第1話プロローグ
俺は目が覚める。そして、周りを見渡し驚く。
なぜならそこが見たことのない場所だったからだ。壁も床も天井もすべてが真っ白、ただ白色が広がる空間。
そんな空間に忽然と俺は居たのだ。
「え? 何ここ? 俺なんでこんなところにいるの?」
俺は当たり前ように思いついた疑問をぼそっと独り言のようにつぶやいた。
すると、
「ここは魂の間。まぁ、天国と地獄の一歩手前といったところじゃな」
と、俺の疑問に答える聞き覚えのない女性の声が後方から聞こえた。
俺はその声に反応し後ろを振り向く。
「ようこそ、わしはテミスというものじゃ。この世界を統括している神じゃ」
そこには椅子に座った長い髪の麗しい女性がいた。一目見て俺はその女性に見惚れてしまっていた。彼女の言葉が耳を滑っていくほどに。
――美しい。
それがその女性を見て真っ先に浮かんだ感想だった。
すらりと細い手足に華奢だが出るとこはしっかり出ている完璧と言っても過言ではないプロポーション、そして気品を漂わせる綺麗な顔。
俺が今まで見た中で一番優美と思えるそんな女性だ。もはや神々しさすら感じる。
……まぁ、今はそんなことどうでもいいや。いや、どうでもよくはないんだけど! 可愛いは正義なんだけど!
それより、この人なんか重要なことをさらりと言わなかったか?
「あのーすいません。もう一度言ってもらっていいですかね?」
「じゃから、わしは神テミス。そして、ここは魂の間、死者が来る場所じゃ」
「それって……」
「おぬしは死んだということじゃ」
テミスと名乗った神様はばっさりとそう言った。
いつもの俺ならここで何言ってるんだこの人? とか、夢でも見ているんだろうと思うが、今の俺は不思議思とそう感じなかった。
それはこの人――神様が言ったからなのか、俺が死んでしまったからなのかはわからないが、この女性の言葉は全て真実なんだなという妙な納得感があっただけだった。
「そうなんですか……それで俺は何で死んだのですか?」
自分が死んだというのは正直ショックだ。しかし、それ以上に何故死んだのかという興味が俺の心にはあった。
「覚えておらぬのか? なぜ死んだのかを」
「これっぽちも」
テミス様の問いに俺はきっぱり答えた。
頭の中を必死に探ってはみたのだが、覚えていないものは覚えていない。
でも、やけにすっきりした気分なので案外悪い死に方じゃなかったのかもしれない。
そんな俺を見て、テミス様は深いため息をつく。そして呆れたようにこう言った。
「はぁ~……お主の死因は過度の自慰行為によるものじゃ」
そして、俺はその言葉を――自身の死因を理解するのに少し時間がかかった。
「……えーと? つまり、俺オ〇ニーしすぎて死んだってこと……?」
「そういうことじゃな。じゃからその粗末なものを隠すなりなんなりしたらどうじゃ?」
テミス様はそう言いながら俺のとある部分を指さす。
そして、俺もその指さしている方へと目が行く。自身の股間へだ。
「へ?」
俺はズボンもパンツも穿いていなかった。つまり、下半身には何も身に着けておらず、自身の息子がこんにちわしていたのだ。
「きゃあああああああ!!」
俺は今まで出したことのない悲鳴を上げた。
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俺は股間を手で隠し、テミス様の話を聞いていた。どうやらこれから俺が天国に行くか地獄に行くか決めるらしい。
まぁ、そんな悪いことした記憶ないし地獄行きってことはないだろう。
しかし、あれだな。さっきは悲鳴を上げたが自分の一物を見せるって案外悪い気分じゃないな。
相手が神様ってことでの背徳感と相まって……おっと思い出したら息子がおっきしてきてしまったぞ。
「おいおい、わしに欲情するでない。汚らわしい」
「いやいやいや! こ、これはそんなじゃなくですねぇ!」
あれ? 見破られた? 声には出してないし、股間は手でプロテクトしていて見えないはずなのに。
「わし神じゃからな? おぬしの心くらい読めておるからな?」
