表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

第9話一度死んでるんだがこれって初めてのチュウになるのか?

 部屋に響き渡る嘲笑したような女の笑い声。

 その声は黒いもやから出ていた。


「治そうとしたね! サムカ! だが、これは治せないよ! 治そうとすると急激に症状が進む魔法のろい

 私が作り出した最高傑作の魔法ものさ! あんたにこの魔法のろいが解けるか? 治せるか? 

 愛する人を失う気持ちを味わうが良い!! 私を裏切ったこと後悔させてやる!」


 それだけ言うとその声は聞こえなくなる。

 そして、俺はその声と内容に疑問を募らせていた。


 サムカ? 一体誰のことだ? 今、この場に居るのは俺とウル、そしてロランさんだけだ。

 サムカなんて人はいない。

 恐らくだが、これはあらかじめ組み込まれていたもの……レコーダーのように録音してあったものだろう。

 言葉から察するにサムカって人に何か恨みが––


「うぅ……があっ!」


 苦悶の表情でうめき声をあげるロランさん。


「パパ! しっかりするっす!」


 そして、ロランさんに心配そうに声を上げるウル。


 俺はそんな状況に優先順位を間違えたことを恥じる。


 って何考えてるんだ俺は! 今大事なのは犯人探しじゃない! ロランさんを一刻も早く助けることだ! 

 くそっ! どうする!? これは病気なんかじゃなかった! 魔法だ!

 しかも、治そうとすれば悪化する……だが、このままほっといたらウルの親父さんは間違いなく死んでしまう。時間もない。 


 冷静になって考えようとするがウルの叫びとロランさんの呻き声が焦燥を押し上げる。


 ……考えろ……考えろ。何か……何か方法があるはずだ。



 そんな焦りのなか俺は突発的に一つの考えを思いつく。


 ――治せないなら、壊してしまえばいい


「ウル! 俺を殴れ!」


 その考えを思いつくと同時に俺はウルに叫んだ。


「何いってるんすか! パパが死んじゃうっす! このままじゃパパが死んじゃうんすよ!」


 だが、ウルは取り乱し聞く耳を持たない


 くそ! こうなったら!





「……んむっ!」


 俺はウルの体を無理やり引き寄せ、キスをした。ウルの唇が俺の唇に触れる。ウルの唇はしっとりと濡れていて柔らかかった。

 ウルは小さな体をびくんと震わせ、驚きの表情をしていた。


「んっ……あっ……ぷはっ! 急に何するっすか! こんな時に何を考えて――」


 そして、ウルはすぐさま唇を離し、俺を突き飛ばして文句を口にする。しかし、途中でその言葉はとぎれる。


「なんすか……その姿は……!」


_______________________________________



「えっと、コップで何処にあるんだろう? 人の家だから勝手がわかんないなぁ」


 私は下の台所でコップを探していた。


 それにしてもやっぱり初めて会う人って緊張しちゃうなぁ。

 ウルちゃんはまだ小さい子(本当は私より少し下って程度だけど)だし、ノラには一方的な親近感があって初対面でもそんな緊張しなかったけど、他の人はまだ……なぁ。

 なんとか克服しないといけないよね。


 そんな事を考えていると探していたものが見つかる。


「あっ! コップあった! ここに置いてあったのね」


 そして、私がそのコップを手に取ろうとすると二階から笑い声や叫び声が聞こえる。


 何か騒がしい……? ロランさんが治って喜んでいるのかな?


 そう思いながら私はコップを取る。

 しかし、今度ははっきりと声が聞こえてくる。


「――死んじゃうんすよ!」


 !? 今のはウルちゃんの声。死んじゃうって何かあったの……!? 


 私はウルちゃんの言葉に危機感を感じ、手に取ったコップを戻すと急いで階段を上る。


 何があったの? 魔物が現れたとか? 

