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第四十八話 新ダンジョン


 アンリの案内で向かった先は、西の門から少し離れた場所にある庭園だった。

 噴水台を含む庭園の一部は、庭師の手が行き届いた状態をそのまま維持されていたが、他の部分は、王家の為に造られた庭園とは到底思えないぐらい完全に荒らされていた。 


 シアンはその壊された庭の向こうで、忌々しい紫色の魔力を散らしている焦げ茶色の肌を持つ裸の女性を睨む。

 女性は遠い目で見ても、苦しんでいるのがハッキリ分かるように、全身を捻らせながら奇声をあげていて、女性が体を捻らせる度に紫の槍が体から生えて大気中に散らばっていた。

 

 「あれを殺るのだな、僕は……」


 シアンは女性の苦しむ姿を見て、同情でも湧いたのか、それとも《可謝の敵》を殺すことに対する迷いなのか、少し離れた場所で足を止め、苦しそうにそう呟いた。


 『シアン様。冷たい言葉かも知れませんが、今がチャンスです。あのドライアードは未だ完全に正気を失っていません。今止めを刺した方がドライアードの為になります。そして……』

 (知ってるよ。他の魔獣が寄ってきているんだろう。面倒になる前に殺るよ。後味はあまりよくないだろうけどな)


 シアンはそう言って、両手に持た剣に火の魔法を纏い、素早くドライアードの方に接近した。


 「殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して………」


 シアンが声が聞こえる距離まで近づくと、苦しみに耐え切れず狂ったように呟くドライアードの弱々しい声が聞こえた。


 「ゴメンな。今殺してやるよ」


 聞いているかどうかも知れない相手だったが、シアンは敢えて短く詫びの言葉を口にして、炎をまとったレイピアと短剣を呪縛が刻まれているドライアードの両肩を一気に突いて、力を振り絞って両手をXの字に交差させた……のだが、


 「!!!」

 まるでその瞬間を見計らったかのように、シアンとドライアードの足元から急速に熱気が湧き上がり、アッという間に溶岩が噴出されてきた。


 辛うじて靴一足だけをダメにしてシアンは、瞬間移動で距離を取って、いきなり発生した小規模の火山噴火から逃げられたが、ドライアードはその噴火に巻き込まれ、一瞬で黒焦げにされ、吹き出た溶岩で徐々に溶かされ始めた。


 (くっそ!一体何が起こった!!)

 

 瞬間移動で庭の噴水にある、水を吐き出す竜の銅像の上に移動したシアンは、さっきまで自分がいた場所を見て悪態をつく。


 『シアン様!魔法です、どんな魔法かは分析出来ませんでしたが、発動方向は地下からでした!』


 アンリの叫びにシアンな下に目を向け三次元空間探知を発動させた。

 だが、何故か何も見えてこなかった。

 魔力が届く半径100メートルの範囲ぐらいなら、必ず見える筈だったのだが、それが見えないと言うことは……

 

 『何か外部からの魔力を遮る障壁が張られると思います』

 

 しかし、それはシアンに取ってあまり好ましい知らせではなかった。

 

 基本魔法の障壁は属性を持つ必要があると言われている。

 純粋な魔法障壁では魔力を一部遮断出来るだけで、魔法によって発生させられた物理現象までは遮断できるものではないからだ。


 だが、シアンの三次元空間探知はその属性付きの魔法障壁に備え、幾つかの属性を付与して発動している。

 それが遮られたということは、少なくともシアンが使った属性を遮断するだけの魔力密度がその障壁にはあったことを意味している。

 つまり、敵は魔力を多く持っていて、魔法を得意とする存在だ。

 

 だが、シアンは今瞬間移動一回分の魔力も残っていない、魔力不足状態。

 魔力の回復させるには時間が必要だ。しかし、休息を取ってしまえば、もう一人のドライアードと溶岩の魔法を使った相手にも時間を与えることになる。


 よって、今からシアンは自分の足で移動しながら、魔力を少しでも多く回復させて、もう一人のドライアードと正体不明の何者と当たらねばならない。

 魔力無しで戦闘することもできるだろうが、もし、相手が物理攻撃に一定以上の耐性を持っている場合は、それは自殺行為に等しい。


 ここで一旦引いて他の人達と一緒に来る手もあるが、それでは逆に足手まといが増えてしまう可能性が出来てしまう。

 

 (はぁ……結局アレ(・・)を使わないとダメなのか……)

 『シアン様。アレは……嫌です。本当に……』

 (僕も嫌だよ。でも……)

 『分かりました。使いましょう……でも、一思いにやってくださいね』

 (……頑張る)


 その言葉の直後、シアンは腕輪から、炎のエレメンタル系の魔獣、《ボルレッカ》の赤い魔石を取り出し、それを噛み砕いて(・・・・・)飲み込んだ(・・・・・)

