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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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ムーニーのやおや(1)

話を広げすぎてしまいました。

クロウとはカラスのことです。

カラスに関係のあるお話が書きたくて書き始めました。

 ここ、ジャム・サ・ドラは終着駅で、赤いディーゼル機関車がたどり着く。ホームは二つしかない。

ホームの上にホームの長さだけの屋根があって、駅の建物はない。電車の中に車掌さんが来て切符を回収するから、改札もない。降りたその場所から、ジャム・サ・ドラの町だ。


 駅から続くまっすぐ大きな一本道の両わきに、たくさんのお店が並んでいる。その商店街はいつもにぎわっている。その道のどん詰りにある八百屋は、いつも一番活気がある。

道はまるでその八百屋を目指して突き刺さっているような感じで、その八百屋を境に右と左に分かれて続く。


 店の女将のムーニーはまるまると太っていて、いつも袖なし。皆が寒いと言って、厚手のセーターを着ている季節でも、うすいものを着ているだけ。だいたい、赤、緑、黄色などの明るく目立つ原色を散りばめたシャツに、たくさんのヒダがお尻を包むスカートをはいている。つやつやとした黒髪を長く伸ばして、いつも頭の真上にまんまるいおだんごにまとめている。

 

 ムーニーには四人の子どもがいる。いちばん上の娘マミリはよく店の手伝いもするし、勉強もできて、ムーニーの自慢なのだけれど、その下の三人の息子、ジャニ、ドニ、バリーはなかなか言うことを聞かない。ジャニが七歳、ドニは一つちがいの六歳。バリーはまだ三歳だ。

この三人の男の子はいつも毛糸玉のようにからまって、騒いで遊んでいる。仲がいい時も悪いときも、とにかくからまって、笑い、たたき合い、逃げたり追っかけたり、八百屋の店の中はそれでなくてもにぎやかなのに、もう、ガシャガシャザワザワどうしようもない騒ぎになる。

「ジャニ、ドニ、バリー! 外にお行き! お店で騒いじゃあいけないって、いつも言っているでしょ!」

怒ったムーニーの声がひびく。

そして、そのすぐあとに、お客に向かって

「そのキュウリね、朝採れたばかり! 新鮮よ! この店のものはみんな新鮮!」

 とニコニコ笑って言って、

「はいキュウリ三本ね。トマトも買ってくれれば、この新鮮な青豆を一つまみおまけするよ」

 ポンポンと弾むように言うから、お客もついつい「じゃ、もらおうか」と答え、「はい、トマトも三個、それとももっといる?」

 たたみかけるように言うから、お客はトマト一つだけ買おうと思っていてもムーニーのリズムに乗ってしまって言い出せず、「や、それでいい」となって、トントンと商売がうまい。


 ジャニ、ドニ、バリーは怒られた時にだけ、ささーっといなくなり、すぐに戻ってきてまた走り回っている。時にはムーニーのスカートの中に走り込むこともある。だってムーニーのスカートはいつもふっくらふくらんでいて、ヒダを引っ張ると、中にぽっかりとかくれ場所ができる。

だから、ジャニがドニを怒らせて追いかけられて、どこかにかくれたい時。またはドニがバリーをからかって、「バカ! バリー、マヌケ、バリー!」とどなって、バリーがその声を探す前にスカートの中に逃げ込むといったぐあい。

 ムーニーは、イライラして、

「もう! この子たちは、なんで店で遊ぶんだい! 外を走っておいで!」

 スカートをはたいて子どもたちを追い出す。ジャニ、ドニ、バリーはそんなこと聞いてもいない。でも、そのまま外に走り出して行くこともある。


 マミリは十一歳になり、いつも弟たちのいたずらにはほんとうに手をやいていて、口もききたくない。だから弟たちに顔を向ける時は、口を真一文字に結んでいる。

 マミリはジャニ、ドニ、バリーの扱いに手慣れている。三人が店でからまっている時には、ほうきを使って、ゴミを掃き出すようにこの三人を店から追い出す。その時も、もちろんニコリともしない。

「さ、さ、外にお行き! 今度、あたしのことたたいたら、もうぜったいに、ジャスカのチョコサンドは分けてあげないからね!」

びしっと言う。


 ジャスカの家は、この商店街でいちばん甘くておいしいお菓子を作っているお店で、ジャスカ家の娘シャリーとマミリは大の仲良し。

ジャスカで作っているチョコサンドはおいしくていつも売り切れになるけれど、シャリ―がちゃんとマミリの分を取っておいてくれるから、食べ損ねることはない。マミリはそれを武器に弟たちを言いくるめる。

 だって、マミリを怒らせたら、本当にチョコサンドをひとかけもくれない。怒ったままならひと月だってふた月だって、ちょっともくれない。だから、マミリが「出てけ!」とどなると、三人は毛糸玉のようにからまって店から退散する。すぐに戻って来ることもあるけれど、とりあえずは言うことを聞くのだ。


 そんなふうにムーニーの店はいつも笑いにあふれ、活気にあふれ、来ているお客も楽しくなる。それに、ほんとうにここの野菜はおいしくて、みずみずしい。

 ムーニーの夫、ラルクレが心をこめて作っている。ラルクレは無口で、細くて、ムーニーの後ろに立ったらすっぽりかくれてしまうような人だけれど、まじめで、コツコツよく働く。野菜のことならなんだって知っている。


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