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クロウ   作者: 辰野ぱふ
41/53

ジャストランド (1)

 朝、太陽が昇る前から、タイラは起き出していた。

 一人で遠出することが楽しみでしょうがなかった。心が浮き立ってしまい良く眠れなかったのだが、気分は最高だった。

 屋敷の周りをぐるりと回り、カラス小屋を確かめ、スヌカを確かめ、ロミファの様子を見に行くと、いつものようにロミファは夢と現実の間を行き来しているようだった。

「ママ、今日は出かけて来ます」

 とタイラは少女の頃からそうしていたように、ロミファのベッドの横にひざまずき、布団にほおずりすると、ロミファの手を探り、さすった。

「タイラ。気をつけなさい」

 とロミファが言った。

「はい。そうします」

 とタイラは言い、またしばらくロミファのベッドに頭をあずけていた。

 と、客人が起き出した気配を感じ、

「じゃあ、ママ、行ってきます」

 と立ち、朝食を用意し、客人をキッチンのテーブルで待っていた。

 クッチマムはすっきりとした面持ちをしていた。顔色も前日より赤みがかっていて、気分が良さそうだった。

「おはようございます」

 とタイラが言い

「おはようございます。良く眠れました」

 とクッチマムが言った。

「もう、スヌカの朝食は終わっています」

 とタイラが言った。タイラはすっかりスヌカが気に入ってしまい、朝からスヌカの身体を拭き、スヌカに話しかけていた。

  

 スヌカの乗り心地はすばらしかった。

 馬車やディーゼル機関車とは違い、あたりの空気がまるで自分の身体の一部のように感じられる。身体全体を包むように過ぎていく朝の風は格別の味わいだった。

 タイラの前で手綱を操っているクッチマムがいるのが、難点だったが。馬を一人で乗りこなせるようになったら、この風は自分だけのものになるのだ。

「いやあ、今日は調子がいいなあ。やっぱりスヌカはあなたのことが気に入っているようだ」

 とクッチマムが言った。

「うれしい! じゃあ、両思いだわ」

 とタイラが言った。

 昼にやっとジル駅に着き、クッチマムの暮らす古い屋敷の前で、「お降りください」と言われると、タイラは、

「スヌカはいつもどこにいるのですか? そこまで一緒に連れて行って下さい」

 と言った。


 古い屋敷裏の馬小屋に行くとジャストランドがランドンの世話をしていた。

「やあ。兄さん、珍しく馬に乗っているのですね!」

 と言い、クッチマムの後ろの見知らぬ若い女性に目を止めると、

「え? ま、まさか」

 とジャストランドは目を丸くした。

「まさかってどういうことだい?」

 とクッチマムが確かめると…。

「だ、だって…、兄さん、昨日お帰りになりませんでしたね? つまり…。その…、その女性の方と一緒に過ごされていたということでしょうか?」

 クッチマムは大声で笑った。そんなに感情を大きく表現するクッチマムを見たことがなかったので、ジャストランドはまたびっくりした。

「たしかに、久しぶりに馬に乗ったせいか疲れ果ててしまって、この方のお屋敷に一晩泊めていただいたのだけれど、この方はそのお屋敷のお嬢様で、わたしのフィアンセというわけではないよ」

 そういうと、ジャストランドは頬を赤らめた。


 クッチマムの後ろから、タイラはすとんと着地して、

「こちらが弟さんなのですね?」

 とジャストランドに歩み寄り、

「タイラです」

 と手を差し出した。

 ジャストランドはすっかりそのしぐさに見とれており、あわててその手を取ると、

「ジャストランドです」

 と言った。

「お似合いなのはそっちの二人なんじゃないかな?」

 とクッチマムはさらに笑った。

「あら、ジャストランド様の方がずっとお若いわ」

「そうだ! ジャストランドの方がずっと乗馬がうまい。乗り方は彼に教わった方がいい」

 そう言って、クッチマムは続けて、

「屋敷を一晩開けてしまったなんて、今まで一度だってなかったことだから。とにかく屋敷内のことが滞っていないかどうか心配でなりません。それを先に確かめてまいります。ここで、ジャストランドと乗馬のけいこをなさっていて下さい」

 と言った。


 馬小屋にはジャストランドとタイラが二人ぽつりと残された。

 スヌカはすっかりタイラのことを覚えたらしく、大きく首を縦に振り、タイラに鼻先を突き出した。タイラはまるでずっとスヌカと知り合いだったかのように、慣れた手つきで、その鼻先をなでた。



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