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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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ザルクール (4)

 次の朝いちばん、海へ向かう貨物車両の中で、ザルクールはいまいましい思いになっていた。

 なんだって、ドブネズミなんて呼ばれながら、ガラクールはあんな場所に住んでいたのだろうか。

 ザルクールは自分の心はいつも研ぎ澄まし、磨きをかけておきたいと願っていた。

 だったら、自分はドブネズミではなくて、いったい何なんだ?

 車両の揺れにまかせて、まどろんでいたザクの首に手を回し、

「まあいいさ、ザク。おれはお前の名前を語った。おれはザク。ただの犬で充分だ」

 ザクは首を落としたまま、目だけをザルクールに向けると「クゥ」と答えた。


 海の駅から海辺まで馬車をやとい、そこで降りた。

 通ろうと思えば、自分の住まいのある岬の近くまで、松林の中も馬車で行くことはできるのだが、ザルクールは自分の住まいが見えるような場所に人を近づけるのを嫌っていた。

 くもりがちの空で、海からの風は強く冷たい。

 初めてここに来た時は暗闇だったな、と思い出した。その時初めて海を知ったのだ。暗い中で押し寄せる波の音は恐ろしく、地獄の入り口のように思えたものだった。

 今、海は自分の味方のように思える。自分を暖かく見守り隠してくれる場所。水のまとまりの中にはいくつもの流れがあり、魚を育み、豊穣な生命が満ち溢れている場所。その恵みは自分を生かしてくれている。

 ザルクールの漁船は単純な造りだが頑丈だから、荒波にもまれてもそう簡単に壊れることはないだろうが、ちっぽけだから天候を読み間違えればひとたまりもなく海の中に引きずり込まれるだろう。

 その時には海は冷徹な魔物に変わるのだ。その冷たさ暖かさの狭間でただようことのおもしろさをザルクールは知っていた。


 岬の館に着くと、たった一日家を空けただけなのに、なんだか懐かしい場所にたどりついたように思えた。

 もう、自分の死を伝えたい相手がいなくなったのだ。それは少し寂しいことだった。

「もう、こいつは解放してやろう」

 そうザクに話しかけるように言うと、ザルクールは秘密をくくりつけた鳩を空に放った。

 ザクの首から真鍮の筒を外し、別に用意していた手紙と一緒に中身を暖炉で焼いた。そして自分が抜けていることに改めて気が付いて、大声をあげて笑った。

 ザクは不思議そうにじっとザルクールを見つめた。

「なあ、ザク、 セロトに行ってわかったことは何だったと思う? ガラが埋められた場所だけだ。今、秘密を処分してわかったことは、何だったと思う? 鳩からは秘密を外し忘れた! おれとしたことが!」

 ザクはザルクールの声が聞こえるうちは、静かに上目使いにザルクールのことを見ていた。

「まあ、いいんだ。自分が気が済むためにやってきたことだ。どうせあんな紙切れ誰が見ても何のことやらわかりゃしない。それで何かが起こるのなら愉快なもんだ」

 ザクの首に手をやると、生きているという暖かさが伝わってきた。

「おまえがいれば充分だよ。おれはザクだし、お前はおれだ」

 そして、いつものように泥のように眠った。


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