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第3話冒険者になりました

「ねぇ、あれが噂の……」


「あぁ、そうだ。最近やってきた……」


 俺が街を歩いていると村人たちがヒソヒソと話しているのが聞こえる。そして、その会話は恐らく俺のことを指しているんだろう。


 俺がここに来てから数日が経っていた。俺が現れたところは”ヘルメス”という街で他の街に比べ比較的平和な街らしい。ゲームに出てくるようないかにもRPGって感じの街で、街中には村人だけでなく、商人やたくさんの冒険者達がいた。


 俺はそんなこの街で早くも有名人となっていた。


「自身の一物を晒しながら可憐な女の子を連れまわしていた変態の露出魔ヤローだ!!」


「ちがーう!! なんか色々とちがーう!!」


 しかし、有名になるというのは良い方向とは限らない……。



 ______________________________________________________________________________



「ただいまー」


 俺は宿屋”モッサリーナ”に帰ると、ダニエルに言った。今、ここは俺の仮宿であり、自宅である。


「おかえりなさい。どこに行ってたの?」


「いや、ダニエルが言っていた噂を確かめに街中をブラブラしてきた」


 実は先ほどの有名になっているという話はダニエルに聞いたもので、その話の審議を確かめるため、街に出ていたのだ。


 そして、それも街に行った理由の一つなのだが、真の目的は他にあった。

 それは異世界の街というのが見てみたかった。ただそれだけだ。

 俺は養生のためこちらに来てからほとんど街に出ておらず、しっかり街を見てきたのはこれが初めてだったのだ。


 そして、俺は一つの決心をしていた。


「それより、冒険者になろうと思うんだが、どうすればいいんだ?」


 そう、それは冒険者になること。街の住人達に聞いて知ったのだが、この世界にはゲームのRPGと同様、冒険者というものがあるらしい。

 やっぱり、異世界に来たんだし、それらしいことがしたいということで俺は冒険者になろうと思ったのだ。それにいつまでもここでニートみたいにいるのもどうかと思うしな。


「……ただいま」


 そこに、がっくりしながら、元気のない声でエルザが現れる。 


 どうやら、エルザもここに住んでいるようで、外から帰ってくるときはただいまと言っているようだ。ただ、今日はちょっと様子がおかしい。手に持っている杖や服、そして、髪には土埃がついていて、疲れ切っていた。 



「あら、ちょうどいいときに帰ってきたわ、エルザ。ノラちゃん冒険者になりたいみたいなの。

 帰ってきたばかりのところ悪いんだけど、ギルドまで案内してあげて」


「え、今から? クエスト失敗して意気消沈してるのに……」


 エルザの顔はまるでこの世の絶望といった感じで、正直案内してもらうのが心苦しいんだが。


 しかし、ダニエルはそんなエルザを説得する。


「ほら、考えてみてエルザ。ノラちゃんが今から冒険者になるってことは先輩よあなた。先輩として後輩に色々教えてあげなきゃ。それに今のクエストだって二人でやればきっとクリアできるわよ」



「……先輩。先輩か」

 

 ダニエルの言葉を聞いたエルザは、嬉しそうに先輩という単語を噛みしめると、たちまち元気になっていく。

そして、


「しょうがないなぁ、先輩・・! である私が案内してあげましょう!」


と先輩という部分を強調しながら承諾してくれた。


 _____________________________________________________________________________



 冒険者というのは様々な依頼クエストをこなし報酬をもらう職業である。

 その報酬はピンキリで、死ぬ危険性が高い、つまり、難度の高いものほど報酬は大きい。

 さらに冒険者というのは特別なシステムによって簡単に魔法を覚えることができる。なので、簡単に強くなりたい人やお金を稼ぎたい人に人気の職業らしい。


 そして、その冒険者となるには俺達が今いる場所、街でも一番大きな建物であるギルドで冒険者登録をしなければいけないのだ。


「すごい賑わっているんだな」


 俺は予想外の人の多さに驚愕していた。

 ギルドの中にはテーブルや酒場も併設されているためか、とても多くの人で賑わっていたのだ。

 まるで、祭りでも行われているかのようだ。


「すごいでしょ? ここはクエストを受けたりするだけでなく、パーティーの待ち合わせだったり、情報交換するために使われていたりで冒険者の交流の場にもなっているんだから」