え? まじで? 流石神様、すげーな。
あっ、でも、心の中まで見られてる思うとより興奮してきた。
「じゃから、汚らわしいと言っておるじゃろうが!!」
テミス様は椅子から身を乗り出し、声を荒げる。
しかし、俺はそんなテミス様を見て、あぁ、なんかこれ新しいプレイみたいでいいなとか思っているとテミス様はあきらめたようにため息をつく。
そして、分厚い紙束をどこからともなく取り出し、ぱらぱらとめくり目を通す。
「え~と、氏名は黒神ノラ、享年二十二歳、日本の○○県○○市で生を受ける。
優しい両親と一人の妹がいる。比較的平凡な日常だが他者からの評価は良好で善行も積んでいる。
そして、大学に入り、初めてできた彼女に性行の際、早漏が原因でフラれ、それ以来それと女性に対して軽いコンプレックスを抱く。
また、実は性的嗜好において変態的な部分があり、それをひた隠して生きてきた。
そして、隙あらば自慰行為をしており、ある日、自慰行為のし過ぎで過労死――」
「え、ちょちょちょっとまって! その紙なんなんですか!?」
俺は自分自身しか知らないであろう事柄を次々言われ、動揺する。
「ん? これはおぬしの人生のすべてが事細かーく記されたものじゃ。
これを見て天国に行くか地獄に行くかを決めるんじゃよ」
「え!?」
俺はテミス様の返答に驚愕するとともに、冷や汗を流した。
つまり、あの紙は俺の人生の通信簿みたいなもの……。
しかも、人生の全てってことは俺が必死に隠してきた恥ずかしい過去や性癖があの紙に記録されてしまっているということ。
なんだそれ! 恥ずかしすぎる! 新手の羞恥プレイではないか!
いや、ポジティブに考えるんだ俺、逆にそれ以外は大した書いてないはずだ。俺は生まれてから死ぬまで悪事に手を染めたことはないはず! むしろ、かなりの優等生だったはずだ! これは天国に行けるんじゃないか?
「黒神ノラ、おぬしは地獄行きじゃな」
しかし、テミス様は否定するかのようにさらっと地獄行きの結果を宣告する。
「ファ!? え? 何で!? さっき、そんな悪いこといってなかったじゃないですか! あっ、まさか、さっきのテミス様で興奮したのダメだったんですが!? それなら謝りますからどうか寛大な処置を!!」
俺は予想外の結果を受け、テミス様の足にすがりついて懇願しようとする。
地獄がどんなところか知らないが良いところではないのだけはわかる。ここは必至に頼み込むしかない。
「ちょ、ソレを触った手で触ろうとするでない! そもそも半裸で近づくな!!」
しかし、テミス様は俺に触れたくないのか立ち上がると、椅子を盾にし俺を近づけさせないようにする。
そして、テミス様は椅子越しに言う。
「そもそも天国というのはそんなほいほい行けるもんでもないんじゃ。天国というのは良いところじゃ。 まさに極楽と言っていい。じゃからこそ行けるものもかなり限られておる。おぬしは善行を積んでおるが性欲が強すぎるんじゃ!」
テミス様はそう拒否するが、そんなことで諦める俺ではない。俺は必死に食い下がった。
「えー! 善行積んでるならいいじゃないですか!? 地獄なんか行きたくないですよ!」
「そんな嫌がるでない! 別にお前の罪が重いわけではないんじゃから、地獄での勤めなんてすぐじゃ。勤めが終わればまた転生し一からやり直せる。じゃから来世でがんばるんじゃ。……わかったらはよう離れろ!」
そして、そこから俺とテミス様による椅子越しの攻防は十数分続いたが、何をいっても無理ということとそろそろテミス様がマジ怒りしそうだったので、俺は諦め、元の位置に戻る。
すると、そこにプルルルルと電話の着信音が鳴る。
その音はテミス様にかかってきているものらしく、テミス様は紙束を取り出したようにどこからともなく携帯電話を取り出して電話に出る。
てか、神様も携帯電話つかうんだな。
「もしもし、なんじゃ?
……そんなもん地獄から刑が終わった者に能力をつけて転生させてやればよいじゃろうが
……何っ!? しばらく誰もおらぬ?
