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SS 02-02 帰還に向けて

 「……やり過ぎたかな……」


 シアンは試験管の中に眠っている自分の姿を見て眉間に皺を寄せた。


 「別に問題ないのでは?」


 その横でアンリがそれを見て、何が問題か分からない顔で首を傾げている。

 

 「いや。これ14歳には見えないだろう?」

 「見えませんね」

 「でも、今回やっと開かれた道は、僕がいなくなってから四年後の世界なんだよ。それなのに14歳に見えないのが問題なんだ」

 

 こう、心配そうに言っているシアンもアンリも、最初にこの《事象のゴミ箱》の中で目覚めた時と同じ姿をしている。変わったのは試験管の中で眠っているシアンの肉体だけだ。

 

 「だって、シアン様が色々弄ったからこうなったんですよ?それに人間の成長速度はそれぞれです。地球ではそれがかなり限定的でしたけど、色んな種族がある世界だから問題ないですよ」

 「そうかな……でも、これどう見ても二十歳ぐらいには見えるんだよな……」


 そう。

 試験管の中のシアンの外見は今のシアンをそのまま成長させた姿だったが、どう見ても少年と言うより青年に見える。それもとても整った顔立ちを持った背丈が180cmは超えているスラっとした美青年だった。

 

 「まぁ、色々と戦闘面での欠点を減らすために弄ってる内にこうなってしまったんだよな……この辺で手打ちするしかないっか……」


 時間の流れがないこの箱庭の中でシアンは強さを求め色んな技術を身につけ、自分の肉体をそれに適した体に組み換えっていった。その結果が目の前にいる青年の体だったのだ。


 現世とのゲートを開くための試みは数百回も失敗して、やっと帰還する道が見つけることができたが、時間軸はシアンの失踪から四年後の世界だった。

 

 タイム・パラドックスを起こすかも知れない過去が100回以上、全く関係ない世界に繋がったのが100回以上、色んな分岐に分かれた未来に数百回の末、やっと見つけたのが四年後の世界とのゲートだったのだ。

 

 「でも、本当に前の自分には恐れ入ったよ。こんな気が狂いそうなことをどれほどやったのかと思うとさ」

 「実際狂ったんじゃないですか?だからここでの記憶を消した状態で転生したんでしょう」

 「まぁ、事実だろうけど……本当容赦ないな。それでも僕なんだよ?」

 「だから、言ったんです。シアン様はこれ以上狂わないでくださいね?」

 「狂わないよ、ってこれ以上ってなんだよ、これ以上って!既に狂ってるみたいじゃないか!」


 ノリツッコミのような返しになっているが、シアンは本当に少し驚いていた。感情表現が自然になってから、アンリがシアンにここまで厳しい言い方をしたことがなかったからだった。

 だが、アンリはもっと不機嫌そうな口調でシアンに質問を返した。


 「私達がここに入ってからどれぐらい経つと思います?」

 「ここは時間の流れはないんだろう?そんなの分かるわけないじゃないか」

 「私が計測した体感時間でなら12年と5ヶ月です。食事も睡眠も必要のないのに、12年以上も力だけ求めて、休みなく活動する人間を狂ってないと言えると思いますか?」

 「12年!?マジ?」

 「ええ。マジですよ。私がどれ程心配だったか……」

 「ならなんで先に言ってくれなかったんだよ~」

 「言おうとしたら、何時も何時も「ごめん、後で」って避けたのは誰ですか!」

 「っ……ゴメン……」

 

 責めるようなアンリの視線にシアンは直ぐ頭を下げる。


 体感時間12年という話を聞くまでは自分でも知らなかった。 

 ここで得られる色んな知識、経験、技術に魅入られて、それを身につけ、それを地上で具現化できる肉体を作るために奔走するあまり時間の流れを忘れていたことに……

 だが、そこで猫の声がシアンにフォローを出してきた。


 「アンリ。それはあなたの主観だよ」

 

 シアンとアンリは声に釣られて治療室の扉へ視線を移す。

 

 「「サティー(さん)?」」


 「この世界の時間概念は意識的なものだから、人の意識状態によってそれぞれ時間の流れが違う。シアン様は君の12年を1年ぐらいしか感じなかった可能性だってある。それをあなたを基準に責めるのはお門違いなんだ」

 「……」


 サティー、とシアンが名付けた猫は部屋の中へ足を運びながら面倒くさそうに説明してきた。


 「そう……ですか……すみません」

 「いや……幾ら時間の流れが違うと言っても僕が前にちゃんと聞いていれば、ここまでアンリが心配することはなかったんだ。僕こそゴメンな。心配掛けて……」

 「シアン様……」

 

 素直に自分のミスを謝るシアンを見てアンリはすまなさ半分、嬉しさ半分になってシアンを見上げた。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。シアンはその目の涙を拭うために手を伸ばし……。


