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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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マミリ (2)

「あ、ごめんなさい。マミリ。もしかして、レイとはおつきあいしていないの?」

「う、うん」

 マミリの頭にはレイの青白いそばかすの顔、小さくびくびくしているような茶色い目が思い浮かんだ。

「つきあうっていっても…、何か言われたこともないし…。そういうこと、ぜんぜん考えられない」

「そうかもね。ちょっと細くて頼りないかもね。でも、代々お役人のお家だし、レイもお役人になったし、結婚相手としてはいいんじゃないかしら」

 マミリには返す言葉が見つからず、シャリーの顔を見る気にもなれず、ただ下を向き、サミーとシャリーの写真を見るしかなかった。

「それとも、もしかしてグリーの方がお気に入り? 彼ならサミーと同じディーゼルの車掌さんだから、サミーが言ってくれるわよ。もしマミリがつきあう気があるのなら」

 マミリの頭に、黒のチリチリ頭の、眉毛の太いグリーの顔が浮かんだ。確かにこの三人の中で一人を選ぶなら、ブロンド、青い目で少しがっちりしているサミーが一番いいだろう。そして、そんなにすごくではないけれど、マミリはちょっぴりサミーならいいなと思っていたのだ。「そんなにすごくじゃない」とマミリは心の中でもう一度思い直した。(あの三人の中なら一番だけど。世界の中でだったら、一番にはならないわ)。

でも、なんだか冷たい風に吹かれているような、気持ちを引きしめなければいけないような感じになって、マミリは口をしっかりと結んだ。

「おめでとう」

 それだけ言うのがやっとだった。

「ありがとう」

 シャリ―はなんだか浮かれていて、まだまだ話したいことがあるらしかった。

「あのドレスはどう思った?」

「え? ええ、ステキだったわ」

「そうでしょ。あれね、サミーがいいって言って、選んでくれたの。あたしの髪の色に似合うって」

「いいわね」

 マミリは自分を励まし、心を浮き立たせようとがんばった。

「あの服を来て、サミーのお家にごあいさつに行くことになったの。だから…、これからは、皆で一緒に会うってことができなくなるけど、結婚式には来てくれるでしょ。スコロバでね、挙げることにしたの」

「ステキね!」

「でね、でね…」

 それから、サミーと海に行ったこと、サミーがお家にあいさつに来たこと、シャリーのパパが最初はダメだと言ったけど、それから毎日仕事が終わるとサミーがやってきて、とうとうパパを説得してくれたこと、そして手をつないで歩いたこと、仕事帰りに迎えに行って、ディーゼルの運転席を見せてもらったこと、などなどなどなど、シャリーの話は途切れることがなく、話は永遠に続く感じだった。


 マミリはとにかくがんばった。そして最後まで笑顔でいて、「またね」と別れたけれど、なんだか帰り道に悲しくってきて、八百屋までの帰り道、トロトローっと時々涙が流れてくるのだった。

 手にはおみやげにもらったジャスカのチョコサンドの袋をぶら下げていた。

もう、このチョコサンドでは弟たちの言うことをきかせることはできない。あの騒がしい八百屋の店先で今もムーニーは陽気な声を上げていて、時々はマミリも手伝って声を上げているけど、弟たちはちっとも手伝いなんかしなかった。

ラルクレの畑を手伝うのも嫌い、みな大きくなってセロトやスコロバなど大きい町に働きに出て行ってしまった。


 そんなあたりまえの自分の家族のことが浮かんできて、むしゃくしゃしてきて、マミリは涙を拭き拭き歩いていた。だけどいったい何が悲しいのだろう。それさえもわからなかった。


 ムーニーの八百屋はもう店じまいしている時間で、薄暗くなっていた。店に近づきながらふと前を見ると、タイラが森の入り口のほうに曲がるところだった。カラスたちが相変わらずタイラを追いかけるように群がっている。

 タイラは今も八百屋に買い物に来ることがあるので、姿を見るのは珍しいことではなかったが、いつもあいさつをするていどで、話をすることはなかった。

 タイラも大人になり、あいさつをする時にはニコリと微笑むようにもなったが、変わらず人を寄せ付けないような雰囲気を持っていた。

 だがなんだか、この日マミリはタイラに話しかけてみたいような気持になり、思わずタイラの後ろを追いかけた。


 タイラの方では、カラスの様子が変わり、警戒の声を出しているので、ふと立ち止まった。

後ろから人が追いかけて来ている? と気が付くとパッと振り返り、タイラとマミリは二人で向き合った。

 そのタイラを見て、マミリは意味もなく追いかけて来た自分が急に恥ずかしくなり、立ち止まると下を向いた。

「あら、マミリ! こんにちは」

「あ、タ、タイラ。こんにちは」

「どうしたの? 何かあったの?」

 何か話したかったような気がしていたのだけれど、改めてタイラに聞かれると、バカらしい気持ちになり、マミリは口ごもった。

「おばさまはお元気? たしか…。さっき明るいうちに店の前を通った時にはお元気でいらしたけど?」

 タイラはマミリの意図をさぐるように、じっとマミリを見つめた。

 その時、グワラがグウァと鳴いた。

「ふふふ。あたし、道に立ち止まって人と話をするなんてことがないから、なんだかグワラが、あなたのことを怪しく思っているみたいだわ」

「グワラ?」

 マミリは、タイラがなんのことを言っているのかわからなくて、ぽかんとしてしまった。

「あ、ごめんなさいね。カラスの名前なの。一番最初、カラスの巣から落ちて鳴いていたカラスの名前なのよ。鳴き声のままの名前なの。今のグワラは二代目になったところ」

「あ、そ、そうなの…」

 なんだかタイラに話しかけてしまって、失敗したな、とマミリは思った。

「あなたはどうなの? 元気?」

 そうタイラに聞かれてマミリはまた口ごもった。

「え、ええ。元気よ」

「あなたのお友達も、みな元気なのね?」

「え、ええ…」


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