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第五十七話 脱出作戦

※遅くなってすみません。


 プレリアの紹介で大使と出会ったシアンは、モラーク国王との交渉がうまく行かなかった時に備え、脱出作戦を手伝うことを告げた。

 大使は有能な部下を置き去りにすることがなくなったことで、シアンに感謝の言葉を述べ、シアンの提案通り翌日作戦が開始された。

 

 シアンが立てた計画は複雑なものではない。

 国王の指示通り、プレリアが王宮に向かう時、大使と重要人物は【ゲート】で脱出。

 シアンはプレリアに【共振】の魔法を付与して、王宮の中で何か問題が発生し脱出が不可能になった場合、プレリアが魔力を使いシアンに合図を送る。王宮までプレリアに着いていかないのは王宮へ行って武器を取られるのを避けるためだ。

 プレリアから合図が出された場合、大使館で待機していたシアンとユウが瞬間移動で王宮の中に侵入し、プレリアを助けてラザンカローへ移送する。

 これだけの計画だった。

 

 もちろん交渉がうまく進み、プレリアがそのまま帰ってこれた場合は、ユウがラザンカローに戻り大使たちを連れて戻る。

 これが一番望ましい展開ではあったが、状況は決して望んだ通りには進まなかった。



 「合図だ」


 大使館で皆の脱出を見守ったシアンは、手の平に感じる微弱な振動に眉間にしわを作った。


 「主様。移動しましょうか?」

 「ああ。出来るならプレリアさんの直ぐ後に頼めるか?拘束されたなら周りに兵士がいるだろうから、前より後の方が対処しやすいからね」

 「はい!問題ありません!ではいっきま~す!」

 

 ユウの元気のいい声と共に目の前に、薄っすらと輝く光の幕が出来上がる。

 シアンとユウは早速その光の幕の中へ飛び込んでいった。


 

 光の幕から出口は王宮の廊下だった。

 シアンとユウの目の前に二人の兵士と、その二人に引っ張られるように連れて行かれているプレリアの後ろ姿があった。

 どうやらプレリアは脱出が楽になるように自分の周りに人が少なくなったところを狙って合図を送ったようだった。


 シアンは早速、二人の兵士に風の魔法を使い、呼吸を止めさせ気絶させた。

 プレリアが苦しみながら崩れていく兵士たちを見て驚き、シアンを見て何かを話そうと口を開いた。

 どうやら殺したら問題になるんだと言いたそうだったが、シアンは先に「殺してません」の短い言葉でプレリアの口を閉じさせた。


 これだけで、作戦の九割はやり遂げられた。残ったのはプレリアを連れて離脱することだけだ。

 だが、シアンがユウに瞬間移動を指示するために後ろに振り返ると、ユウが蒼白な顔になって体を硬直させていた。左肩の呪縛から薄っすらと光りが漏らしている。


 「あ、るじさま……」

 「ユ、ユウ!?」


 そして、


 「私の庭に忍び込んだのが誰かと思えば、姫さまの気に入り君だったのか……」

 

 何処からか分からない声が廊下の中に響いた。

 しかし、周りを見回しても、声の持ち主の姿が何処にもいない。

 シアンは慌てて剣を取り出し、戦闘態勢を取り、アンリにストーカーの発動を指示した。一瞬で視界が色付けされていき、シアンの前方に、ユウの呪縛と魔力線で繋がった紫色の、人の輪郭が見えてきた。


 「姿ぐらい見せろ。古代人のくせに怖がりすぎだろう?」

 「こ、古代人!?」

 

 姫さまと言う言葉と、呪縛を使ったユウの拘束で予想した相手の正体を口にしながら、シアンは精一杯、威勢を張って相手を挑発した。

 プレリアがシアンの声に驚いて周りを見回したが、プレリアの目には何も見えない。

 だが、「ふっ」という軽い笑い声と共に輪郭だけの紫の色が、立体として姿を表していき、プレリアの目にもその姿が見えるようになった。

 

