マミリ (1)
その日、シャリ―はアキの店で、できたてのドレスを試着していた。クリーム色の生地に青、オレンジ、ピンクの花が散りばめてあるドレスで、白いレースの襟が付いている。
ウエストはきゅっとしまって、同じ柄のリボンを後ろで大きく結ぶと、シャリ―は鏡の前でくるりと回って見せた。
シャリ―のママのジューリもそれをうれしそうに眺めていた。
「ほんと、ステキ。この生地、光沢もあってあなたにピッタリ。いいのがあって良かったわね」
「これで髪をセットして、同じリボンを結ぶの。帽子にも同じリボンをつけてもらうようにたのんだの」
「いいわね」
そのドレスを仕立てたアキもうれしそうにそれを見ていた。
そこにマミリが顔を出した。
「来てくれたのね!」
とシャリ―がマミリを迎え入れた。
「ね、ね、このドレスどう思う?」
マミリは一瞬ムッとした。なんで、こんなドレスを見るためにここに呼ばれたのかがわからなかった。
「うん、うん、いいね。ステキ。よく似合っているわ」
「良かった。マミリ。あなたにそう言ってもらうと、すごく自信がわく」
「そう?」
マミリは正直、ちょっとシラケた気分だった。
「じゃあ、とにかくドレスは一度しまって、それから出かけてちょうだい」
ジューリが言った。
「ね、マミリ。待っていてね。あたし、すぐに着替えて来るから」
マミリはぼーっとして、シャリ―の後姿を眺めた。
「ごめんなさいね」
とジューリが言い、マミリはハッとわれに返り、あわてて笑顔を作った。
「とんでもない、おばさま。あんなステキなドレスを着ることができるなんて、マミリがうらやましいわ」
「どうしても、あなたに一番先に伝えたいというの。シャリ―がね」
「あら。そうですか」
「家のパーラーでね、お菓子でも召し上がって行ってね」
ジャスカの店は相変わらずの人気のお菓子屋だったが、二年前にカフェもでき、他の駅からもたくさんの人がここでパフェやケーキを食べるのを楽しみにやってくるようになっていた。
「お待たせ!」
と、シャリ―が弾んだ声でマミリの後ろからマミリの腕に自分の腕をからませた。と、その指にきらりと光る指輪が輝いていた。
「あ」
とマミリが声を上げた。
「ふふふ、ね、行こう、行こう」
シャリ―がマミリの手を引っ張って「ママ、ドレスお願いね」と言いながら外に出ると、
「早く、あなたに報告がしたくてたまらなかったの」
と言った。その浮かれ方になんだかマミリは着いていけず、なんとか笑い顔を保つのが精いっぱいだった。
「ね、どういうことなの?」
やっとそれだけを言った。
「こんな所で歩きながら話せない。恥ずかしい…。でもね、なんとなくわかるでしょ?」
「え? どういうこと? 婚約したっていうこと?」
マミリはシャリーの指輪を見つめて言った。
「そう」
「だれと」
「わかるでしょ?」
マミリにはさっぱりわからなかった。
ジャスカのカフェは満員だったので、シャリ―はマミリを自分の部屋に招き入れた。
「ちょうどいいわ。写真も見てもらうから」
シャリ―はうれしそうに、外側をピンクの生地で製本してあるアルバムをマミリの目の前で開いた。そこにはマミリとサミーがうれしそうに恥ずかしそうに一緒に並んでいる写真がたくさん貼ってあった。
「サミー?」
「そうよ。そうに決まってるでしょ。あなた、わかっているかと思っていたわ」
マミリはポツンと一人置いてきぼりにされたような気分になって、一瞬笑顔が強ばった。
ここ一年の間、マミリ、シャリー、サミーを加えた男女五、六人でよく集まってピクニックに行ったり、セロトやスコロバまで行ったりすることがあった。だけど、シャリーとサミーが付き合っているなどという話は一度も聞いたことがなかった。
「もともとね、サミーはあたしに声をかけたくて、マミリにも声をかけたんだって。いつもあたしがマミリと仲がいいからって。それで、ついでにレイやグリー、アンジェにも声をかけて、だんだんあたしに近づいてきたの。ね、なかなかの策略家でしょ?」
「そ、そう…」
マミリには他の言葉が見つからなかった。
「あなたとレイはどうなの?」
「え?」
「サミーが言っていたの。マミリのことかわいいねって、レイはいつも言っていたんですって」
「へえ」
「この間ね、サミーと一緒に映画に行った時に、プロポーズされたの。あたし、びっくりしたけど、すごくうれしくでドキドキしたわ」
「そ、そうなの」
そして、二人の間に少し溝ができた。




