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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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マッカラム (1)

 マッカラム・ジルムンドリドは二度目の結婚式を挙げた。

 一度目に結婚式を挙げたハナはクラスメイトだった。彼女とはセロト駅のセロト大学校で知り合った。セロトとは中央という意味で、この駅はジャム郡のほぼ中央にあり、黒ディーゼルと赤ディーゼルが交差する乗り換え駅になっている。ジャム郡では一番にぎわっている町だ。

 ここには裁判所、電話局、水道局など公共の施設が集まっていて、その中でもセロト大学校は一番広い敷地を使っている。この郡では唯一の大学校だ。


 マッカラムの父も母もこの学校の出身だったので、マッカラムは十歳になろうという頃から、この学校に進学するということを疑ったことはなかった。

ハナは勇ましい少女でマッカラムの鷹狩にも一緒に付き合ったし、馬も乗りこなし、走りながら弓を的に当てるのも上手だったし、マッカラムのやることを何でもおもしろがって、一緒によくいろいろな所に遊びに行った。

 セロトで生まれ育った娘で、父上は経済学者だったけれど、勉強はとんと嫌いで、とにかく身体を使って走ったり、踊ったり、泳いだり、すべったり、飛んだりすることが好きな少女だった。いつも明るくて屈託がなく、学生時代には一番気の合った良い友達で良い彼女だった。


 ハナはいつも何でもはっきりと物を言う。マッカラムはその彼女のまっすぐな強さに魅かれ、明るさに魅かれ、一緒にいることが自慢だった。

 マッカラムの黒い瞳は、どんどん父親のジャスクールに似てきていた。その目の奥には強く光るものがあった。ハナはマッカラムの目を見て話すことが好きだったし、ハナが自由にふるまうことを楽しんでくれる良い相棒になった。だから、学校を卒業してからも付き合っいて、じゃスクールが亡くなったあと、二人はすぐに結婚式を挙げたのだ。


 ハナは、そんなに豪華な結婚式を望んでいなかった。でも、マッカラムが言うとおりに、マッカラムの通う教会で、マッカラム・ジルムンドリド区に住む人々を皆集めて誓いを立て、マッカラム・ジルムンドリドの丘の整地された芝生の広場いっぱいにテーブルを並べ、イスを並べ、すばらしいごちそうを並べ、楽団を呼び、夜がふけるまで踊り続けた。

 でもどうしたことだろう。その宴が終わったら、マッカラムの気持ちはもうすっかりハナから離れてしまっていた。

 マッカラムはそのことについて、まったく意味がわからなかった。ただ、ハナがいけないのだろうと思った。

 ハナはマッカラムが好む、青いきれいな目、ふっくらとした唇、亜麻色のやわらかい髪をしていて、じゅうぶんにかわいかったけれど、料理もできないし、掃除もできないし、片付けも嫌いだった。そんなことは使用人がやってくれるのだから、生活はちっとも困らなかったのだけれど、一緒に暮らし始めると、彼女ができないいろいろな小さいことにいちいち腹が立って来て、マッカラムはすぐにハナの顔を見るのもいやになってしまった。

(あいつは遊ぶことしかできない)とマッカラムは苦々しく思った。一緒に遊び歩いていた時には、そんなことには気がつかなかったのだ。


 ハナのことを見向きもしなくなったマッカラムを、ハナは何とも思っていなかった。ハナは自分の世界を持っていて、相変わらずよく動き、よく出かけ、良く食べ、よく遊んでいた。でも、マッカラムが細かいことに何でも腹を立てていて、ハナに笑顔を向けてくれなくなってからは、ハナも細かいことに気が付くようになってしまって、ケンカが絶えなくなった。

 結婚式からひと月経ち、ハナは自分がここにいなくてもいいのだ、と気が付いた。

「あなた、あたしのことが必要じゃないのね!」

 とハナはマッカラムに詰め寄った。マッカラムは答えるのもいやだったので、「ふん」と言ったきり、自分の部屋に入って行ってしまった。

 その部屋の外で、

「なによ! いいことばかり言って! あたしが必要だと思うからこそ、ここに来たというのに! あなたがそんなに失礼な人だとは思わなかったわ! あたし、こんな所にはもういられないわ!」

 と言って、そのまま出て行ってしまった。

 マッカラムはむしろそれで心底ほっとした。


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