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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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海辺の小屋 (3)

 ザルクールは何重にも包んだ、ひと塊もある包みを渡した。

「こんなにあるのか?」

「だんな。雨の日を選んで来なさったね。それはわかっているが、薬は湿気が大嫌いなのでね。厳重にくるんでおかないと効き目がなくなる。一回分はほんの少し。それが三回分。一つずつ小さい包みになっている。その外側を何重にもくるんでいる包みは、雨から効き目を守る鎧とでも考えてくんな。なるべく雨を避けて、服の中に抱えて、落とさないように帰るんだね」


 それから約五年にわたって男は毎月毒を買いに来た。それだけ長いつきあいになると、ザルクールにも男の正体がわかってきた。よけいな話をいっさいすることはなかったが、どうしたって顔がはっきりわかるようになってしまう。その男はどうやら、ジルの駅の領主の息子らしい。

 だが、ザルクールはもちろん、そのことは一言も口にしなかった。もしこの男が秘密を消そうとしてザルクールに向かって来たら、その時には、その秘密が静かに暴かれるように、周到に用意していたのだ。

 ザルクールは、手のひらにすっぽり隠れる細い金属のビンの中にその秘密を詰め、そっと隠しておいた。同じものは三つ用意してある。小屋の外の伝書鳩の足にくくりつけたものが一つ。ザクのゆるい首輪にくくりつけたものが一つ。そして送り先が書かれた封筒に入れてあるものが一つ。


 もし、ザルクールがこの男に裏切られるようなことがあれば、その気配を確認した時に手紙を出す。そして伝書鳩を空に放ち…。

 ザクは? たぶん自分のそばを離れることはないだろうが、それが外だったら、誰かがザクの首輪に気が付くかもしれないし…。まあ、自分が死んでしまえば、その後は確かめることはできないが…。

 そんな恩知らずを生かしておかないために、最低限自分でできることはやる。そうしないと気が済まない男なのだ。


 だがそんな心配ごとは起こらず、ある時から、男はもうぷっつりとザルクールの元には来なくなった。そして、ある日、魚市場に行った時、ジルの丘の領主、ジャスクール・ジルムンドリドが死んだことを知った。漁師や集まった客たちがうわさしあっていたのだ。

「ジャスクール・ジルムンドリドが死んだってな」

「なんでも、領主を継ぐのは、マッカラムという一番上の息子らしいな」

「知ってっか? あの家のな、奥さんも同じ病気で死んだらしいぞ。うつる病気らしい。だから、魚を売りに行っら、中に入らないほうがいいってうわさだ」

「なんの病気だ?」

「さあな、寝込んでいる間に、だんだんからだが溶けていくとか、そんなうわさだ」

「こわいね~」

 この時、ザルクールは毒を買いに通ってきていた男の名前がマッカラムだということを知った。念のため、三つに分けた秘密に、男の名前を書き足しておいたほうが良さそうだ。そしてあと数年はその秘密は捨てないようにしよう。

 金持ちの男だ。殺し屋を雇うことも考えられる。

 ザルクールはいつものように、むっつりと魚を売ると、ザクを連れてまた小屋に帰って行った。

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