 でも、それならノラとハーフとはいえヴァンパイアのウルちゃんががいるし大丈夫なはず。

 何より、この家には幻影魔法がかかっている。並の魔物が入ってこれるわけがない。


 私の頭の中で様々な可能性が巡る。

 そして、ロランさんの部屋につき、扉を開けたときに目に入った光景はそのどれもを否定したものだった。


 黒いもやに包まれ、苦しむロランさん。目を見開き、驚愕しているウルちゃん。



 ――そして、赤く輝くノラ。



 今、何でこんな状況になったのかわからない。

 けど、ノラは絶対的破壊者テクノブレイクを発動させている。それはつまり、何かを破壊するってこと。その対象は……?


「ノラ! 何で絶対的破壊者それを発動しているの!?」


 私は最悪の展開を予想しつつも、それが違うってことを願いながら聞いた。


 ……だけど


「ロランさんを楽にする」


 そう言い放ったノラはグレガスを倒したときのような冷たい目をしていた。


 何で? ユグドラシルは効かなかったの? 何で? ロランさんはあんなに苦しんでいるの? 

 嘘よね、ノラ……そんなことしないよね? ロランさんをその苦しみから解放するために絶対的破壊者それころすなんてことしないよね?


 私の足はよろよろとすがるようにノラに向かって歩いていた。


「パパに何するつもりっすか!?」


 そこにウルちゃんが涙を流しながらも怒りの表情で問いただす。


「悪い、今は説明している余裕も時間もない」


 しかし、そう言いノラはロランさんにゆっくり近づいていく。


「パパに触るなっす!」


 そのノラを止めるためウルちゃんはノラに飛び掛かろうとする。


「――ダメ! ウルちゃん!」


 だけど、私は咄嗟にウルちゃんを体で抑える様に制止する。


 今のノラに触れたら、ウルちゃんまで……。



「ノラ! やめて!」


 私は必死に叫んだ。

 だけど、ノラにはまるで聞こえてないようだった。その目にはロランさんしか見えてない。そんな感じだった。そして――


「やめてええええええええええええええええ!!」


 私の声は届かず、ノラの手はロランさんに触れてしまった。 







 そして、次の瞬間――


「「ふふぇ?」」


 私とウルちゃんはつい言葉にならない声を出してしまった。

 なぜなら、


「苦しさが……なくなった」


 ロランさんが起き上がったからだ。

 しかもその体に一切の傷はなく、顔も晴れ晴れとしたスッキリした表情だ。


 え? ノラは絶対的破壊者テクノブレイクを使ったんじゃないの?


 私は解答を求める様にノラの顔を見る。

 すると、ノラはやり遂げた顔で答える。


「ふぅー。成功したー。ロランさんから原因となってる魔法のろいだけ壊したんだ。

 こうゆうの初めてだったから集中してて、説明する余裕なかったんだ。ごめんな」


 絶対的破壊者テクノブレイクを解除したノラはいつもの笑顔でそう言った。


「え? 楽にするってのは……?」


「ん? ロランさんの魔法のろいを消して楽にするってこと」


 まさかの言葉に一瞬私は思考が停止する。そして、すぐさま怒りがこみあげてくる。


 ……はぁ!? 何よそれ!? もうちょっと言い方があったでしょうよ! 

 おかげで変な勘違いしちゃったじゃない!


 私がノラに軽い怒りを覚えていると、ウルちゃんは私の手を抜け、ロランさんに泣きながら抱き着く。


「パパー!! 良かったっす!! 本当に治って良かったっす!!」


「心配かけたね。ウル」


 そして、ロランさんも優しくウルちゃんを抱きしめた。

 