 エルザは腕を組み、得意げに俺に説明してくれる。


「そうなのか。……ん? じゃあエルザもそのクリアできないクエストとやら、ここでパーティーを組んで挑めばいいんじゃないのか」


「い、いや、私はそのソロでやりたいというかなんというか……」


 さっきまでの得意げな姿はどこへやら、エルザは目を泳がせながら小さな声でそう言う。

 

 そして、その反応から俺は察した。

 エルザが仲間がいない、いわゆるぼっちなのだとということをだ。

 

 ……可哀想に。


 そうエルザへ同情の目を向けていると、


「な、なによぉ! それより受付はあそこだから早く行ってきなさいよ! わ、私はこういう場は好きじゃないから外で待っているから!」


 涙目でそう言って、外に出て行ってしまった。


 俺は何も言わずその姿を見送ると、言われた通り受付に向かう。

 受付は二つあり、ごつい男の人と巨乳で茶髪の美人な女の人がいた。

 俺はもちろん女の人の受付に並ぶ。しかし、そう考えるのは俺だけではないようで、俺の前には数人の冒険者が並んでいた。


 そして、並んでいる間、暇だったので他の冒険者のことを見ていた。

 冒険者の中には、鎧を武装し大きな剣を携える剣士やローブに身を包み杖を持っている魔法使い。そして、エロ装備を身に着ける女冒険者がいた。

 俺は特にその女冒険者を注意深く観察する。


 うーん、やっぱりRPGといえば、やっぱエロい装備だよなー。

 よく女主人公にエロい装備装着して、遊んでたわ。現実で見るといいもんだなー。


 すると、俺の右の手の刻印が小さく光っているのに気づく。


 また、光った……? もしかして、これエロい事考えると光るのか?

 テミス様からもらった能力となにか関係があるのだろうか。


 そんなことを考えていると俺の順番が回ってくる。

 

 順番が回ってきたことで前に進み、受付のお姉さんがはっきりと見えるようになる。

 その人は美人なのだが眠たそうな目をしており、すごいやる気のなさそうな人だった。

 

 まぁ、別にそんなことどうでもいいか、と俺はギルド加入希望の旨を伝える。

 

「すいません、ギルドに加入したいんですけど」


「あ、変……こほん、ギルド加入ですね。それではこちらに名前をお書きください」


 お姉さんの言い直しに少し引っかかったが、特に気にせず、俺は言われた通り差し出された紙に名前を書く。


「えっと、お名前は変態……じゃない、黒神ノラ様ですね。それでは、変……黒神ノラ様の基礎能力についてご調べします。 変た……黒神ノラ様の基礎能力により、選べるクラスが違いますので」


「……おい、あんたわざと言っているだろ」


 俺の突っ込みを無視しそのお姉さんは俺に手をかざすと、何やらメモをとる。 

 そして、それを終えるとそのメモを見ながら話す。


「変態様は魔力が低い以外はだいたい平均ですね。ウィザードやビショップ系統のクラスは無理ですがファイターやシーフなどの一次職ならなれますがどういたします? 変態様」


「おい、諦めんな。それで貫き通そうとするな」


 なんだ、この対応。こんなのダメだろ。

 人のことを何回も変態、変態と言いやがって……! 

 ここの従業員はちゃんとした教育を受けてないのか!

 ……罵るならもっと挑発的な目でやるべきだろうが!!


 俺は心の中でそう突っ込んだ。

 



_______________________________________________________________________________



 結局、最後まで受付のお姉さんは俺の名前を呼んでくれなかった。ちょっと憤りを感じたが、タダでそういうお店に行ったのだと思うと不思議と得した気分だった。

 ちなみに、クラスはシーフを選んだ。若干だが、瞬発力が平均より高かったからだ。

 そして、冒険者の証でもある冒険者カードをもって外にいるエルザの元に向かった。


「エルザ、お待たせ……って、どうした?」


 エルザは膝を抱え込んで体育座りで顔を伏していた。


「あのね……さっき冒険者カード落とした人がいたから、それを拾ったの。んで、そのカードってレベルやステータスだけじゃなく、討伐したモンスターや成功したクエストも記入されるのね。

それで、その人の冒険者カードに私が一週間かかってもクリアできないクエストが記入されてたの……レベルやステータス私よりも低いのに……。しかも、返すときにそのことを聞いてみたら、十分くらいでクリアできたって……」


 エルザは目には光がなく、とても深い悲しみを背負っているようだった。


「……そっか」


 俺は一言だけそう言い、肩を落とすエルザを連れ、モッサリーナへと帰って行った。

 そして、その夜、俺はエルザのやけ酒に遅くまで付き合わされることになったのだった。









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