 「はい、はい。二人の世界は二人だけの時にしてくださいね。わたしの用件がまだですから」

 「あ、う、うん。わかった」

  

 シアンは直ぐ謝ってサティーに向き直る。だが、アンリはサティーをジト目で睨みながら、箱庭で身につけた念話で文句を投げかけた。


 『サティーさん。邪魔しましたね~』

 『邪魔ってな~に?わたしは知らないよ?』

 『あ!とぼけた!』

 

 「では、本題ですが」とサティーは念話を切りシアンに目を向ける。


 「アンリと私が地上で使う肉体が完成しました」

 「あ、僕の遺伝子を使って造るって言ってたな、確か」

 「シアン様がいる世界の肉体の情報を使って造った、っていう方が正しいですね。ここには魂の情報はありますけど、肉体の情報はありませんから。でも、問題なく完成しましたよ」


 この箱庭は魂のゴミが集まる場所で肉体の情報は殆どない。そして、世界ごとに生命体の生成原理も違う。だから、シアンの肉体を利用してシアンがいた世界の生成原理に適した肉体を造っていたのた。

 それが今完成したことで、シアンたちは現世に戻る為の準備をすべて終えることになった。


 三人はその肉体を確認するためにサティーの案内で違う階にある他の実験室へと足を運ぶ。


 部屋の中に設けられた色んな機材の中にある二つの試験管の中に、アンリとサティーの肉体が眠るように入れられていた。

 その姿は片方はシアンと同じ茶髪、片方は日本人の様な黒い髪を持つ、双子のように同じ顔を持つ美少女だった。

 

 「あ……」


 その姿を見たシアンは思わず言葉を失ってしまう。

 自分のよく似ている姿のせいではない。両方とも素っ裸だからだった。

 シアンは赤面して視線を逸し、片手で自分の目を塞いだ。


 「な、なんで素っ裸なんだよ!重要部位ぐらい隠しておけよ!」

 「おや?何故隠す必要が有るんです?わたし達の体はシアン様の分身のようなものですよ?」

 「そんなの関係ない!」

 「そうですよ!羞恥心ぐらいもってくださいよ!サティーさん!」

 

 恥ずかしがる二人を見て猫のサティーはキョトンとした顔でもっと衝撃的なことを口にした。

 そして、その言葉の後、シアンとアンリの顔は絶望に染められることになった。


 「この世界を出る時もこのままですよ?ここは物理的空間ではないですからね。服なんて作れませんよ?」

 「ちょっと待った!じゃあ、肉体は!?」

 「それはこの試験管の中で、現世の原理を具現化して生命体の培養まで可能にしたものですから問題ありません。でも服までは無理ですね」


 サティーの言葉にアンリが何か思い出したようにシアンに質問する。


 「……シアン様。腕輪に予備の服ありますよね?」

 「あるにはあるけど……小さいものだけだよ。この体にあうかどうか……」

 「マントは?」

 「一枚だけ……」

 「毛皮は?」

 「全部売った」

 「じゃあ。シアン様の服は……マントでなんとか一時凌ぎすると言っても私たちは……本当に素っ裸のまま……」

 「いや……お前たちの方が先だろう。女の娘だし……僕は下着ぐらいはなんとかできるから……」

 「なら、戻って直ぐに服を調達する方法を探さないとダメですね。買うか、盗むか、作るか……」

 「簡単に言わないでくださいよ。サティーさん……」

 

 素っ裸で商店に入るわけにもいかず、盗むの案はシアンがダメ出しをし、結局、三人は手分けして急ぎで服を作る技術をゴミ箱から死に物狂いで探しだし、アンリの体感時間4ヶ月後に現世へ戻ることになったが……その技術を使う機会は訪れなかった。





 ◇



 ゲートを開いて三人が戻った座標は……


 「なぁ……ここってさ……」

 「草原ですね」ってアンリが周りを見渡す。


 「それにさ……」

 「盗賊ですね」とサティーが淡々と感想を述べる。


 「テ、テメェラ!な、何なんだ!何処から!?」と盗賊が驚く。


 「やる?」とシアンが提案し、「「やりましょう」」とアンリとサティーが頷いた。

 

 そして、驚く20人あまりの盗賊団は素っ裸の三人によって瞬殺され、服も奪われた。








 「僕達の苦労は……一体何たったんだろう……」

 と盗賊の服を着たシアンがぼやいていたが、その服を作る魔法(・・・・・・)は後にシアンに取って色々と重宝される魔法になった。

 

※次回からは本編に戻ります。


※日程は一旦、四日後ぐらいから、に決めてますが……もう少しかかるかも知れません。ですが一旦始まったら、遅くっても二日に一回ペースで進みたいと思います。

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