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中編

学校からの帰り道、また猫の死骸を探した。当然無かった。まあ、本屋に寄るついでだったから別にいいけど。

僕は本屋の駐輪場に停めておいた原付バイクを押して道路まで運ぼうとしたときだった。歩道と車道の境目で小さな猫が震えていた。黒い毛並みだが、尻尾の先端だけ白い。昨日死んでいた猫と同じ毛並みだった。

昨日の猫の兄弟か子供だろうか。僕はそんなことを考えながら猫を目で追った。すると猫はふらふらとした足取りで車の往来する車道の方に歩き始めた。

「まじかよ……!」

僕はバイクを横に倒して、その猫の方に駆け寄り、捕まえた。逃げたり抵抗するかと思ったが、猫は意外とあっさり捕まった。猫は僕の両手にすっぽり収まってしまうぐらい小さくて、骨が透けて見えそうなぐらいガリガリに痩せていた。猫は抵抗しないのではなく抵抗できないほどに弱っているのだとわかった。

捕まえたのはいいが、どうしよう。このままだとこの猫は十中八九死んでしまうだろう。もしかしたら、さっき道路に向かって歩いていたのは身投げのつもりだったのかもしれない。

僕のマンションはペット可だ。そこはいいとして、連れて帰るにしても僕はバイクだ。通学用のリュックサックには教科書が入っている。リュックサックに猫を入れて、もしも糞尿を漏らされたら僕は泣きたくなる。

悩みながらバイクの方まで猫を連れていくと、原付バイクの前かごが僕の目に入った。同級生にダサいと言われながらも荷物用につけた前かごだ。あまり使ってないけど。

ひらめいた。僕は金属の網でできた前かごにタオルを敷いた。その上に猫をそっと乗せる。かごの中に猫を入れて連れて帰るのだ。下に敷いたのは体育の後に使ったタオルなので臭いかもしれないが仕方がない。何も無いよりましだろう。

僕はいつもよりかなり低速でバイクを走らせた。かごに乗せた猫に出来るだけ振動が伝わらないように。車が何度かバイクを邪魔そうに追い越していった。


「ただいまー」

猫をタオルにくるんで抱きかかえながら僕は家に入った。そのままリビングに向かう。

母親はいなかった。念のため他の部屋も探したが見当たらない。きっと買い物にでも出掛けているのだろう。

僕は納戸に入っていた空の段ボールを持ってから自分の部屋に入り、その段ボール箱の中に猫をタオルごと入れた。猫は初めて来た場所に怯えているのか、さっきからずっと震えている。

「ちょっと待ってろよ。」

僕は猫にそう言い残して台所に向かった。

猫にまず何か食べさせた方がいいよな。と冷蔵庫の扉を開ける。冷蔵庫の中にはほとんど酒しか入ってなかったが、奥の方に魚肉ソーセージを見つけた。

「猫だから魚たべるよな……。あと水も必要か。」

独り言を言いながら皿に水を注いだ。魚肉ソーセージも手で小さくちぎって皿に載せる。

「よし、出来た。お待たせー。」

両手に皿を二つ持ちながら僕が部屋に戻ると猫は段ボールから出ずに大人しく待っていた。

僕は猫の顔に水の皿を近づける。猫は水の匂いを鼻の先でくんくんと確かめてから舌でゆっくりと舐めた。

その様子を見て、僕は何だかほっとした。

次にソーセージの皿を猫の口元に近づける。食べてくれるかと思ったが、猫はソーセージの匂いを嗅ぐばかりで手を付けようとしない。手で直接猫の口に運んでも食べようとはしなかった。

ソーセージ腐ってないよな……。賞味期限ちゃんと確認したし……。

僕は試しにひとかけらソーセージを食べてみた。別に変な味はしない。

お腹空いてないのか……。そう思うには猫はあまりに痩せていた。

「何してるの?」

背後から声を掛けられた。びくっとして振り向くとそこには母親が立っていた。買い物帰りのようだ。片手にスーパーのビニール袋を持っていた。

「おかえり、母さん。」

「……その猫何?」

母親がじっとりと段ボールの中の猫を見つめた。恐る恐る僕は口を開く。

「学校からの帰り道拾ったんだ…。」

「……そう。」

怒られると思った僕は母親の淡白な態度に拍子抜けした。

「猫、飼ってもいいの……?」

母親はちらりと僕を見て

「好きにしたらいいわ。」

そう言って僕の部屋から離れていった。

好きにしたらいいか……。

分かっている。今の母親には僕のことなんか映っていない。死んだ兄貴の残像しか映っていない。僕が猫を拾おうとそんなことに気をやっている余裕などないのだろう。

僕は拾った猫の額を撫でた。猫は人に慣れているわけではなさそうだが、僕に体を触らせてくれた。今の僕には血のつながった母親より拾ってきたばかりの猫の方が身近な存在に感じる。

猫にもう一度ソーセージを与えてみる。食べなかった。

「お前、猫のくせに魚嫌いなのかよ……。」

結局、その日猫は水しか飲まなかった。


「おっはよう、相原!」

学校に行くと隣の席の栗田は朝から元気だった。元気過ぎて圧力を感じる。押しつぶされそうだ。

「おはよう、栗田……。」

「あれー?相原、今日元気なくない?」

「ああ、実は昨日、猫を拾ったんだけど……。」

猫という単語に栗田の目がらんらんと輝く。

「猫!?まじで?私、猫大好きー!!

っていうか相原って猫とか拾ったりするタイプだったんだー!意外ー!」

「……最後まで話聞けよ。拾ったはいいんだけどその猫、水しか飲まなくて食事に手を付けないんだ。

昨日、夜遅くまで食べさせようとしたんだけど結局全然食べてくれなかったんだよ。」

僕はそう言いながらため息をついた。一応、水とソーセージをそのまま部屋には置いてきたが、昨日の様子だとなあ……。あの猫今頃餓死してなきゃいいけど。

「ふーん。それで今日は相原元気ないのか……。ちなみにどのくらいの大きさの猫?餌何食べさせてるの?」

「大きさ僕の両手に収まるぐらいで、餌は冷蔵庫にあった魚肉ソーセージをあげようとしたんだけど。」

うーんと栗田は腕を組んだ。

「その猫もしかしたら、まだ母乳栄養がメインの子猫なんじゃないかな?固形物は食べられないのかも……。そういう猫だったら子猫用のミルク買った方がいいかもね。栄養価高いし、ペットショップに行けば普通に売ってるはずだよ。」

ペラペラと的確に喋る栗田を見て、僕はぽかんと開いた口が塞がらなかった。

「……栗田。お前なんかすごい詳しいのな。」

へへーんと栗田は自慢げにピースサインをする。

「だって、うち猫飼ってるもん。うちの猫が産んだ子猫育てたこともあるしー。猫の子育ての先輩?みたいな?

まあ、わからない事あったら何でも聞いていいよー。」

「ありがとう栗田、マジで助かるよ。」

「そう?じゃあ、お礼と言ってはなんですが……、今日締め切りの英作文を写させては頂けないでしょうか……?」

「……まだ終わってないの?」

「終わってないの♡」

さっきまでの頼もしい栗田はどこに行ったんだろうと思いながら、僕は栗田に英作文を書いたノートを渡した。

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