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第16話もう本当バカなんじゃないかな

「くそ、またか……」


 俺は開いた宝箱を見下ろしながら呟いた。

 俺たちがダンジョン攻略を始めて一時間、魔物は弱く宝箱も至るところにあり、何度も見つけている。


 だが


「何もねーじゃねーか!」


 肝心の中身がないのだ。

 どういう事かと言うとこのダンジョンに来ているのは、俺たちだけではないということだ。

 俺たちより以前にダンジョン攻略をしている冒険者はごまんといる。

 その冒険者達に宝をもって行かれてしまっているのだ。


「やはり、一階部分の宝はほとんど取られてますわね」


「お、お宝がないのならもう帰ろ……?」


 エルザは俺にしがみ付きながら震えた声で言う。


 だが、帰るわけには行かぬ。まだ宝は見つけてないのだ! それに怖がっているエルザを見るのは新鮮で良いからもうちょっとここに居たい!


 そんな願望に思いをはせているとウルが何気ない顔で提案してくる。


「じゃあもっと下に行くっすか?」


「下? 下ってどういうことだ?」


「私がお答えしますわ。ダンジョンというのは大抵、下に続いているんです。さっき通ったところに魔法陣がありましたよね? あれに乗ると下の階層に行くことができますわ。そして、下に行けば行くほど魔物は強くなっていて厄介なんですけど、裏を返せばそれだけ進める冒険者が少ないということですわ。なので、お宝が残っている可能性があるのですよ」


 なるなる。だから、こんな空き箱ばっかりなのか。

 今いるところの魔物はかなり弱いから初心者でも簡単だわな。


「で、でも、今日はもういいんじゃない? 諦めて帰り――」


「そうと決まれば下にいこう! 一階でこの弱さならまだイケるだろ」


 エルザが何か喋ろうとしていたが、それを無視して俺は発言した。


「ちょ、もういいじゃない。私けっこう限界――」


「そうとなれば魔法陣があったところに早くもどるっす!」


「いやいやいや、だから私もうーー」


「楽しいですわねこういうの。私家族としかダンジョンに行ったことないから新鮮ですわ」


「ちょっと、さっきから無視しないでよ!! 本当に結構いろいろ限界きてるんだって!」


 エルザは涙目で叫んだ。

 体をプルプルと震わせ本当に限界という感じだ。


 仕方ない。もうちょっと怖がっているエルザを堪能したかったが、ちょっとかわいそうになってきた。

 何とかしてあげよう。


 俺はエルザの肩に手を置くと


暗視魔法ヴィジョニング


 と魔法を唱えた。

 暗視魔法ヴィジョニングとはその名の通り、暗いところを見えるようにする魔法だ。

 まさにこのダンジョンにうってつけの魔法なのだ。


「どうだ? エルザ。これで少しは怖さが軽減されるんじゃないか?」


「た、確かにこれなら怖くないわ」


 さっきまでびくびく震えていた姿はどこへやら、俺の魔法で周りが見えるようになったエルザは途端に元気になる。


「でも、この魔法いつ取ったの?」


「最初のゴブリン倒してレベルが上がったとき。本当はもうちょっとエルザが怖がって俺の服をつかんだり、抱き着いてくるのを堪能したかったんだけど、本当につら……ってごめんなさい! ごめんなさい! 謝るから無言で腕を極めようとしないで!」


 軽くキレているエルザをなだめると、俺たちは宝を求め下へ向かった。


 _______________________________________


 地下五階。


「うおおおお!! フラム早くしてくれえええ!!!」


 俺は全長五メートルはあろうかというアメーバ状の魔物ジョルスライムから逃げ回っていた。

 このジョルスライムという魔物、打撃や斬撃などの物理攻撃では全く効果がないのだ。

 なぜなら取り込んだものをすぐさま溶かしてしまうから。こいつを倒す方法は魔法攻撃のみ。

 なので、誰かが囮となり引き付けている間に、魔法で倒すのが定石らしい。

 だが、思っている以上に動きが速く、逃げ回るのも精一杯である。

 本当なら俺より素早いウルがこの役目をやったほうが良いのだが、エルザの無言のプレッシャーで俺がやることになった。

 暗視魔法ヴィジョニングを掛けてからエルザの対応が冷たいのは気のせいなのだろうか。


「できましたわ! 白銀の寵愛(ラネージュ・アモール)


