表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロウ   作者: 辰野ぱふ
26/53

ジルムンドリド家 (2)

 クッチマムの後ろ姿をジャストランドは静かに見つめていた。今「楽しい」と言っていたけれど、楽しそうにしているのを見たことがないな、とジャストランドは思っていた。それとも? 楽しいと言っているのだから、あれが本当に楽しいことなのだろうか? 

ジャストランドはランドンを厩舎につないで、艶やかなこげ茶色の背中を念入りに拭いてやった。ランドンはそれに答えるように、首をふるわせ、ジャストランドに何か言おうとしていた。

 ジャストランドはランドンの白い鼻先をなでて、飼い葉を一つまみ口に持って行った。

 ランドンはうれしそうにそれをもくもくと食べた。


「楽しい…?」とジャストランドはランドンに話しかけてみた。

「うん、楽しそうだな、ランドン。おまえは、ここが好きだな? わかるよ。ぼくと走っていると風になったみたいだ。風の中を走るのが好きなんだとわかるよ…」

 そして、心の中で思った。

(クッチマム兄さんは、あれで、楽しいのだろうか?)


 そこに灰色のスヌカに乗ったマッカラムがやって来た。葦毛の馬で、ランドンより年取っているけれど、丈夫でよく走る。

「おい、ジャス! ほら、鷹狩に行くぞ。お前も覚えておくんだ」

「はい」

 ジャストランドは答えて、またランドンの背に乗った。

 このところ、マッカラムはやけにいろいろ教えてくれる。弓矢、剣の使い方、馬の乗り方、障害の越え方。ジャストランドが何をしていようとおかまいなしに、マッカラムは気まぐれに呼びに来るのだ。

 今のところ、ジャストランドはその誘いを一度も断ったことがなかった。それをさせない強さがマッカラムにはあった。それに、マッカラムの目を見つめると、吸い込まれるようになんでも肯定してしまう。そして、ジャストランドの心の奥の奥の方から、何かが呼び覚まされる。

 それは何なのか? いつもわからない。だけれど、その何かは記憶の深い深いところに眠っていて、喉元までせりあがって来ることがあるのだ。そうすると、ジャストランドは息苦しくなってしまう。

 そんな時、マッカラムの瞳はさらに厳しく強い光を持ち、ジャストランドに食い入るように注がれる。

「おいどうした?」

 とマッカラムが聞く。だけど、どうしたのかはわからない。だから、やっと「なんでもありません」と答えるのだ。


 マッカラムとスヌカの後ろを追いながら、ジャストランドはまた考えた。

(マッカラム兄さんはこれが楽しいのだろうか? うううん…。確かに楽しいのかもしれないけれど…)

 ジャストランドはそんな思いを振り切って、スヌカを見失わないように、腹に力を入れて着いて行った。


 二人はジルの丘で、鷹狩をして、野ウサギを二羽捕まえた。

「これは、クッチマムに持って行ってくれ。たのむ」

 厩舎まで二人で走って帰って来ると、マッカラムは木の棒にくくった野うさぎを、ジャストランドに渡した。

「はい」

 と、そこに庭に散歩に出ていたジャスミンが通りかかった。

「あら! マック! お久しぶり!」

 その声で、マッカラムの表情が硬く凍ってしまったようになったのを、ジャストランドは見た。それは今まで見たこともないようなマッカラムの様子だった。

 ジャスミンは薄いピンクのレースの日傘をさして、ゆっくりとこちらに近づこうとしていた。

「ね、たまにはお顔をお見せになって」

 ジャスミンの声はいつになく、高く、空気をよく伝わっているように聞こえた。

 マッカラムは下を向き、それには答えずに、スヌカを走らせた。

「マック! お願い! たまにはお顔をお見せになってね!」

 そのすがるようなジャスミンの姿も、またジャストランドには初めての感覚だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