第2話魔王さんごめんなさい
まばゆい光が消え、俺はゆっくり目を開けた。
そこに広がっていたのは、中世ヨーロッパの様な街並み。レンガ造りの建造物と豊かな自然が織り交ざった情緒ある風景だった。
元の世界ではまず見ることがないであろう景色に俺は感動した。
そして、そのまま辺りを見渡そうと、眺めるように後ろを向く。
すると、後ろには長い銀髪の女の子が居たようで俺とばっちり目が合う。
俺と同い年くらいであろうその女の子は大きな青色の目をパチクリさせ、すごく驚いているようだった。
お互いの目を見続けていると、女の子の視線は、下へと移る。俺も釣られ目線がそちらに行く。そして、再びその子と目が合う。
「み、見られちゃたー……ははっ……なんちゃって」
外で下半身丸出しの男と一人の女の子。そんな状況から俺は乾いた笑いしか出なかった。
……や、やばい。この格好でいきなり人に会ってしまった。しかも、女の子だ。これ日本なら速攻で捕まるよな……。
そんなあからさまにやばい状況だが、俺は自分の手の甲に何か書いてあり、それが光り輝いているのを見つける。
「き、きゃああああああああああ!!」
しかし、そんな発見はすぐさま頭から抜け出る。なぜなら、その女の子が整った顔を真っ赤に紅葉させ、とてつもない悲鳴を上げたからだ。
そして、その子は足を振り上げる。
――次の瞬間! 見事なサッカーボールキックが俺の玉をシュートした!
「ノオオオオオオオオオオオオオオ!!」
その痛みたるやこの世の物とは思えない途轍もない激痛だった。
そして、俺はそのまま倒れこみ、意識を失ってしまった。
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俺は目が覚める。しかし、今度は真っ白な空間ではなく普通の家だった。
いや、普通ではない。こんな家を実際見たのは初めてだったからだ。
レンガでできた壁に木の床。映画やテレビで見たことはあっても実際見るのは初めてだった。
朦朧とした意識の中、ベッドから上体を起こし、さっきのことを思い出す。
そして、ハッと倒れる前のことを思い出し、自分の一物は大丈夫かと股間の状態を確認する。
うっ、いつつ。まだ少し痛むけど別段支障はなさそうだな。
まさか、いきなりあんな目に合うとは! 不運すぎる。
自分の一物の無事を確認し、先ほどのことの嘆きを終えると俺は顔を上げる。
すると、俺の目の前には青髭を生やしたガタイの良いおっさんがこちらをじっと見つめていた。
「いっ……!?」
俺はつい驚き、声をあげてしまった。
しかし、そのおっさんは一切動揺などせず、喋りかけてくる。
「あら? 私のことは気にしないで。続けてちょうだい。
それにしてもすごいタフだわね。あんなに強打したのに目覚めるや否やオ〇ニーなんて」
「ちっげーよ!! 自分のが大丈夫か確認してただけだよ!!
つーか、仮に俺がナニしてたとしてなんであんたにみられながらやらなきゃいけねーんだよ!!」
開口一番に変なことを言ってくるおっさんに対して、俺は声を荒げる。
「冗談に決まってるじゃない。私はダニエル、この宿屋の店主よ」
冗談に聞こえなかったんだが……。
それはそうとこの人が俺を助けてくれたんだよな。
あっち系ぽいしなんか胡散臭い人だけどちゃんとお礼を言わなきゃな。
「俺は黒神ノラ。ダニエルが俺を助けてくれたんだよな? ありがとう」
「いいえ。私は宿を提供しただけよ。ここまで運んだのは––」
ダニエルが喋っていると、遮るようにドンッ! と勢いよく扉が開かれる。
そこには、あの時の銀髪の女の子がいた。
そして、長く綺麗な髪を揺らしながら俺に近づいてきて、怒りの表情でこう言った。
「貴方なんてものを私に見せてくれたのよ! 本来なら死罪に値する行為よ!
それを蹴り一発で済ませてあげたんだから感謝してほしいわ! ていうか、なんであんな格好でいたのよ!
それに、なんちゃってじゃないわよ! ごまかしのつもり? もう本当意味わかんない!
しかも、あんな蹴りだけで気絶しちゃって大袈裟なのよ! あの状態で放置するのも気が引けるから運ばなきゃいけないし! 街の人たちにはじろじろ見られるし!
