮り、少し涼しいと言うよりは寒く感じる。それに森に近づくとカラスがざわざわと騒ぎ出しているのがわかった。
だが、不思議と鳴き声は聞こえず、空を二、三羽のカラスが舞っているだけだった。
森の入り口からは木が渡してある道ができている。
マミリは用心深くをの道を進んだ。




