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第四十六話 王都の騒動

 

 ラザンカロー王国の王都、ルカローは大きく3つの区画に分かれている。


 《王宮》と、貴族の屋敷がある《上街》、そしてその他の地域を称する《平町》。

 構造的には少し歪んだ3つの同心円を考えれば一番近い形になるだろう。

 王宮を包むように上街があって、その上街を包むように平町があって、王都防衛の為に、その区画の間は城壁で区切られている。


 その区画間の移動には、必ず東西南の三方向にある城門を使う必要があるのだが、内部でいきなり災難が発生した今回、その防御システムが逆に檻に変わってしまった。


 何の前触れもなく発生した王宮での災難は、王宮から難を逃れた人々が上街へ殺到したせいで、アッという間に貴族たちにも広がり、貴族たちもその混乱に飲まれることとなったのだ。


 第一内門(王宮と上街を分ける城門)を通じて脱出した人たちは、一枚の城壁だけでは不安を拭いきれず、第二内門(上街と平町を分ける城門)の外に出ようとして、第二城門は一時、衛兵たちだけでは、到底対処し切れない混乱に陥った。


 だが、その知らせを受けたヴァノアが戦人たちと共に城門へ赴き、衛兵と共に避難を誘導して、やっと一息付けることに成功したが、避難した人たちから聞いた内部の情報は、予断を許さない状況だった。


 一。行政庁などが集まっている東の宮の一部が陥没して、その地下にダンジョンの入り口が出来て、中から魔獣が出てきたこと。

 二。国王と王太子とルードヴィアス王子、パオローナ王女がその時点に東の宮にいたこと。

 三。魔獣の対処が遅れて東の宮は近衛によって放棄され、逃げられた人は全員西の宮へ閉じ込められているとのこと。

 四。元々防御が容易な西の宮を除く王宮のあちこちに、数百を超える数の魔獣があって、ダンジョンの入口からはまだまだ出てくると予想されるとのこと。

 

 これがヴァノアが聞いた情報を簡単に整理したものだが、これはもっと簡略な言葉に整理出来る。

 

 《ラザンカロー王国歴史上、最大の危機》


 王族と貴族たちは大して好きではないが、ヴァノアもこの国の人間であり、少し歪んた形だが、愛国心も持っている。

 ラザンカロー王国が崩壊して一番喜ぶのは周辺国、特に敵対している国の人間で、一番苦しめられるのは国を失った国民だ。


 ヴァノアはそれを見過ごすわけにはいかず、集まった戦人たちの中で三人だけの一級戦人と一緒に救助隊を組み、魔物が蠢く第一城壁の中へ突入した。

 四人だけ、というのは救助隊にしては少なすぎる数ではあったが、現状戦力としては最強戦力と言って過言ではなかった。


 

 ◇


 

 ヴァノアが王宮の方に突入していった頃。

 ピュロス迷宮の回りは、魔獣の姿はなく、赤、黒、青、紫の、様々な魔物の血に染められた、色とりどりの草原が出来上がっていた。


 シアンは自分とユウが処理した分の魔獣を全て腕輪に収納し、自分を見て何も言わずに立っている戦人たちを遠くで眺めて、「やっぱりな……」と呟いた。

 

 少し前、生き残った魔物がないことを確認したシアンは、今のように戦人たちを眺めたが、その目は勝利の喜びも、自分たちが生き残った安堵感もなく、ただ、恐怖と、驚愕の感情しか映ってなかった。


 敢えて何も言わずに黙々と自分が狩った獲物を収納し始めたが、その収納が終わるまで誰一人、「お疲れ」とか「ありがとう」とか「テメエ!なにもんだ!?」とか「俺達の獲物まで持って行くなよ!」すらも、何も言ってこなかった。

 只々、シアンが何かの動きをする度に、ビクビクしていただけ……

 

 (まぁ、覚悟していたことだけど、怖がり過ぎだろう……)

 『仕方ないでしょう。人間は理解を超える物を見ると恐怖するものですからね』

 (ポロスさんとの稽古の時以上のことやった自覚はあるけど、この反応はその時の比ではないな……今回はかなり長引きそうだ)

 『人の噂も七十五日と言いますし、計画通り旅に出て戻ってくれば忘れてますよ。きっと』

 (まぁ、それも今回の騒動が終わってからだな。ここは一旦落ち着いたし、他のダンジョンに……)

 

 「主様~。疲れましたよ~~」

 他のダンジョンへ行ってまた一働き、と考えたシアンは、ユウの泣き言を聞いて考えを切り替えた。

 「そうだな。僕も魔力をかなり使ってしまったよ。少しは回復したけど、これじゃ何処へ行っても足手まといだし。まずは戻って少し休もう。ユウ、魔力は大丈夫?王都までは跳べそう?」

