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第五話 テスト。



 「何を考えてるんですか?」

 「なにって?」

 「あの子供のテストのことですよ。冗談では無いことは知っています。あの時の目は貴女が「面白くて死ぬ~」と言う時の目でした。それに、選りに選ってあの(・・)ポロスさんに任せるとは、まるで苛めてるみたいじゃないですか?」

 シアンと衛兵がいなくなった執務室の中でリヒトはのんびりお茶を啜るヴァノアに、追い立てるように質問していた。


 「冗談でもなければ、イジメでもないよ。ちゃんとしたテストで、それを通過したら坊やを戦人として登録させるつもり」

 「5歳ですよ?出来ると思いますか?」

 「出来るだけじゃないね。アレは化ける。それもとんでもない傑物になるかも知れないよ」

 「傑物ですか!?」

 

 浮かない顔で目を細めるリヒトを放っておいて、ヴァノアはシアンを初めて見た瞬間を思い浮かべ、ゆっくり語りはじめた。

 「あの時、衛兵に踏み付けられながらもあの子は目もそらさずに私だけずっと見てた。私が剣を抜き衛兵を攻撃した時も、食い入るように見ていた。そのお陰で私も少し張り切り過ぎてしまったけど……兎に角!そんな目が出来るのは何かに死ぬほど飢えている人間だけ。それにそんな飢えは幼い程、強く心に残る。そう、昔の私のように……、そんな奴は必ず強くなる。でも、ちゃんと方向を示してくれる人がいないと、アッという間に欲望に飲まれ道を踏み外す。だから、」

 「テストを言い訳にしてポロスさんに教育させると?」

 「そんなところね」


 「あのポロスさんですよ?一級の中では一番の常識人でも、その代わり一番力の加減が苦手で最大の偶発的事故率(・・・・・・)を誇る、あのポロスさんに教育されるなんて大人でも耐えられるかどうか。もしかしたら死ぬかも知れませんよ?」

 「ううむ……子供相手にまさか……」

 「無理だと思いますよ。あの人なら」

 「……」


 居心地悪い沈黙が二人の間に流れる。そして、

 「……やれる筈よ。きっとあの坊やは」

 「……見守るしかないでしょうね」

 あまりにも無責任な発言でその場を締めくくった。

 



 巨人。

 その言葉がこんなにピッタリな人がいるだろうか。と思える程大きい体格の人がシアンの前に立っている。

 120カッスル、センチメートルに変換すれば約240ほど。トロールには及ばないが普人族だけでは無く、体格的に恵まれている獣人族の中でもなかなか見られないその体格の持ち主は、険しい視線で自分の半分にも満たない子供を見下ろしていた。

 「……」


 シアンは見下されているだけで圧迫感を覚えずにはいられないその巨人を前にして、自分がこの場所に来た理由を思い返してみた。


 (え、まずギルドマスターに聞かされた通りギルドの地下の訓練所まで来て、そこにいる【ポロス】という人を探して、預かった手紙を見せた後、その人の指示に従う。そしてポロスさんが合格と言ったら、自動的にギルドに登録。それが出来ない限り、永遠に登録出来ない。でも5年間は食事はギルド内の食堂を一日2回支給され、ギルドの寮の庭を毎朝掃除する条件でその寮の空き部屋も提供される、だったな)

 《『庭と部屋の掃除です。シアン様』》

 (お前なぁ。こんな状況でそんな指摘するとか、少しは空気読むぐらいは人格付けた方がいいと思うぞ)

 《『擬似人格を作るにはデータが不足しています』》

 (あ、そう。それも僕の努力次第ってことだな。……兎に角、指示通りこのポロスさんに手紙は渡した。なのになんで何も言わないんだろう……ずっと黙ったまま見られてると怖いんだけど……)


 結局痺れを切らしたシアンが先に口を開く。

 「あのぉ。ポロスさん?」

 「俺は弟子は取らん」

 「はい?」

 (弟子って?)

 「でも、あのババアの指示だし。どうするか……」

 (ババアってギルドマスターのこと?どう見ても外見はポロスさんの方が年上みたいだけど、でもギルドマスターはエルフだし、実はかなり歳取ってるのか……、ってあれ?なんでいきなり背筋が冷たくなってくるんだ……いや、今はそれより……)


 「失礼ですけど、ギルドマスターは何と?」

 「お前を一人前の戦人にしろとの話だ。知らないで来たのか?」

 

 手紙の内容まで知らなかったシアンだったが、その一言で大体の察しは付いた。

 (そうか。この人が僕の師匠と試験官役なわけだな。僕の宿題はこの人を納得させる実力を付ける事。早く認められれば、早く戦人になれる。そう簡単なことではないだろう。だが!)

 

 「知りませんでしたが、よろしくお願いします!弟子じゃなくっても構いません。隅っこで自己鍛錬します。でも、僕に見込みがあるって判断したら偶に稽古を付けてくださいませんか!?」

 切実さのように映るかも知れない発言だがシアンにとっては都合がいい状況だ。下手に体力つくりなどから始めるよりは目で見てアンリが分析し、スキルを増やして行くのが何倍も効率的だからだ。

 それにこの訓練所は今は閑散としているがすぐ戦場から戦人達が戻ってくる。それならもっと技術を増やす機会が増える。まさに願ったり叶ったりの状況なのだ。


 ポロスは頭を下げるシアンを見て困ったように頭を掻く。

 「それぐらいなら問題ないが、それじゃあのババアがな……」

 「ギルドマスターなら何も言わないと思います。要は自分が強くなってポロスさんに認められればいいってことですから」

 傲慢、以外に取ることが出来ないシアンの話を聞いたポロスは何故かそれが子供の幼稚な考えとは思えなかった。

 「ほぉ。つまりお前は俺に認められる自信があるってぇのか?」

 「自信じゃなくって事実です。僕は必ずポロスさんを認めさせます。遠くない内に!」

 

 事実だとは言ったが正直シアンにはそこまでの確信はない。この大言壮語は自分を熱り立てるための方便だ。目の前にいる怖いポロスにビビらないため、自分の未来図をもっと確実な物にするため、自分に付けた枷のような言葉なのだ。

 しかし、


 「そうか。そこまで言うならば、俺がしっかり面倒を見てやろう!隅っこで自己練するよりは強くしてやるから、死ぬなよ、チビ!!」

 「エッ!?」


 どうやらシアンが自分に掛けようとした枷は、むしろポロスに火を付けることになってしまったようだ。折角好都合だった状況は完全に逆転してしまって、シアンの苦難と成長の日々が始まった。



 だが、その苦難の日々が自分にとっては一番いい方向であったのだと、三年後シアンはしみじみ思うようにになった。


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