タイル工場 (3)
休みの日は一週間に一日だけある。それは人によって違う日らしいのたが、シャリオが同じ日に合わせてくれたようだった。
駅前への乗合馬車に乗ると、リクはシャリオにオヤジさんの革袋を見せた。
「これ、覚えてる?」
「いや? 何? それ」
「オヤジさんがいつも腰に巻いて着けていた袋だよ」
「そうか」
とシャリオはリクからそれを渡され、中を見て…、
「こんなの、金になるのかな?」
と言った。
「わからないけど、貴金属屋の店先でもこんなのを売っているんだから、買ってくれるんじゃないかな?」
「それなら、行くのは質屋だな」
「シチヤ?」
「うん。物を金と交換してくれる店だよ」
駅に着くと、人通りの少ない通りを探して、そこの道端で、リクは中身を出してシャリオに見せた。
手紙にはあてさきが書いてあり、『海の駅 松林先、岬 ザルクール・レト』となっていた。
「オヤジさんが言っていたんだけど、双子の兄弟がいたんだって。オヤジさんは自分の名前をガラって言っていたから、この人はきっと兄弟なんじゃないかな?」
「え? なんで?」
「わからないけど…」
「苗字がレトなの?」
「いや、知らない」
そう言うと、シャリオはゲラゲラと大声で笑った。
「おまえ、馬鹿か? そんなトロトロしてると、やっつけられるぞ!」
とシャリオがリクの頭を小突いた。
リクは自分の名前もただのリクで、苗字などなかったのだ。ただ、ぼんやりとそう思っただけだった。
ペンダントは白いつややかな石を掘ったもので、女の人の横顔になっている。シャリオがそれをぱっくりと二つに割った。
「やっぱりな」
とシャリオは言った。
「前によくかっぱらった物に、こういうのがあったんだよ。ほら」
それは中が開くようになっていて、中にはやはり横を向いた女の人の写真が入っていた。
「この人がモデルなのかな?」
とリクは彫刻の顔と写真の顔を見比べた。
「そうかもな…」
ほかには、きれいな透明な石がつながっている首飾りと、指輪、小さいガラスの瓶が入っていた。
「な、じゃあまずこれを質屋に持って行こう」
質屋に入ると、リクはざらざらと袋の中の物を出して、質屋のオヤジが目につけたレンズのようなもので一つ一つをじっくりと見た。特に、写真の入っていたペンダントには時間をかけていた。
実はリクはペンダントの中の写真は外して、袋の中に持っていた。
シャリオが、
「これ、中に写真なんか入っていない方が売れるよ」
と言ったからだった。
「この中には何か入っていなかったのか?」
と顔の長い、黒い眉毛も長い質屋のオヤジが、ペンダントのふたを開けてリクとシャリオを交互に見た。
リクが口を開こうとすると、シャリオは目くばせして、
「何も入っていませんでした」
ときっぱり言った。
そうか…。とオヤジが金貨を5枚並べた。
するとシャリオが
「あ、このペンダントはやめておきます。そうすると、金貨は何枚になりますか?」
と言うと、
「え? ええと」
とオヤジはとまどい、
「じゃあ、ペンダントも一緒で十枚でどうだ」
と言った。
「え? オヤジさん、じゃあペンダントなしでも五枚ってことですね?」
とシャリオが言うと、オヤジさんはぎりぎりと苦い顔をして、
「ふん、そんなもの、どこに持って行っても換金はできないぞ。古めかしくて、気味が悪いからな」
と言った。
「じゃあ、ほかの物も、ほかで換金することにしますよ」
とリクがほかのアクセサリーを袋にしまおうとすると、
「いや、じゃあ、それで五枚でいい」
とオヤジさんは言い、二人は金貨を二枚ずつ分け、残りの一枚で何か食べたり飲んだりしよう、ということになった。
ロダモンドの繁華街はにぎわっていて、セロトとはまた違う店が並んでいた。
二人は店を覗いて行った。そんな風に、セロトでも二人はいつも町を一緒にあるいていたのだ。
まず二人は郵便局に行って、オヤジさんの手紙を出した。
それはロッカにもらった硬貨一枚で出すことができた。




