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第六話 三年後。

 バッシュマン王国のラザンカロー王国への侵攻から始まった戦争は、約半年の間多くの死傷者と多くの英雄を作り上げて、ラザンカロー王国の勝利で幕を降ろした。


 敗戦国バッシュマン王国はその戦争で国土の一部を奪われ、多額の賠償金を払うことになりながらも、先王の崩御後玉座に就いた新しい王の下で、体制を立て直し、三年間で何とか国家として機能出来るようになったが、未だ両国の間にちゃんとした平和協定は結ばれていない。


 戦勝国であるラザンカロー王国の国王は対外的には、新しく編入した土地と戦争で流れてきた難民の処遇を、一種の宣伝道具として周辺国への影響力を伸ばす企みをみせながら、内部的には、戦争で活躍した戦人たちの中から何人かを貴族に上げ、貴族院と対立関係であった戦人ギルドに力を与える形で、貴族院の権力をある程度削ぐことに成功し、王権を強化させた。

 

 戦勝式から三年後、ラザンカロー王国の王都、ルカローも王都としての活気を取り戻していた。

 だが、何故か、まるで三年前の戦勝式を連想させるような喜びと混乱が王都の南門の方で広がっている。

 その混乱の中央にいるのは30代ぐらいの巨漢、ポロスだった。


 「なんだ、あれ?何かの祭りか?」

 「馬鹿!ポロス様だよ!三年前の戦争の英雄にして国王様から貰った貴族位も手放した、男の中の男!戦人の中の戦人だ!」

 「うえ、そんなもったいないことする奴、マジでいたのか!?」

 「だから、あんなに皆に慕われてんだよ!命を賭けて戦いながらも何の見返りも求めない男らしさ!くぅ~痺れるよな~!でも、その直後三年も王都から見られなくなって色々噂されてたんだ。だから皆あんなに騒いでいるのさ!」

 

 野次馬の青年が旅人に興奮気味に説明する。

 旅人は少し興味はあるけど青年のようなテンションにはなれず、顔を上気させながら青年が語るパロスの、おもしろ可笑しく脚色された、武勇談を苦笑いしながら聞いていた。

 だが、その内何回も「何も知らないのか」と突っかかってくる青年が鬱陶しくなり、「そんなにすごい人なら近くで見てきたらどうだ?」と群集がいる方向に青年の背中を押した。

 あまり興奮で自分が邪魔者扱いされたとは露も知らない青年は馬鹿正直に「そうだな!俺も挨拶一つしないと!」と言いながら群れの中に溶け込んでいく。


 「全く。戦争終わってまだ三年しかたってねぇってのに…緊張感ねぇよな。こいつら」

 旅人はそんな何処か意味ありげな言葉を残して、大きな傷跡が残った両手でフードを被りながら踵を返した。


 そしてその後を追うように一人の少年が群衆の中から脱出してくる。

 明るい茶髪が人混みでグチャグチャになりながら出てきたその少年は、群衆から少し離れると背負ったカバンを足元に降ろして、身についた埃をパンパンと払った。


 「フアァ。死ぬかと思った。折角3年もの修行で生き残ったのに王都に戻った途端人混みで圧死とか、洒落にならないぞ」


 少年は簡単に自分の服装の乱れを直した後再びカバンを背負い、人混みを振り返り、群衆の高さより頭一つ以上はみ出たポロスに両手を合わせて、謝罪するように軽く頭を下げる。

 「済みません。ポロスさん。恨むなら英雄になった自分を恨んでください。僕は一足先にギルドに行きますので。では!」

 声が聴こえるはずないのに、律儀に謝罪の言葉を述べた後、少年は逃げるように通リの向こうに走り去っていく。


 その直後、少年が逃げるのを見たポロスの叫び声が少年の後を追った。


 「テメエぇ!シアぁン!!逃げんじゃねぇぇぇ!!」



 「王都に来るのは三年ぶりだけど随分違って見えるな」

 ギルドに向けて足を進めながらシアンは周りを見てそんな感想を口にする。

 《『はい、シアン様。確かに雰囲気が随分変わりました。三年前とは違って皆の顔がイキイキしてます』》

 (へぇ、なんかスムーズに会話してる感じがするな。でも、擬似人格出来たのはかなり前だって言ったろう?なんでずっとそんな感じで喋らなかったの?)

 《『擬似人格の処理時間のせいでシアン様の命が危険に成り兼ねなかったからですよ』》

 (あ……そう、だね)


 アンリの指摘にこの三年のことが脳裏を過ぎる。

 陳腐な表現だが「正に地獄のようだった」としか表現出来る言葉が見つからない三年だった。


 シアンがポロスと過ごした三年に題目をつけるとこうなる。


 「全国依頼ツアー」


 内容は、ポロスが指定した。戦人たちの依頼に付き添い、荷物持ちと下働きをすること。

 だが、その合間を縫ってポロスから戦闘訓練を受けながらの強行軍で、一つの仕事が終われば他のパーティーに、また仕事が終われば次のパーティーにバッタ飛びし続ける毎日。

 最初はただの下働きだけだったが、1年後からは戦闘にも参加するようになり、ある時は一人で危険な地域まで入れられ、凶悪な魔獣が蠢く山の中で3ヶ月もサバイバルすることにもなった。

 戦勝式の翌日に王都を出てからの三年間、それがシアンの生活だった。


 それでも、そのお蔭で色んな戦人に出会い、色んな魔獣の攻略法を目にし、色んな魔獣と戦い、力を付け、実力をつけ、漸くポロスとの模擬戦で一本取ることに成功して、晴れて王都に帰還することになったのだ。

