逆ドッキリ
「ラーめ〇、ツケめ〇、ぼくイケめ〇」
男は反応を待つ。
もう少し待つ。
視線だけ会場に向ける。
客入りはいい。
だが、みんな微動だにしない。
目で懇願してみた。
反応はなかった。
「ラーめ〇、ツケめ〇、ぼくイケめ〇」
もう一度、叫んだ。
彼はどうぞ、というによう客席に手を差し出した。
笑ってくれという合図のつもりだ。
しばらく待つ。
さらに叫ぶ。
「ラーめ〇、ツケめ〇、ぼくイケめ〇」
会場の反応はなかったが、彼の心は折れていなかった。
彼は空気が読めない。
今、大人気のイジラレ芸人だ。
彼はゆっくり歩き出す。
舞台の下手、上手を往復し、
客を覗くように眉毛に手をかざした。
「お客さんはどこに行ったのかな?
スタッ〇ーーーーー」
彼は右から左へと見渡す。
それでも、客席の反応はなかった。
「ラーめ〇、ツケめ〇、ぼくイケめ〇」
もう一度試した。
やはり反応がない。
彼はハンカチを取り出し、額の汗を拭く。
「ここは空調が効いてないのかな~」
彼は口に手をあてる。
「スタッ〇ーーーーー」
しーーーん、と客席は静まり返っていた。
ネタを繰り出すが、何も反応が無かった。
彼はチラチラと舞台左上を見た。
時計が気になった。
持ち時間20分を過ぎても、笑いが一つも起こらない。
残り10分に迫っていた。
その時だった。
突然、上手から太った男がやって来る。
「ドッキリで~~す」
『ドッキリ』と書かれたプラカードを持っていた。
客席から歓声で溢れた。
「市長の星野です」
太った男がタネを明かした。
「もーーー」と言って、彼は崩れ落ちた。
彼はうつ伏せになり、手足をばたつかせた。
客席からさらに笑い声が巻き起こった。
彼が立ち上がると、
市長は彼の背をポンと打った。
そして、彼は舞台の下手に消えて行った。
ちょうど30分だった。
その後、彼は再び舞台に登場し、
ビンゴゲームを芸人らしく仕切った。
こうして、彼は市政60周年イベントの営業をつつがなく終えた。
『・・・、ありがとございました。
さすがは名探偵』
スマホから聞こえるお礼に藤崎は表情を変えなかった。
『また、お願いします』
藤崎は苦虫を潰した。
今回は、人気芸人のネタを作って欲しい、
というマネージャーからの名探偵藤崎誠への依頼だった。
テレビ出演、地方営業でネタを作る時間がないそうだ。
小説を書く藤崎は面白そうだと思い依頼を受けてみた。
そうして、藤崎は得意分野の時事ネタ、科学ネタで3本の漫談を作ってみた。
25分の、ピン芸人のためのネタだった。
藤崎が提示したネタを見たマネージャーは即座に却下した。
A4、20数枚にぎっしり書かれ台本、それが3冊あった。
「彼はそんなに覚えられません。
もっと面白いやつ」
確かに彼の芸風と合っていなかった。
ちょっと待ってください、と藤崎はマネージャーを呼び止めた。
瞬時に考えたアイデアを伝えた。
「それ、いいですね」マネージャーは顔を崩し、
「ウケたら、成功報酬はたっぷり払います」と言った。
藤崎が、SNSでネタバレしたら、何度も使えない、と言うと、
「彼のキャラなら大丈夫です」とマネージャーは答えた。
そう、藤崎が考えたのは主催者側がドッキリを仕掛けるという企画だった。
主催者側は事前に観客に「絶対に笑わない」よう客に趣旨を説明した。
客は見事にドッキリを成功させ、大いに盛り上がったのだ。
『また、お願いしますよ~』
藤崎の返事がないので、マネージャーはもう一度念を押した。
「名探偵にお任せあれ」
藤崎はスマホを持ちながら、見えない相手に頭を下げた。