千日紅
小説家になろう様では初投稿となります。病気を扱った物語になります。不快を感じられるかたがおりましたらお読み下さるのをのを控えて頂くよう、あらかじめご了承下さい。
「……っ! あ、……? だ、れ…っ」
「そんなにビックリしないで。私だよ」
「あ、っごめん…」
病室の扉を開けると聞こえる怯え声。だけどそれはいつも通りの事。むしろ彼が今の状態での正常である証。
「お花、花瓶にいれるよ」
「……」
病室に入った時に私を見たと思ったらもう窓の外をボーッと眺める彼。これもいつもの事。ベッド脇の棚に置いてある花瓶に千日紅を飾る。
「今日、調子どう? 普通?」
「……」
無言の空間が生まれる。変わらず外を眺め続ける彼。
「七緒……」
たまらずに彼の名前を呼ぶ。まだ28歳の佐藤 七緒を蝕んだ病の名は。
「……っは…? 若年性、アルツハイマー……?」
「はい。今の医療技術では完治する方法はありません。進行が早いので薬を使って……」
そこから先、何かべらべらと喋られたか全く覚えてない。
病院の帰り道、七緒とは会話がなかった。いつもは楽しいはずの帰り道がひどく重く、苦しかった。
その時の私の頭の中は先の事で一杯だった。
いつか七緒は私との思い出を忘れてしまうの?
いつかは私の事も忘れてしまうの?
自分が誰かも、分からなくなるの?
その時、七緒が私を呼んだ。顔をあげればキスが一つ降ってくる。
「そんな顔すんな。大丈夫。俺は負けない、そんなものに。お前の事も絶対に忘れない。だから、大丈夫」
なんて。安心させてくれた彼との帰り道。
だけど時というものは残酷で。薬を飲んでの生活の中でも彼の病は目に見えて進んでいった。
ある日、買い物から帰ると家の鍵があいていた。……まさか、と思った。案の定、彼はいつも座っていた椅子に、その姿はなかった。
慌ててマンションのエントランスまで降り、道路へ飛び出す。右へ左へ駆け回ったが彼の姿はない。
「……っあ…!」
1つ、思い当たる場所があった。だが、最近の彼に過去の記憶などもうほぼないに等しい。そんな今の状態であの場所まで……。
最後の希望をかけ、息が切れても走り続けた。途中、人の視線が刺さったが気にならなかった。当たり前だ。そんな事、気にしていられるか。一刻を争うんだ。
実は、最近の検診で医師に言われていた。記憶障害がひどくなってきている。目を離すな、と。
来た場所は砂利道の続く河原だった。辺りを見渡せば膝まで水に浸かり空を眺める七緒の姿。
見つけた……! 急いで七緒のそばまで駆け寄る。
「なな」
いいかけて、七緒がこちらを振り替える。
返ってきた言葉は私を絶望の淵まで追いやるのには十分すぎた。