 「はい。一回だけなら大丈夫です~」

 「じゃ、屋敷の前まで……いや、お母様の執務室に行こう。他は目立ちそうだ」

 「はい!わかりました~では、行きま~す!」

 

 嬉しそうな声と共にゲートが目の前に現れ、ユウはシアンの背中を押しながら、そそくさとゲートの中へ入って行く。


 しかし、ゲートを通じて入っていった執務室の中には、ヴァノアの姿はなく、何故か他の人達の気配も異常すぎるほど、ロビーの方に集まっていた。

 それを変に思ったシアンがロビーへ降りて行くと、百人を超える貴族とその家臣たちがまるで難民のように集まっているのが目に入った。

 

 「あ!シアンさん!」


 先にシアンを目にしたギルド職員、ミリアーナがシアンに近づいてくる。


 「ミリアーナさんこれは一体……?」

 「王宮での事件、聞いてないんですか?」

 「はい、今戻ってきたばかりですから……」

 

 少し気まずそうに呟くシアンに、ミリアーナは怪訝そうな顔をしながらも、王宮での事件を簡略に教えてくれた。

 だが、その短い説明がシアンには余りに突拍子ないことに聞こえた。


 「王宮で新たなダンジョンって……」


 だが、貴族たちの疲れ果てた姿を見て事実だと認めるしかないシアンの後から、ユウがそっと腕を掴んできた。シアンが自分を心配してくれるのかと思い「大丈夫……」と言いながら後を振り向くと、ユウが「主様。少し話が……」と真剣な目を向けてきた。


 シアンは一体どうしたのかと思い、ミリアーナに現場に行ってみますと話して、ユウと一緒にギルドを出る。

 人影が少なくなってきたところで足を止めたユウに釣られシアンも足を止めた。


 どうやら人には聞かれたくない話のようだったのでシアンは風の結界を張り、音が漏れないように気を配った。


 「で、なんだ?重要な話だろう?」

 「はい。主様。王宮の方で、わたしと同じ者の反応を感じました」

 「同じ者……じゃ、ドライアードが核になったダンジョンということか……」

 「それだけではありません。その反応は二つです」

 「二つ!?」

 「はい。多分ですけど、今回暴走したダンジョンの核が新しいダンジョンの核になっている……と思います」

 

 ユウは辛そうな顔でそんな推測を口にする。だが、

 「もしそれが本当だとしても、今の状況が変わるわけではないだろう?」

 「変わります。それが二つも」

 「!?」

 「もしわたしの話が正しいなら、呪縛から切り離されたのではなく、もう一つの呪縛を付けられ、この地に縛られることになっている筈です。そうなったとしたら、多分自意識を失われている可能性が……そうなると手の付けようがありません」

 「呪縛ならお前も二つ持っているだろう?」

 「いいえ。わたしは地に縛られる呪縛と人間に縛られる呪縛を、一つずつ持っているだけです。それすらも主様の魔紋の影響で安定的に繋がっていますので、危険性はほぼないに等しいです。ですが、普通では不可能な二つの地に縛られることを強いられた場合は相当な、いいえ、拷問すらも生温い苦痛を伴う筈です。ですので……」

 「完全に精神を壊されて化け物に成り果てたドライアードが王宮のダンジョンに二人もいると?」

 「はい……」

 「じゃ、もう一つは?さっき二つだって言ったろう?」


 シアンは顔に陰を落とすユウに、次の説明を急がせた。

 同族がそうなったことのせいで気落ちしているのは分かるが、ユウの予想が当たっているなら、状況は厳しい、の一言で片付けられるものではない。

 今回ピュロス迷宮でのユウの業績はシアンには及ばないものの、戦人と魔道士百人を凌ぐものだった。そんな能力を持っている存在が二人も自意識を失くしているってことは正直、シアンにも対処出来るかどうか断言できない。

 それにダンジョンの中と周りには魔獣もいる。それにそれはもっと増える可能性が高い、つまり、時間が経つほどもっと厳しい状況へと徐々に追い込まれていくだけなのだ。

 

 「呪縛のせいで、わたしが中に入れないことです……」


 シアンは心の中でやっぱり、と悪態をついた。

 話の流れとユウの雰囲気で、何となくそうではないかと考えたが、案の定だったのだ。

 これでシアンの単独行動が決まった。

 魔力も少なく、手に馴染んだ武器もなく、一日中の重労働の疲労が溜まった状況だったが、他人に任せていい状況ではない。


 午前にヴァルファス迷宮、午後にピュロス迷宮、そして、夕方に王宮の新迷宮。一日、三度目の迷宮行がシアンを待っていた。


 それも最悪の状態で……


※次回の投稿は24日の正午前後になる予定です。

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