 

 (う~~~。歯が痛い……苦い……全身が痺れる……)

 『……痛覚遮断、してあげたい、ですけど……私も耐えるだけで……手一杯です……』


 シアンが今やったのは、魔石が砕かれると魔力が空気中に飛散する性質を利用した、魔力補充方法だった。


 だが、魔石の魔力は砕かれた直後、空気中に散ってしまう為、口の中で直接砕く必要がある。くるみの実より固く、苦い味をした魔石を直接砕いて飲み込むのは普通の人間に出来るものではなく、全身の筋力を化け物並に強化できたシアンだったからこそ出来る方法だった。


 最初に学園でこの方法を思いつき、実験を兼ねて一回やっただけで即封印してしまったほどの極悪なこの方法は、アンリにも相当辛い方法だったようで、アンリの表現を借りると、

 『黒板をひっかく音が100倍になって自分の内部から聞こえる感じ』、だそうだ。


 これは、種族ごと違いがある魔力を、無理やり体内に入れたことで発生した異常を元に戻す時、その回復の反動として来る瞑眩現象(積極的治癒反応)のような物だそうだが、その反応が余りに激しいせいでアンリですら、その反応が出ている間は全能力を使えなくなってしまう極悪なものだった。


 

 『約60%、回復です。これぐらいならいけますね』


 数十秒後、少し落ち着いてきたアンリが魔力の回復を知らせる。

 だが、まだシアンは苦しそうな顔で顎を何回も開け閉めして感覚を確かめていた。


 (僕はまだ、戻ってない。顎の感覚が鈍い。後首が痛い。苦い)

 『ですが、もうすぐ魔獣がここへ接近します。そろそろ動かないと折角回復した魔力をまた使うはめになりますよ』

 (……わかった。さっさとダンジョンの方へ移動しよう)


 シアンは銅像の上から足に魔力を乗せて、東の方へ向かって高く跳び上がった。


 少し後、庭園の中では獲物を失った魔獣たちが大きい声な声を上げることになったが、直ぐにその声は止み、魔獣たちは東の方へ移動し始めた。

 それはまるで、シアンの居場所を追跡でもしているような光景だった。

 



 ◇




 元は東の宮だった廃墟の中央に、不自然な土の丘が出来上がっている。

 ダンジョンの入口になっている、丘に開けられた大きな穴から迷宮の中へ侵入したシアンは、異常過ぎるダンジョンの内部構造に顔を歪めながら足を進めていた。


 「歩きにくいな……何だよ、このダンジョンは……」


 殆どの魔獣が暴走して外に出たお蔭で、戦闘することなく道を進めることは出来ていたが、思いの外、内臓のような形をしている、少し弾力のある地面がシアンの進行速度を遅らせている。

 

 『シアン様。何が含まれてこうなったかは分かりませんが、これは歴とした土です』

 (いや、むしろその方が問題なんじゃ……)


 今まで感じたことのない地面の感触は不気味な感じすらしてくる。それはまるで、

 (なんか、大型魔獣の腹の中にいる感じだ……)



 そんな不気味さをずっと感じながら、シアンは慣れない歩みを続けていく。


 そして、シアンが少し広めの、部屋のような場所を見つけ中を覗き込んだ。


 「なんだ、アレは……」

 

 部屋の中には、大きな半透明な卵のようなものがいくつも並べられており、その卵の中には、東の宮にいた人たちが意識を失ったまま入れられていた。

 

 『シアン様。あそこにパオローナ王女がいます。ですが、他の王族の方は見つかりませんね。他にもこのような所があるのでは……』

 (そうだな。でも、ここにいるみんなの無事を確認してから動こう。危険そうならすぐに出すける必要が……!!?)


 そんな会話をしながらシアンが部屋の中へ数歩入った瞬間、何の前触れもなく部屋の地面がいきなり消失(・・)し、シアンと数個の卵は重力に引っ張られて、深い、深い穴の底へと導かれていった。





 『シアン様。どうやら部屋自体が罠だったようです』

 (でも、あの人達を放っておいて一人で瞬間移動で、逃げるわけにはいかないだろう?ギリギリまで降りてみよう)

 『はい。着陸タイミングは私が合図します、風の魔法の準備をしていてください』

 (了解……あ!)

 「この感じは!!」

 自由落下の途中、シアンは思わず喜びの声を上げる。


 『あ!この罠が正解だったみたいですね!』

 アンリもそれに続いた。

 


 穴の底には、シアンとアンリが探していた、ドライアードともう一つの馴染みにない気配がシアンたちを待ち受けていたのだ。 


※次回の投稿は26日午後7時前後になる予定です。

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