 

 (本当に感無量この上ないよ。自分を褒めてやりたい)

 《『シアン様はすごいです。三年間、お疲れ様でした』》

 (本当、お前も気が利くようになったな。ありがとう、アンリ)


 シアンは心の中で一緒に苦労を分かち合った(決して苦楽ではない)アンリに感謝して、近くなってきたギルド本部へ歩みを急がせた。

 


 ◇


 

 「ごめんなさいね。今ギルドマスターは会議中なの。そこの椅子に座って待ってもらえる?」


 ギルドに到着し、受付でギルドマスターに取りつぎを頼むと受付の中年女性は柔らかく微笑みながらシアンに入り口の側にある椅子を勧めた。

 「はい。わかりました」

 シアンは元気よくそう答えてから大人しく椅子に座り、行き交う戦人たちに目を向ける。だが、どうも自分が借りてきた猫のような感じがして、すぐに視線を下に向けてしまった。


 待つ以外することもないシアンは長い間確認していなかった自分のステータスでも確認してみようかと思い、久しぶりに視界の右下にある点を押す。


 ====================


 シアントゥレ・リベレン。(簡易1)


 年齢:8歳。

 称号:なし。

 

《 ステータス 》 

 

 生命力:100%

 魔力量:2540

 疲労度:2%

 

 STR(力):183

 INT(知能):121

 DEX(器用):283

 AGI(敏捷さ):331

 VIT (体力):210

 REG(抵抗力):122

 MAG(魔法親和):473

 MRG(魔法抵抗力):418


 《GIFT (先天的能力)》


 無極の友 LV 4


 《ABILITY(後天的能力)》


 自然回復 LV 3

 思考加速 LV 5

 魔力感知 LV 6

 魔力干渉 LV 6

 気配探知 LV 7

 神経操作 LV 3

 聴覚強化 LV 5

 視覚強化 LV 5

 痛覚鈍化 LV 5

 罠探知 LV 3

 エネルギー操作 LV 2

 

 《SKILL(技)》


 総合格闘 LV 5

 木工 LV 2

 料理 LV 7

 射撃 LV 6

 細剣術 LV 5

 回復魔法 LV 6

 大剣術 LV 6

 投擲術 LV 5

 短剣術 LV 4

 解体 LV 6

 隠密術 LV 4

 属性魔法 LV 5 (火、水、風、土、雷)

 弓術 LV 4

 二刀流 LV 4

 槍術 LV 3

 鍛冶 LV 2

 石工 LV 1

 彫刻 LV 2

 裁縫 LV 4

 革細工 LV 2

 

 

  

 

====================


 最初の時と比べ何倍にも増えた能力値とアビリティとスキルがズラリと目の前に広がる。

 三年間、色んな人を見てきたお蔭でシアンは自分の能力と他の人との差を知ることが出来ている。スキルとアビリティの数も然ることながら基本能力値もとうに既存の戦人のそれを大きく凌いでいる。

 最初シアンの能力値だった10という能力値から逆算した普通の農民はこんな感じになる。

 

 ====================


 農民男性(全盛期)


 STR(力):75

 INT(知能):8

 DEX(器用):25

 AGI(敏捷さ):31

 VIT (体力):44

 REG(抵抗力):24

 MAG(魔法親和):4

 MRG(魔法抵抗力):5


====================

 

それと戦人の、五級相当の前位職はこんな感じだった。


 ====================


 戦人男性(前位)


 STR(力):175

 INT(知能):13

 DEX(器用):65

 AGI(敏捷さ):101

 VIT (体力):114

 REG(抵抗力):124

 MAG(魔法親和):4

 MRG(魔法抵抗力):5


====================



 それと比べ今のシアンは全ての数値でそれを大きく凌いでいる。

 8歳の子供が持つには異常極まりない能力だ。技術は経験すれば身につけることが出来る、しかし、身体能力は別だ。

 だがそれを可能にしたのがアンリの【健康管理能力】だった。

 シアンも決して軽んじていたわけではなかったが、健康管理能力が身体の発達にも影響を与えることが出来るとは思いつかなかったのだ。

 実際、それの可能性を探り当てるまでは、アンリすらもそのことに気付いてなかったわけだからシアンに分かる筈も無いことだったが。


 (暫く確認していなかったけど僕も結構成長したよな……でも、コレぐらい成長してくれないと折角苦労した甲斐がない。お前の力のお蔭で成長出来たけど正直成長痛のせいで毎晩かなりしんどかったからな)

 《『シアン様。ご準備を』》


 愚痴のように話をかけるシアンにアンリは警告するように呼び立てる。

 (もう知ってるよ。いつものことだからね)

 

 そう、いつものことだった。子供が一人で血の気の多い戦人が集うギルドにいると経験する通過儀礼のような物。


 「おい。ここにガキがいるぞ!」

 「何時からギルドがガキの遊び場になったんだ!?」


 (どうやら今回は二人のようだな。ギルド内では刃物は使わないだろうし、少し遊んでやろうかな?)

 と思いながら、シアンは目の前の画面を消して、ゆっくりと腰をあげる。だが、それは慣れ親しんだ大声でストップが掛かってしまった。


 「シアン!てめぇ!一人で逃げるとはいい度胸してんじゃねぇか!ちょっと面貸せ!訓練所に行くぞ!!」

 「あ……ポロスさん……」


 そうやって、シアンの遊びは、ギルドに入ってきたポロスの声によって戦闘訓練に変わってしまった。


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