 そんな二人にノラへの怒りも消え、安堵の気持ちが湧き上がってくる。


 でも、本当に良かった。ウルちゃんとロランさんが救われて。

 それに、ノラが人を殺さずに済んで……。



_______________________________________




「この度は命を救って頂き、本当にありがとうございます」


「いやいや、気にしないで下さい」


 俺は深く頭を下げるロランさんに言う。


 だけど、この問題、絶対的破壊者テクノブレイクで解決できたのならユグドラシル――三百万イアーいらなかったよなぁ。

 まぁ、結果論なんだからしょうがないんだけど。


「今度必ずお礼のほうはさせて頂きますので」


「いやいや、そんなそんな」


 お礼が三百万イアーとかないかなぁ。


 俺がそんなちょっとゲスイことを考えているとロランさんの横にいるウルが何やら眉間にしわを寄せている。


「どうした? ウル、そんな難しい顔をして。親父さん助かったんだぞー」


「ちょっと考え事してたっす。でも、もう決めたっす」


 ウルは決意したような表情でそう明言する。


 決めた? 何をだ?


 すると、ウルはロランさんのほうを向き、話しかける。


「パパ、ウルは掟に従うっす」


「!?……そうかい。それがウルの決めた道なんだね……。なら、そうしなさい」


 ロランさんは面食らったような表情の後に、悟ったように言った。

 そして、それにこくりと頷くウル。


 待って、俺にはどういうことかわかんないんだが。急に何の話してるんだこの親子。


 エルザに無言で説明を求めるがエルザもわからないようで首をかしげる。


「ノラ、聞いてくださいっす!」


 そんな俺達の疑問をよそに真剣な表情でウルは言う。

 ウルのその態度に不思議とこちらまで緊張してしまう。


 すると、ウルはかしこまったように跪く。そして、


「我ウリュ――!」


 盛大に噛んだ。


 おい、ウルなんか知らんがそこは噛んじゃダメなんじゃないか? 

 ロランさんも苦笑いしているじゃないか。


 ウルは恥ずかしそうに顔を赤くし、改めてといった風に咳ばらいをする。

 そして、深く息を吸い口を開く。


「我ウル・カルレトナ! 

 貴公の誉れ高き行為に深く感謝を申し上げる! 貴公のおかげで我の魂より大切なものは護られた! 

 掟に従い、その恩義返すため、我の魂を矛とし! 我が身を盾とし! その全てを捧げ敬意を払わん! 

 貴公を主とし、生涯の忠義を誓わんとす!」


 突然、言い出したウルらしからぬ口調に俺は困惑した。


「……え? ちょっとまって、どういう事?」


 そして、意味がよく理解できずウルに質問する。


「ヴァンパイアは受けた恩義は絶対に返すんす。そして、今回ウルが受けた恩義は最大級のものっす。最大級の恩義を受けたらヴァンパイアはその者に忠誠を誓うっていう掟があるっすよ」


 ウルは照れくさそうに頬をポリポリと掻きながら言った。


「……えーと、つまり?」


「あーもうわかんない人っすね! つまり、ウルはこれから従僕としてノラに付き従うってことっすよ!」


 ウルは煮え切らない俺にイライラしながらそう叫んだ。

 だが、俺はまだ信じられないでいた。


 え、従僕って……。つまり、従僕ってこと!?


「それに……」


 びっくりしている俺にウルは続ける。今度は何やらもじもじしている。


 まだ何かあるのか? これだけでもかなり驚いているんだが。


「それに、ウルのファーストキスを奪った責任を取ってもらわないとっす」


 ウルは頬を赤く染めながら、キャー言っちゃったーみたいな感じで照れている。

 しかし、そんなウルと違い、場は凍り付いている。

 さきほどは、言葉の意味がよくわからない俺であったが、今の言葉ははっきりと理解することが出来た。

 そして、この状況のやばさも……


「……ノラ、どういうこと? 私が居ない間に何があったのか説明してもらえるかな?」


「ノラさん、命を助けてもらったことは感謝しておりますが、それとこれとはまた別。

 どういうことか説明してもらえますかな?」


 エルザとロランさんの顔は笑っているが、ものすごいプレッシャーを放っていた。


 ちょ、ちょっと、二人とも怖い! 顔笑ってるけど目が笑ってないよ! 








 そして、このあとエルザとロランさんによる事情説明という名の尋問が二時間ほど行われた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