ジャストランド (2)
「乗馬のけいこって…。あなたはもうお乗りになれるようだが…」
とジャストランドは不思議に思った。
「いえいえ。今朝、初めて馬に乗ったのです。と言っても、もちろんあなたのお兄様に一緒に乗せていただいたから、乗れたということで。あたし一人ではきっと乗れません」
「え? そうかなぁ?」
とジャストランドがランドンの手綱を引くとランドンもタイラの方に顔を向け、親し気に頭を縦に大きく振った。
その様子をジャストランドは驚いて見つめた。
「馬って、とてもやさしいのね。初対面のあたしにもこんなに親しくしてくれるなんて」
とタイラはランドンの鼻先をなでた。
ジャストランドは驚きながら、スヌカの手綱をタイラに渡してみた。
「え? で? ここに乗るにはどうしたらいいのかしら?」
とタイラは鞍を見つめている。本当に初めてなのか? 嘘ではなさそうだ。
ジャストランドがランドンの鐙に片足をかけて、手本を示すと、タイラはジャストランドの真似をして足をかけ、やすやすとスヌカにまたがった。
「もう少し鞍の前の方に身体をあずけて…」
タイラは見様見真似に手綱を引き、ジャストランドの行く方に自然に着いて行った。
「ほんとうに初めてなのですか?」
「ええ。そうでないとどうなるんでしょう?」
「ぼくなんかは、まあ、子どもの頃から乗っているけれど…。それでも馬に嫌われてしまうと馬は思うようには操れません」
「へえ」
ジルの丘に出ると、いつの間にか、カラスが集まって来ており、二人はカラスに囲まれてしまった。
カラスは飛び回り、すごい声でガアガアと泣き叫んでいる。
「あらいやだ。こちらのカラスとにらみあっているわ」
とタイラが言った。
「こちらのカラス?」
「ごめんなさい。馬に乗ることが楽しそうだからそのことばかりを考えていて…。それにカラスたちがこんなに遠くまで着いて来るとは思わなかったものだから、カラスを閉じ込めておくのを忘れてしまって」
「どこに閉じ込めると?」
「あ、ごめんなさい。あたし、カラスを飼っているんです」
ジャストランドはまたびっくりし、時々近くまで飛んできてまた近くの木に戻っているカラスたちを見て、
「どちらから?」
と尋ね、
「ジャム・サ・ドラです」
と言うのを聞いてまたまた驚いた。
このタイラという人は、どこかしら雰囲気が変わっているが…、どこが変わっているのかというと説明はできない。だが、なにか心の中にひびくような話し方をする。
グアラがタイラの近くをかすめて飛び、スヌカがおびえ、前足を立て、いなないた。
「きゃあ!」
とタイラはあわててスヌカの首にしがみついた。スヌカはその首を激しく振り、タイラはスヌカから落ちてしまった。
「あ! だいじょうぶですか?」
とジャストランドもランドンから下りて、タイラに歩み寄った。
「まったく! これじゃあ練習ができないわ!」
と、タイラはあたりを見回し、飼い葉を運ぶフォークを見つけると、走ってそれを取りに行き、カラスの方に振り回した。
「グアラ! 帰れ! 帰るのよ!」
カラスたちはしばらくガアガアと空を舞ったが、タイラが怒っているのを見ると、どこかに飛んで行ってしまった。
「もう! ほんとうに! 自分であきれるわ。すっかり楽しいことのとりこになってしまって…。ルーズにカラスの餌のことをたのむのを忘れてしまったわ」
と言いながら、タイラはスヌカに近づき、優しく顔を寄せた。
「こわい思いをさせてしまって、ほんとうにごめんなさい」
その一部始終を見ながら、ジャストランドは自分の心になにか熱いものがたまってくるのを感じていた。
タイラがくるりとジャストランドの方を見て、じっと見つめられるとジャストランドはドキリとした。そしてそのまま心臓がドンドンと大きな音を立てた。
「どうもすみませんでした。もうだいじょうぶです。練習を続けて下さい」
タイラはもう慣れたしぐさでスヌカにまたがり、スヌカがそれを喜んで受け入れているのをランドンは感じた。
それから、ランドンが教えることはほとんどなかった。少しコツを言うと、タイラはすぐにそれを飲み込み、なんの苦もなく駆け足までできるようになった。
タイラはすっかり夢中になり、
「すごい! ほんとうに! 速い!」
とまるでスヌカと一体になったように、丘を走り回った。