第一なんで私が––」
「はいはい、分かったから落ち着きなさい」
いきなり矢継ぎ早に文句をいってくるその女の子をダニエルがつまみ上げ、切り上げさせる。
「でも実際なんで下半身丸出しであんなところにいたのかしら?
エルザが言うには、あっ、エルザっていうのはこの子のことね。
まぁ、この子が言うには急に目の前に現れたって言っていたんだけど」
なんて説明しよう。半裸の状態で死んで、そのまま神様にここに飛ばされました、なんて言っても信じてもらえないよな。
俺は本当のことを言うわけにもいかずとっさに言い訳を考え、そして思いつく。
「えっと、実は……魔王に襲われたんだ。
魔王にズボンとパンツを脱がされ、あそこに転移されてしまったんだ
……くっ、魔王め! 悪質な嫌がらせしやがって!」
どうせ、魔王を倒すんだ。魔王のせいにしとこう。
でも、ちょっとこの言い訳には無理があったかな……?
「そうだったのね。ごめんなさい。
私何も知らずに蹴ったり、色々文句言ったりして。
本当にごめんなさい! 貴方は魔王の被害者だったのね」
しかし、エルザというその女の子は信じてくれたようで、先ほどの怒りの表情から申し訳なさそうな表情へと変わり、謝罪する。
そして、俺に質問してくる。
「そういえば、その手の刻印は何なの? それも魔王にやられたの?」
エルザにそう言われ、俺は自身の手の甲を見る。そこには覚えのない紋様が描かれていた。
あっ、これ蹴られる前に光っていたやつか? なんなんだろう? まぁ、いいや。これも魔王のせいにしとこう。
「実はこれもその時につけられた刻印で。
これを取ってほしかったなら、我を倒して見せよって言われたんだ!
だから、俺は魔王を倒しに行かなければいけないんだ!!」
「そんな! その刻印があるとどうなるのかわからないけどそんな酷いっ! 許せないわ!」
うーん、ちょっと魔王に悪い気がしてきた。会った時に謝っておこう。
そんなことを考えていると俺の腹からぐぅと音が鳴る。
「あっ、お腹すいているのね! 待ってて私何か持ってくるわ」
そう言いエルザは部屋を後にする。
そして、俺はダニエルと二人きりになる。すると、ダニエルが口を開く。
「ノラちゃんさっきのウソでしょ」
み、見破られた!!
やっぱ無理があったか。確かに一般人のパンツとズボンを脱がせて、街に転移させる嫌がらせをするってどんだけちっさい魔王だよって話だけど。
「まぁ、いいわ。何か言えない事情があるのね。悪い人じゃないみたいだし言及はしないでおくわ」
俺の様子を見て、ダニエルはそう言ってくる。
しかし、俺は嘘をついたのにも関わらず信用してくれるダニエルに困惑し、つい
「い、いいのか。そんな簡単に信用して」
と質問してしまう。
すると、ダニエルは優しい目をして、答えてくれる。
「長いこと人を見ているとわかるのよ。その人が信用できるかどうかなんてのは。あなたはきっと良い人ね。目がとても綺麗だもの」
俺はその言葉にすこしむずがゆさを感じながらも、素直に感謝していた。
「そうか。ありがとう。あっ、そういえば、俺宿代なんてもっていないんだがどうすれば?」
「いいわよ。そんなこと気にしないで好きなだけいてちょうだい」
ダニエルは特に気にしてないといった素振りでそう言ってくれる。
この人胡散臭いおかま野郎だとか思っていたけど良い人だ。
何も言わない俺を問い詰めないだけでなく、ここに置いといてくれるなんて。
正直、異世界に転移するって聞いて住居のことが心配だったんだ。お言葉に甘えてしばらくここに住まわせてもらおう。
しかし、俺はダニエルの次の言葉に戦慄する。
「それに、あなたの一物でたくさん楽しめたし。
まぁ、勃〇しないのが残念だったけど。代金はそれが代わりってことで」
「……おい、まて。お前、今なんて言った?」
「さて、私はそろそろ仕事に戻らなくちゃ」
「おい! 答えろ! 俺の体で何をした!!」
俺の言葉を無視しダニエルは部屋を出て行った。
前言撤回、ここからなるべく早く抜け出せれるように頑張ろう。ここにいつまでも居たら俺の貞操が危ない。
すいません
最後のほうダニエルを間違えて、ジャックと書いてしまっていたので修正しました。
もし、よんでてここ間違ってねとか思うところがありましたら言ってくださるとうれしいです。