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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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リク (1)

 オヤジさんが亡くなった後、リクはしばらくはオヤジさんと暮らしたセロト橋下の川岸の穴ぐらで生活していた。

 リクはオヤジさんからいろいろ教わった。店先の物をちょろまかして持って来る方法、ご婦人やら老人がふと目を離しているすきに、お財布や金目のものを失敬してくる方法などだ。

 だがそれはリクが小さくすばしこく、何も知らなかったからできていたことで、成長するに従って、オヤジさんの手先となって仕事をすることにだんだん抵抗を感じるようになっていた。


 オヤジさんが亡くなってからは、その嫌な仕事を強要されなくなったことで、どこかほっとしていたが、だが、その後、いったい自分はどうしたらいいのか、よくわからないままでいた。

 それに、リクの顔はもう警官には知られるところとなっていて、セロトでは仕事がしにくくなっていた。


 一月経つと、リクはオヤジさんが持っていた食べ物を食べつくし、オヤジさんの持っていた金貨で買えるものは買い、食料も買い込んだがそれも食べつくしてしまったので、しぶしぶまた、セロト駅の人ごみに紛れていた。

「どうした、リク。最近、姿を見せなかったな」

 と、さっそくセロト交番の警官に見つかってしまい、リクはうんざりした。

今までだったら、そんな時は、べーっと舌でも出して、一緒に仕事をしていた子どもたちと陽気に逃げ回り、オヤジさんの穴ぐらに走り込んでいたものだが、今はもう子どもはリク一人になってしまっていたし、人の物をかっぱらって、くったくなく笑うなんてことがもうだんだんできなくなってきていた。


「どうした? リク、オヤジさんは元気か?」

 とその警官、ロッカがリクに聞いた。

「オヤジさんは亡くなったんだ」

 とリクはぼそりと言った。

 ロッカとオヤジさんは町では敵同士みたいにけん制し合っていたし、オヤジさんから「あいつには気をつけろ」と言われていたけれど、リクは知っていた。ロッカは悪い人ではなく、リクのやることが町の規律に反しているということを。

 だが、リクは気が付いた時にはオヤジさんの暮らす穴ぐらにいて、ある時まではそこがリクの世界のすべてだったから、ロッカのことも敵のように嫌っていたのだ。

 

 オヤジさんがいなくなった今なら、少しならロッカと話してみてもいいような気がしていた。

「そのあとどうした?」

 とロッカが驚いて聞いた。

「そのあと?」

「オヤジさんは、どこかの墓に入ったのか?」

「まさか。そのままでさ」

「そりゃあまずいな。今はまだ寒い季節だからいいけれど…」

 とロッカは考えていた。

「わかった。で、おまえは?」

 とロッカが大きな目でじっとリクを見た。ロッカはがっしりとして背丈がオヤジさんよりもずっと高く、黒く固くちじれた髭をしている。町を巡回している時にはその目の光は鋭く、いつもリクはびくびくしていた。

 その目がなんだか、今は親しく感じられた。

「おまえは? って…?」

「オヤジさんの所で、これからも生活を続けていける、何かがあるのか?」

「わ、わかりません…」

「だろうな」

 ロッカはリクを見下ろし、リクは自分が小さく、いつ消えてしまってもおかしくないほど弱い存在であることを実感した。

「ほかの子どもは?」

「ほかのって…、今はおれだけです。おれの前にいたシャリオも、おれくらいの年にどこかに行ってしまいました」

 ロッカはじっとリクを見ていたが、ふっと目元がゆるみ、

「わかった。こっちに来い」

 と言い、リクは素直にロッカに着いて行った。


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