 赤い肌に金髪、そして顔に白い刺青を持つその古代人の青年は、嘲笑うような視線をシアンに投げながら、一歩ずつゆっくりと前に歩いてきた。


 「40点だ、今の挑発は」

 「手厳しい採点、どうも」

 「眉一つ動かさないか……虚勢もここまでできると、立派な特技だな」

 「次は必ず良い点取るつもりだから、虚勢ではないさ」

 「何時までそんな減らず口を……」

 「減らしてしまったら、減らず口とは言えないだろう?」

 

 シアンは、アンリに状況を打破するための方法を探るように指示しておいて、自分はその間の時間稼ぎを務めていた。


 今のシアンに課せられた課題は、2つ。

 ユウを助けることと、プレリアを脱出させることだ。

 だが、ユウは呪縛の発動で身動きが取れない状態で、プレリア一人ではここから脱出できない。


 この状況で取れる手段は大きく、3つだけだ。

 一。プレリアだけ連れて安全な場所まで逃げて、後でユウを助ける。

 二。ユウを助けてユウがプレリアを連れて逃げる。そして、シアンは追跡を振り切り自力で逃げる。

 三。古代人と戦って勝って、皆と一緒に脱出する。


 しかし、一も三も成功可能性は極めて低い方法だ。そして、二は相手の隙を作ってユウの呪縛との魔力リンクを切る必要がある。

 シアンがやっているのはその為の駆け引きだった。

 

 『シアン様。分析が終わりました。シアン様の魔紋でユウさんの呪縛を一瞬だけ暴走させることで、古代人のリンクは切れます』

 (了解)


 そんなやり取りをしている間、接近してきた古代人の男はユウの側で足を止めた。


 「私は私の庭を荒らされるのが余り好きではなくってな。お前らにはここで死んで貰いたいが、何分姫さまのお気に入りを自分の手で殺すのはな……」


 困ったようなことを口にしながらも、楽しそうに笑みを浮かべる古代人の青年。 

 シアンはそこで計画を実行するためのタイミングを見つける為に、相手の動きを瞬き一つまで観察していた。

 だが、それは緊張して警戒しているものとしか映らない筈だ。そこにシアンの勝機があった。


 「そうだ。このドライアードと殺りあわせてみよう。呪縛は少々いじられているようだが、これぐらいなら直ぐに手直しが……」


 古代人の青年がそう口にしながらユウの肩に一瞬視線を移したのを見計らって、シアンは心の中でゴメン、とユウに謝罪の言葉を述べながら、呪縛を暴走させる為の魔力を自分の魔紋に大量に送った。


 「きゃあああああ!!!!!!!!!」


 

 甲高い悲鳴とともにユウに繋がった全てにリンクが一瞬だけ切れる。もちろんシアンのリンクも切れた。

 だが、その瞬間を予想していたシアンと違い、予想できなかった古代人の方には少しだけの隙が生じた。


 シアンはその直後、短距離の瞬間移動を使いユウを抱えて、プレリアの元まで戻った。

 その間にシアンのリンクは再度繋げる。そして、


 「ユウ。命令だ(・・・)。プレリアさんを連れて今直ぐ脱出しろ!」

 

 ユウに呪縛による強制命令を出して、再び古代人に向けて戦闘態勢を取った。

  

 「はい。主様」

 「ちょ、あ、な……」


 ぼんやりと指示通り行動したユウはプレリアと共に一瞬で廊下から姿を消す。プレリアの驚きの声も途中で止められた。


 一旦ここまでは、計画通りことが進んだ。

 だが、シアンの顔は今まで以上の緊張で完全に強張っていた。


 『シアン様……』


 アンリもこの状況をどうにか出来る方法を見つけられずに途方に暮れている。


 「私の物を奪い、私を攻撃した。これで、私は姫様に返す言い分を手に入れた。これで、思う存分お前を殺せる」


 古代人の青年は嬉しそうにそんな言葉を口にした。


 そう。

 その青年はその為にわざと隙を見せて攻撃を誘導したのだ。

 そして、二人が逃げた直後、空間隔離と魔力阻害(・・・・)の結界を張り、シアンの逃走経路と魔力を封鎖した。


 「私の名前はケインズ。別名は種を蒔く者(ガーデナー)だ。さぁ、私を楽しませてくれたまえ!」


 

※次回の投稿は10月10日の午後3時前、にできるように頑張ります。

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