第6話すごく……固いです
「賞金がかけられている魔物を倒すだなんて、すごい新人が現れたな」
「本当に倒したのか? なんかの間違いじゃねーのか?」
「くそー、エルザちゃんとあんな仲良く……」
ざわついているギルド。そして、その様々な声は俺たちのことを指していた。
あの戦いの翌日、俺とエルザはグレガスにかかっている賞金を受け取るためギルドに来ていた。
受付の人もまだ冒険者となって数日も経ってない俺が倒したということで最初は怪しんでいたが、冒険者カードを確認し、嘘ではないと気付くと驚きながらも報酬を支払ってくれた。
その額三百万イアー。この世界の通貨単位イアーは日本の円とほぼ同じみたいなので、かなりの大金だ。
そんな大金にエルザは動揺を隠せないでいる。
「す、すすごいわね。は、初めてのクエストでこんな大金もらえるなんて」
「何言ってるんだよ、半分はお前のだぞ?」
「ええっ! 私の分!? 何で!? 私何もしてないわよ!?」
なんでこいつはそんな驚いているんだ? こうゆうのは山分けが普通じゃないのか?
「いやいや、パーティーを組んでたんだから当たり前だろ。それに街まで運んでもらったし」
そう言って俺は半分の百五十万イアーを手渡すが、エルザは受け取るのを躊躇している。
「でも、倒したのはノラのあのすごい魔法で私何もしてないし。
そもそも運ばなきゃいけなくなったのは私が悪いんだけど……」
あぁ、そんなことを気にしていたのか。
そのすごい魔法を使うことができたのがあんたのおかげなんだけどな。
まぁ、エルザに絶対的破壊者のことは何も言ってないからわかんないだろうけど。
絶対的破壊者には発動条件がある。それは使用者の最も強い欲が現れたとき。
つまり、俺の場合は性的欲求が現れたときだ。
なので、あの時エルザのパンツを見なければ、俺は絶対的破壊者を発動できなかったのだ。
だが、俺はそれをエルザに説明してない。
お前のパンツ見たおかげで勝てたよ、なんて言えるわけがない。だから俺としては何も言わず報酬を受け取ってほしいのだが。
「いいから受け取ってお――」
俺がエルザに無理やりにでも渡そうとすると背中に軽い衝撃を感じる。
そして、後ろを見ると黒いローブを被った小柄な人物がいた。
顔はローブで見えないが声と背丈から女の子だとわかる。どうやらこの子がぶつかったみたいだ。
「……ごめんなさいっす」
その女の子はぺこっと頭を下げ謝罪するとそそくさと歩き出す。
やけに小さいけど子供か? なんでこんなところに?
俺はそんなことを思いながらふと自分の手を見る。
すると、さっきまであったはずのものがなくなっているではないか。
「おい、待て! お前金とっただろう!」
瞬間的にさっきのぶつかった奴が盗んだとわかり出口に向かって歩いているその人物を呼び止める。
「ちっ! ばれたっすか」
そして、そいつはそう悪態づくと走り出す。それを見て俺も追いかける。
くそ、また走らねーといけないのかよ! 昨日、さんざん走ったつーの!
「止まれい! 卑怯者!」
だがそこに、見ず知らずの大柄なモヒカン頭の男が立ちはだかる。
「誰か知らないがありがとう! このまま挟み撃ちで捕まるぞ!」
モヒカンのおっさんは無言で頷くとローブの盗人を捕まえるために手を広げる。
だが、少女はそのままおっさんに向かって走り続ける。
そして、少女とおっさんが触れようかというとき、
「捕まえ、とぅぬわ!?」
おっさんから変な声がでる。
なんとその盗人は二メートルはあろうかというおっさんの上を人離れした大ジャンプでかわしてたのだ。
「て、ちょ、おっさん危な――」
そして、俺は走っている勢いをとめれず、おっさんとぶつかってしまう。
その時俺はおっさんの固く引き締まっている胸に触れ、ナイスバルク! と思ったのだった。
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「「ただいま……」」
俺とエルザはモッサリーナに帰ってくると沈んだ声で言った。
「おかえり、エルザにノラちゃん。どうしたの? 元気ないわね?」
「いや、色々とあって」
あまりの疲れから説明するのがめんどくさいと感じ、お茶を濁す。
なぜ、俺達がこんなに疲れているのかというと、盗られた百五十万イアーを取り返すため、必死に街を探し回ったからである。しかし、いくら探してもその少女は見つけられず、骨折り損だ。
そして、夜も更けてきたので今日は諦めて、明日自警団にでも相談しようという事になりモッサリーナに帰ってきたのだった。
くそ、あの盗人野郎め! あ、女だから野郎じゃないか。ってそんなことはどうでもいい!
あいつが盗らなければ百五十万もの大金だったのに!
そんな事を思いながら自室へと向かう。エルザも疲れているようですでに部屋に行っていた。
「ごめんくださいっす。泊まりたいんすけどいけるっすか?」
「もちろん、大丈夫だわよ。一泊でいいのかしら?」
俺の後ろでは客が来たらしくダニエルが接客している。
ん? ちょっと待てよ……『っす』? それにこの声……
俺は聞き覚えのある声と喋り方にハッと後ろを向く。
そこにはピンと先がとがった耳にウェーブがかった短めの黒髪。そして、あどけないながらも生意気そうな顔をした少女がいた。
「ん? ……あっ!」
俺の視線に気づきその少女もこちらを見て、思い出したように声を上げる。
「かくほおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして、その瞬間俺は夜間にも関わらずバカでかい怒声を上げ、その少女にとびかかった。
ナイスバルクとはボディビル言語で良い筋肉という意味のほめ言葉です。