表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロウ   作者: 辰野ぱふ
11/53

海辺の小屋 (2)

 ある雨の日。

 やはりザルクールは海岸線を歩いていた。小屋を出た時にはまだ雨は降り出していなかった。どうせそんなに大雨にはならないだろうと踏んでいたのだが、ほどなくして弱い雨が降り始めていた。引っ張っているかごには水はたまらない。だが、暗くてよく物が見分けられなくなってきた。もう寒い季節の始まりだったので、雨に当たって、身体がすっかり冷え切っていた。ザクもしょぼくれて、なんだか元気がなくなってきていた。

「やれやれ、今日はもう帰るか」

 ザクの方を見ると、ザクもザルクールを見上げていて、クーと悲しそうな声を上げた。

「そうだな。今日はあたたかいスープが必要だな」

 ザクはうれしそうにしっぽを振った。


 ザルクールは出かける時には小屋に明かりをつけない。雨の日には月も出ないから、小屋に近づくとあたりは真っ暗だった。ザルクールはランプに火を灯し、それをたよりに歩いていた。が、小屋に近づいて行くと、小屋の入り口にぼんやりと黒い男が立っているのがわかった。

暗闇が好きなザルクールは暗い中でも影を見分ける目を持っていた。ザルクールは驚きもせず、何も見つけていないかのように、いつものように小屋に向かった。

「おまえがロジモンか?」

 と、その黒い影が聞いた。

 ザルクールはその男の声には答えず、身体で黒い男を避けると、ギロリと怖い目だけを向けた。ザクはうなって、黒い影に飛びかかる準備をしていた。

「ロジモンなのか? どうなんだ?」

 黒い影が重ねて聞いた。

「さあな。だんな。人にものを聞くときには、まず自分の身分名前を明かしてからでないとな。人の所に訪ねてきて、礼儀を知らない輩には答えられねえな」

 ザルクールはかごにランプを置くようにかがみ、置くと同時にそこに備えていた棒をつかみ、身構えると男をにらんだ。

「名前は…、明かすわけにはいかない」

 と影の男が言った。

「じゃあ、何か見せるんだな」

 黒い影はしばらく考えて、マントの下から、ピカピカ光る金貨を見せた。それはぼんやりした光のなかでもはっきりわかる。純度の高い金貨のようだった。

「欲しいものは?」

「毒」

「その金じゃあ足りねえな」

「ここは寒い、中に入れてくれ」

「それじゃあ、ここでマントを脱いでくんな。こわい物持っていないとも限らねえんでな」

 黒い影は小屋の前に張り出した屋根の下で黒いマントを脱いだ。ザクは用心深く男を嗅ぎまわった。

「銃と剣は、ここに入れてくんな」

 ひっぱっていたカゴをザルクールがあごで示すと、黒い影は仕方なしに、右足に沿って隠していた剣と、ズボンの中に隠していた銃をそのカゴに入れた。ザルクールの声は低く心の底にひびいてくるようで、その態度に隙はなかった。嘘は通用しないと直感したのだ。


 ザルクールが小屋の扉を開け、いくつかのランプに火をともして暖炉に火をくべる間、黒い男は入り口で待たされ、ザクはまだうなって黒い男をにらんでいた。

「その椅子に座ってくんな」

 ザルクールが言うと、男はテーブルを前にして、出口に近い椅子に座った。

「で、どんな毒だい?」

「味もなくにおいもなく、少しずつしっかり身体にたまっていって、ある時、一度に効いてくる毒。数年かかってもしょうがない」

「それを一度に売るわけにはいかないんで」

「どういうことだ?」

「いい毒は、効き目がずっと長持ちするということはないんでね。ここから持って帰ったら、少しずつ、最低でも三日に一回、なるべく早く使う。そして使い切ったらまた買いにくるんだね。

 それにさっき持っていた金貨だがね、それではまあ三回分くらいの薬しか売れねえな。だけどな、この毒は飲んでいる本人はまったく気が付かねえ。少しずつだが、しっかり身体の芯にたまっていくんだ。だから金がかかってもしょうがないと思ってくんな」

 男は少し考えた。

「しょうがないだろう」

 男は納得して、金を払った。帽子を目深にかぶっていて、顔ははっきりとは見えなかった。でもザルクールは気にしなかった。どうせこの男はまたここに来ることになるのだ。

 それに男はずいぶんと若い声をしている。まだ子どもといってもいい年齢に違いない。それをさとられないように声を落とし、威厳をもって接してはいるが、ふと出した手が小刻みに震えているのがわかった。

 今ならザルクールの方が力があるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