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クロウ   作者: 辰野ぱふ
35/53

ザルクール (2)

 ザルクールとザクの乗り込んだ貨物車両はいくつかの荷物のほかに、わらや工具が積んであって、人は一人も乗っていない。彼らには似合った場所だった。

 機関車の点検が終わり、機関車が走り出すと、ザルクールは笑った。ザクもうれしそうにザルクールに寄って行って、身体を摺り寄せた。

「おかしいな、なあ、ザク。なんだってこんなおれたちにぴったりの車両があるなんて」

 そしてまた笑った。

「このおれにはぴったりの車両に乗って、おれにはまったく似合わない、真ん中の町に行くんだ。おれの兄弟はなんだってそんな真ん中にいたかったのだろうな」

 そのままザルクールは一駅止まるごとに、扉の隙間から外を確かめながら、セロトを目指したのだ。


 セロトのプラットホームに降り立った時にはもうあたりは薄暗くなっていた。だが町に出て見ると、まだ人がせわしく行き交っていた。

 そのセロトの雑踏はザルクールに昔居た場所を思い起こさせた。 

 そこはたくさんの人が生活している場所だった。そこでは人の言葉が飛び交い、人は群れ、くっつき合い、押し合い、ぶつかり合い、離れ、嫌悪し合い、世の中の成り立ちについて二つの考えが生まれ、それぞれの場所から世の中は始まったと強く主張するようになり、ザルクールには理解できない理由で人を色分けし、囲い合い、争い始めた。

 ガラクールは言った。

「世の中の成り立ちなんて、誰の目にも見えやしない。だからいいんだ。おれたちはそのどちらにも取り入り、自分の富を増やしさえすれば」

 その対立し合う二つの成り立ちについては、それぞれ教典がある。それは分厚い書物で、この世の始まりの物語から成り立っている。

 ザルクールはこの成り立ちの書、二つを比べてみたが、それを書き記した人が違い、陸ができた様子、空ができた様子、生物ができた様子についての物語が違い、どちらもロダモンドの成り立たちを先に、正しく説明していると主張している。

 だれも生まれておらず、言葉もない時代のことなんか、どうやって、どちらが先でどちらが正しいと証明し、比べようというのだろう。

「何か気にくわないことがあったとする。それが腹にたまってきたとする。それをもっともらしく吐き出すために、ぶんなぐり、痛めつけ、つぶす理由が必要なんだ。そのための戦いが必要なんだ」

 ガラクールはいつもそんなことを言ってはニヤケていたけれど、自分と同じような顔をして、小さいころから一緒に過ごしたこの双子の兄弟の中には、自分と通じる何かがあり、自分と反する何かがあった。

 ザルクールは、戦いのちゃんとした理由が知りたかった。自分が納得できる理由だ。


 セロトのプラットフォームから続く商店街はもう店じまいを始めていた。

 広場に立ち、すぐに目に入った一番明るい光に引き付けられるように歩いて行くと、そこは革製品を並べている店で、老人が店先に出した物をしまい、扉を閉めようとしているところだった。

 そこでザルクールは橋のことを聞いた。だが、この町には橋がいくつもあり、ただ橋と言っても、そのどれがガラクールの知らせた橋なのかはわからなかった。

「じゃあ、真ん中の橋はどこです?」

 とザルクールが言うと、

「ああ、セロト橋なら、この道じゃあないよ。ほらそこの広場の噴水に戻ってみればわかるよ。道が三方向に伸びているからその真ん中の道、つまりここの隣の道をずっと歩いて行って、最初にかかっている橋がセロト橋だよ」

 と老人が言った。

 たぶん、その橋にまちがいない。ザルクールは迷うことなく、老人が言った通りに真ん中の道を進んで行った。

 そこを歩く間も、どんどん店は閉じられて行く。そしてだんだん建物が少なくなり街灯が少なくなって行った。


 向こうに田園が多くなる手前でやっと川が見つかり、橋があった。

 橋から橋の下に続く道はなかった。が、草を分けて作られた溝があったのでそこを用心深く下りた。そうやって両側の岸を確かめてみたが、駅に向かって右側の岸には何もなく、左側には石や橋の工事の残骸が残されているだけで、人が住むような場所はなかった。

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