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第7話ロリコンではないです

「――さてと、このお嬢ちゃんどうしたものかしら」


 ダニエルはロープで椅子に縛りつけた少女を見ながらつぶやいた。

 俺とダニエル、エルザの三人でやっとのことで捕まえた盗人少女。

 捕まえる際にとてつもなく暴れたので今はロープで縛って宿の一室に入れている。


「うー……不覚っす。まさか、宿泊先に盗んだ相手がいるとは」


ふぁふぁふぁ(ははは)、 はまーひろ(ざまーみろ)ほのふほばき(このクソガキ)!」


 ちなみに、その時の暴行は何故かほぼ俺が受け、顔中腫れまくりでうまく喋れないでいる。


「何言ってるかわかんないっす」


ぼばえのへいはろうか(お前のせいだろうが)!」


 俺の顔をみて、クスクス笑っている少女に言葉にならない突っ込みをするがこれも多分聞き取れてないんだろう。

 またもや、笑われてしまう。


「……ノラちゃんはとりあえずエルザに治してもらってきなさい」


ふぁい(はい)


 俺はダニエルに言われた通り奥でおいで、おいでしているエルザのところにいく。

 エルザが初級回復魔法(ヒール)を唱えると痛みは引き、顔も元に戻る。


「あーあーこれでまともに喋れる」


 てか、あのガキに殴られたとき淡くだが刻印光ってたよな……

 つまり、このちんちくりんに殴られて多少なりとも興奮しちまったってことかよ。

 ……ロリには興味ないはずなんだけどなー


 俺は少し複雑な気分になりながらも再び少女の前に立つ。

 そして、金を盗られた事と殴られた怒りをぶつける様に言う。


「おい、ガキ! とりあえず、盗った金を返せ! 

 返したらガキのイタズラってことで自警団には突き出さずに帰してやる!」


「ウルはガキじゃないっす! ウル・カルレトナというちゃんとした名前があるっす! 

 それにこう見えてウルは十六歳っすよ!」


 は? 嘘だろ? どうみても小学生くらいにしか見えないんだがこれが日本だとJKだと? そんな訳ないだろ。


「変な嘘を吐くな! どうみても小が……じゃなくて十歳やそこらの幼女だろ!」


「いえ、ノラちゃんこの子の言っていることは恐らく本当よ。

 さっきの力からもしやって思ってたけど。その見た目にそぐわぬ年齢を聞いて確信したわ。

 ……あなたヴァンパイアね」


 そこにダニエルが口をはさみ、ウルと名乗った少女に同意を求める。

 少しの沈黙の後、ウルは後ろめたそうにこくんと頷き


「……正確にはハーフヴァンパイアっす」


 と付け足した。


「え、じゃあこいつ討伐した方がいいのか?」


 俺はヴァンパイアと聞き反射的にダニエルに聞く。

 ヴァンパイアといえば、人の血を吸う化け物で悪い存在と思っていたからだ。

 だが、ダニエルの返答は予想外の物だった。


「別にしなくてもいいわよ。ヴァンパイアは人に友好的だし、何より絶滅危惧種の種族よ。

 ヴァンパイアは強く、寿命も長い誇り高い種族。

 だけど、ヴァンパイアにとって人の血は生きる上で必要不可欠の存在なの。

 だから、私たちは死なない程度に血を捧げ、その代価として他の魔物から守ってもらっていた。

 いわば共存の関係なのよ」


 なるほど、この世界ではヴァンパイアは別に悪者というわけじゃないのか。


「でも、それなら逆に不思議だわ。ヴァンパイアは掟によって人に仇名すことをしてはいけないはず」


 ダニエルの言葉にウルは顔を背けるようにうつむく。

 そこにエルザがやってきて、ウルの前で目線を合わせるように腰を落とす。


「ウルちゃんでいいかしら?  

 私の知り合いにもヴァンパイア一族の人がいたんだけど、その人は言ってたよ? 

 ヴァンパイアは誇り高く掟を重んじる一族。掟を破るくらいなら死ぬ方がマシだって。

 それほど、あなた達ヴァンパイアにとっては掟は大事なはず。どうして、それを破ってまでお金を盗んだの?」


 エルザは諭すように聞いた。そして、その時のエルザの顔はどこか悲しそうだった。


 しばらくの沈黙の後、ウルは重々しくその口を開いた。


「……そんな掟ウルには関係ないっす。

 そんな一族の人たちが決めた勝手な掟なんて今はどうでもいいっす! ウルには今お金がいるんす!

 ……大事な人を……パパを助けるためにはお金がいるんす!」


 そう言ったウルの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「どういうことか説明して? ウルちゃん」

 

 ウルはエルザのその質問に観念したかのように答える。


「……ウルのパパは人間っす。ウルはヴァンパイアのママと人間のパパの間に生まれたハーフヴァンパイアっす。それでウル達三人は人里離れた深い森で静かに暮らしていたんす。

 パパの農業を手伝ったり、ママと一緒に魔物狩りをしたり、お金はあまりない貧しい環境だったけどとても楽しかったす。ウルはこんな日常がずっと続くと思ってたんす。

 ……けどそんな当たり前だった日常は! ウルの大切で大好きな日常は壊れてしまったっす!」


 ウルは叫ぶように語り、俺たちはそれを何も言わず聞いていた。

 そして、ウルは続ける。


「一か月前パパが急に倒れたんす。なんで倒れたかはわかんないす。色んな魔法を知っているママでさえわかんなかったんす。それから、少ししてママは他の魔法使いに助けを求めに行ったっす。

 ママはすぐに戻るっていったんすけど、全然戻ってこなくて……パパも日を追うごとに体調が悪くなっていってて……。んで、このままじゃパパが死んじゃうって思ったときにこの街で伝説の神薬ユグドラシルが売り出されたって聞いたんす。でも……でも……」


 ウルは涙のあまり言葉がでてこなくなっていた。

 それにエルザは優しい口調で聞いた。


「でも、それを買うお金がなくて盗んでしまったってこと?」


 エルザの質問に涙を流したまま無言で頷くウル。


 それを見て、俺は単純に可哀想だと感じた。お金くらいあげてもいいのではないか思うほどに。

 だが、そう感じたのは俺だけではなかったようでエルザは立ち上がり俺の方を向くと


「ノラ、あの百五十万イアーは本当は私がもらうものだったのよね? それなら盗られた百五十万イアーは私の物ってことにしてこの子に盗られたままでいいわ。だから、お願い! 見逃してあげて!」


 と俺に深く頭を下げ、懇願した。


「……ダメだ。あれはエルザの金じゃなくて、俺たちの金だ。あげるのは二人の金をだ」


 俺もこの子を助けたいと思った以上、エルザ一人に負担させるわけにはいかない。


 俺はそう感じ、エルザと同じように腰を落としウルに質問する。


「ウル、ユグドラシルっていう薬は買えそうなのか?」


「……あと、少しお金が足りないっす」


「ユグドラシルを使えばお前の親父さんは治るのか?」


「……わかんないっす」


「……そうか。なら、お前に俺たちの残りの金をやる。

 それでユグドラシルを買え。

 だけど、その代わり俺も親父さんの無事を見届けさせてもらう。いいか?」


 ウルは俺の言葉を聞いてさらに涙を流した。体の中にある水分が全部出てしまっているんじゃないかと思うほどに。

 顔も元の顔とは違いぐちゃぐちゃだ。


「……ありがとうっす! 本当にありがとうっす!」


「バーカ、そういうのは親父さんが治ってからだろ?」


 俺はそう言ってウルの頭を優しく撫でた。

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