……よし、わかった、わしが何とかしよう。ミレアスにはあの時世話になったからのう」
何の話だったのか分からないがテミス様は電話をきると、困ったようにため息をつく。
そして、何かを考えだすが、俺を見て何か思いついたのか、にんまりと俺に笑みを向けてきた。
「おぬし地獄には行きたくないんじゃよな? そこで天国に行くチャンスを与えてやることができるんじゃがどうじゃ? やってみぬか?」
「え! マジですか!? やりますやります!」
お、やったーラッキーだ! 何か知らないけど地獄に行かなくても済むっぽいぞ! 何をしなくちゃいけないのかわからないけどせっかくもらったチャンスだ。やらないわけがない。
「そうかそうか。実はな、わしの友達の神が統べている世界が今ちょっと大変なんじゃ。
今、その世界で転生者の数が足らなくてのう。このままじゃ、その世界の人類が滅んでしまうかもしれないのじゃ。
そこでお前さんにその世界に転生して、あることを成し遂げてほしいのじゃ! それを成し遂げられたらおぬしを天国へと連れて行ってやろう!」
「あることって?」
「魔王討伐じゃ!! まぁ、その世界はこっちの世界のファンタジーの元となった世界でな。実を言うとそのファンタジーというものを伝えたのもそっちの世界の住人なんじゃ。昔わしも同じ事態になったのをミレアスという友に助けられてのう。じゃから、そのお返しとして、今度はわしがミレアスを助けてやりたいんじゃ」
なるほど、友達の神に恩義を返すため――その世界を助けるために異世界に行けってことか。しかし、問題があるなぁ。
「俺一般人ですよ? 魔王なんか倒せる気しないんですけど……」
正直ファンタジー世界に行けるっていうのはすごく楽しそうだが魔王を倒さなきゃいけないってなると話は別だ。そんな人類を滅ぼせるかもしれない存在に一般人たる俺が何とかできるとはどうしても思えないのだ。
しかし、テミス様はそんなことわかっておったぞとドヤ顔をかまし、こう言った。
「確かに何の能力も魔法も使えぬ者が魔王を倒すのは厳しい。じゃがら、おぬしには一つ強力な力をわしが授けてやろう。それに今の状態の姿で送ってやるからこっちの知識も使える。これならどうじゃ?」
つまり、チート能力をもって、ファンタジー世界でヒーローになれるわけか。でも、そんな能力あっても魔王なんかに勝てるのか?
あっちでは魔法とかもあるし、魔王だったらすごい魔法使ってきそうだしなぁ。
「ちなみにこれは余談じゃが、あっちの世界は早漏の男性のほうがモテるらしいぞ」
「行く。是非行かせてください」
俺はその情報を聞き食い気味に言った。
「よし、では善は急げじゃ!!」
そう言いテミス様は俺に手をかざしぶつぶつと呪文のようなものを唱えた。
そして、俺の体は優しい光に包まれ、体が空中に浮いていく。
「え、ちょっとまって! 俺何の能力授かったの!?」
「効果はあっちについてからのお楽しみじゃ。だが、わしが授けれるものの中で最も強く、最もお前に あった能力にしといたぞ。その能力名は”テクノブレイク”じゃ!!」
「はぁ!? それ俺の死因と名前が同じってだけで選びませんでした!? なんかネタ感満載ですけど!!」
「大丈夫じゃ!! 効果は折り紙付きじゃ!! さぁ、行くのじゃ!! 勇者、黒神ノラよ!! その身に宿し能力を使い魔王を滅ぼし世界に安寧を届けるのじゃ!!」
俺の体はそのまま浮上し続けていき、目の前はまばゆい光に包まれた。
これから、異世界での冒険が始まる。正直ワクワクしている。能力については若干不安があるけどテミス様が一番強いって言ってたし大丈夫だろう。
まぁ、何にせよ俺は魔王を倒し、絶対天国にいってやる!!
そう意気込んだ俺だが、ふと思い出したことがあった。とても大事なこと。俺の異世界生活スタートに関わる重要なことだ。
「テミスさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 下半身まるだしのままだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」