 詠唱が終わったフラムが杖をかざすと、周りを冷気が漂ってくる。

 そして、その冷気はジョルスライムを中心に集まり、ジョルスライムの全身を凍らしていく。

 しばらくすると、カチコチに凍ったジョルスライムの出来上がりだ。

 それを見て、安堵した俺はその場でへたり込む。


「ふうー、危なかった。なんでこのスライムこんな素早いんだよ。あと少しで捕まるところだったぞ」


「そのまま捕まっちゃえばよかったのに」


 エルザさん、それ俺死んじゃう。ドロドロに溶かされて吸収されちゃう。


「それにしても、魔物の質が上がってきましたわね。これ以上、下に行くのはやめたほうがよろしいかもしれません」


 フラムの言う通り、魔物がさっきからやたらと強い。一体倒すだけでもかなり時間がかかってしまうのだ。

 一応、潜伏魔法ハイディングで見つからないようにしているのだが、すべての魔物から見つからなわけではなく、さっきのように戦闘になってしまう。

 ここはフラムの忠告に従ったほうがいいだろう。


「じゃあ、この階を本格的に探索していくか。下の魔物はきつそわぁ!?」


 立ち上がろうと腕に力を加えると不意に腕が沈み、声が上ずってしまう。

 手をついた地面を見るとそこだけ凹んでいる。

 どうやら隠しボタン的なものを押してしまったみたいだ。

 すると、後ろからゴゴゴとゆっくり壁の一部が動いていく。

 そして、何もない壁から隠し通路が現れてくる。


「おおー! すごいっす! これノラがやったんすか!?」


 それを見てウルは目を輝せている。


「お、おう! なんか、ここ押せるんじゃねっと思って押してみたら案の定だったぜ」


「さっき声上ずってたし、すごい驚いた顔してたけどわざとだったんだーすごいなー」


 俺の見栄っ張りにエルザは感情のない称賛をしてくれる。

 エルザさん、そろそろ機嫌を直してもらってもよくないですか……。


「こんなのお宝がないわけないっす! 早くいくっすよ!」


 ウルはそう言い一人で隠し通路に行ってしまう。


「おい、ウル待てよ!」


 ウルの後を追うように俺たちも隠し通路の中へと歩きだす。

 中は細い一本道だ。人一人通るのがやっとて感じで、その奥には重厚な扉がつけられていた。


「この扉の先にお宝があるみたいっすね」


 なんでこんな扉なのか疑問に思ったが、それを口に出す前にウルが扉を開け中に入ってしまう。

 俺たちもそれに続き中に入る。


 そこは先ほどまでと違い、松明が等間隔で壁に置いてある広い空間だった。

 松明があるため暗視がなくても奥まではっきりと見える。

 そう、はっきり見えるのだ。


 奥にある宝箱とその前で地響きのようないびきをかいて眠っている魔物の姿が。


 あの魔物は誰しもが知っているだろう。元の世界でだって有名な魔物だ。

 まるでサメのように鋭利に尖っている歯。体表には堅牢そうな真紅の鱗がびっしりと生えている。背中に生える翼と長い首を丸め気持ちよさそうに寝ているドラゴンがそこにはいた。


「な、なぁ、あれってド、ドラゴンってやつか……?」


 初めて見た生のドラゴンの迫力に俺はビビってしまっていた。相手が寝ていようが関係ない。怖いもんは怖いのだ。


 だが、それは俺だけでないようで、


「そ、そそそうね。こ、これはお宝あきらめた方がいいんじゃないかな……」


「ウ、ウルもアレははちょっと……いや、か、かなりきついっすね」


「まぁ、可愛いですわね。気持ちよさそうに寝てますわ」


 金髪魔法使い(バカ)一人を除いて、みんな声が震えていた。

 俺は寝ているドラゴンを起こさぬように小声でみんなに提案する。


「……この部屋は諦めてほかの場所に行こう」


 それに一人不服そうな顔をするが、二人は必死にうなづき承諾してくれた。

 そして、入ったばかりの部屋から立ち去ろうと扉に手をかける。


「あ、あれ……? おかしいな」


 しかし、扉は何故かあかないのだ。さっきはすんなり入れたのに今は押しても引いてもビクともしない。


「何やってるんすかノラ! 早く開けるっすよ!」


 ウルは小声ながらも俺を急かしてくる。


「いや、開かないんだって! ビクともしな……」


 俺はウルに弁明しつつ扉に何か書いてあるのを発見する。


【ざんねーん。この扉は奥の宝箱に入っている鍵を使わないと開けられないよ! 入団経験の浅い子は一人でこの部屋に入らないように気を付けてね♡】


 扉に書いてあるふざけた文を見て、俺はつい怒りをあらわにしてしまう。


「バカにしてんのか!! だいたいこっち側に書いても意味ないだろ! 何? ここの盗賊団ってバカだったの? 何がヴォルーズだ! バカーズの間違いだろうが! マジふざ――」


「「ノラ声が大きい(っす)!!」」


 エルザとフラムが俺の口をふさいでくる。

 俺は二人のその行動にしまった! と蒼白する。

 後ろではドラゴンが寝ているのだ。大きな音を出すと起きてしまうかもしれない。


 俺はそれを確かめるため、恐る恐る後ろを振り向く……。 

 

 ドラゴンの目は開いていた。黄色い猫のような目がしかとこちらに向けられている。

 

 あー……やっちまった。まずい、ひじょーにまずい……。

 

 そして、俺の後悔を増幅させるようにドラゴンは大きな咆哮をあげると、口から炎の塊を俺たちに向け飛ばしてきた。

 

 





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