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第四十五話 化け物の時間

 「主様。本当に提案断って良かったんですか~?」

 

 数分後、ミレナとサハラから離れて戻ってきたシアンがユウに提案を断ったことを告げると、ユウが心配そうな顔でそう聞いてきた。


 「彼奴等の提案は信用できないからね」


 シアンはそう返事を返したが、その理由だけで断ったわけではない。

 信用できないのは当然だが、何時敵対するかも知れない相手に手の内を晒すわけにはいかない。

 それに赤の剣はラザンカローでは重犯罪者グループだ。

 出会って捕まえないのは不法ではないが、手を貸した場合は明白に犯罪になる。だから、シアンは提案を断ったのだ。

 まぁ、貴族審議で情状酌量と判断される可能性が高いのだが、それを当てにして犯罪者と手を組んでもシアンには大したメリットがない。

 だが、シアンは少し曖昧な言葉ではあるが、両方がメリット(・・・・・・・)を得られるようなある言葉(・・・・)を残して来ている。


 『信用出来ないから利用するんですよね、シアン様。それにしても、さっきの言葉は本当に良かったです。「僕は一番東のダンジョンに行く。あんたらの助けは要らない」なんて、分業の提案をこれほど傲慢そうに出来る人は早々いないですよ』


 そう、敢えて自分の行き先を口にして、分業の提案をしたのだ。

 それに対し、頭に血が登りやすい性格のミレナは、「勝手にしなさい!!」と言って帰ろうとしたが、サハラは「頑張って……ください……私たちは西で……」とシアンの意図を呼んだ返事をしてくれた。

 

 「それでだ、ユウ。遠見が使えない僕の瞬間移動では、王都まで行くことは厳しい。王都までの移動頼めるか?」

 「はい、主様!任せて下さい!」


 そうやってシアンはユウの協力で王都へ帰還した、のだが……




 ◇



 「許可はできない」

 王都に戻ってヴァノアの執務室で事情を説明した後にヴァノアから聞いた言葉はこの一言だった。

 

 「何故ですか?僕が間引きを任せてくれと言ったからですか?」

 

 シアンは納得出来ずに反論を口にする。

 だが、その反論の中に出た間引き(・・・)という言葉は軽々しく口に出来るシロモノではなかった。

 RPGの中で、間引きは《ボス狩り》と呼ばれているものに近い。

 一際強い個体を殺して魔獣を混乱させ、味方の生存率を上げる。故にこの間引きと言う仕事は基本ギルドの上位ランカーの中でも一部しかできない仕事と言われている。

 それを中級ランカーになったばかりのシアンが名乗り出るのは、当然相手にもしてもらえないことだったが、シアンは自分の能力をある程度知っているヴァノアなら許可をしてくれるのではないかと踏んでいたのだ。

 なのに一言で却下された。


 「違う。お前が行こうとしているピュロス迷宮回りが草原だからだ。草原での戦闘は間引きの仕事も集団戦の中で行われる。お前は確かに魔法も使えるが集団戦の経験が少ない。つまり、お前には荷が重い」

 「お母様。僕はまだ自分の実力を限界まで使ったことは一度もありませんよ?」

 「幾らお前が歴史上最高クラスの天才だとしても、無理なもんは無理だ!」

 

 段々、ヴァノアの声に威圧感が増していく。普通の人間ならその圧力だけで気を失うぐらいの圧力になっているが、シアンには「少し怒ってるな」程度に感じられた。

 

 「では、話を変えましょう。もし僕が……」

 

 シアンはそこで言葉を一旦切って、瞬間移動でヴァノアの後ろに移動し、ヴァノアの両肩に手を乗せて、続きを口にする。


 「こんなことが出来るならどうします?」

 「お、お前……これは……」


 呪魔法とは違い、瞬間移動は禁忌ではない。むしろ誰しも喉から手が出るほど欲しがる、測れない価値を持つ秘宝のようなものだ。

 だから、おいそれと人に見せるものではない。だが、シアンは今回の戦闘でもこれを使うつもりでいる。その意味は……


 「シアン。まさか……今回の事が終われば、この国を出るつもりか?」

 「まぁ、それはみんなの反応を見てからですね。化け物の僕を受け入れるか、引きずり込もうとするか、敬遠するかは人それぞれの判断ですし、僕はそれが鬱陶しくなれば出て行ってもいいと思ってます。お母様には本当に申し訳ありませんけどね」

 

 そう。シアンは旅立つ覚悟を決めたのだ。

 この世界で二人目の母になってくれたヴァノアには悪いが、この国の人間たちのせいで、シアンの行く道がずれて、いやずらされている。

 5歳の頃から力を身につけ、財力を集め、どんな権力にも揺るがない自由気ままな生き方を望んでいたシアンは、王宮、貴族、裏組織、世界の敵などのせいでその人生を狂わされている。

 人類の敵である古代人の末裔は旅をしながらも、出来る限り調べて自分なりの対処を取るつもりではあるが、その他のものから距離を置かないと色んな意味で、面倒(・・)だった。

 柵は時には力になるが、時にはどうしようもない枷になる。

 シアンは二年もの間それをハッキリ認識出来たから、賭に出ることにしたのだ。自分の力を見て、自分をこのままに放っといてくれるのか、それとも己の権力の為に利用しようとするのかを……


 「シアン……お前はイプシロンの名を……」

 捨てるつもりか……とヴァノアが寂しそうに聞いてくる。


 「僕はシアントゥレ・イプシロンです。それは変えるつもりはありませんよ。お母様」

 「そう……」

 「それに、まだ出て行くと決まったわけではありません。自分が化け物じみていることをこの国の人間にもう一度教えてやるだけです」

 「自分を化け物呼ばわりするのは母として関心できないよ、シアン」

 「いいえ。僕はもっと化け物になっていくつもりです。今回はそのお披露目程度のものですよ。後には権力を持つ人間すらもおいそれ手出しできない化け物になります。金髪の悪魔の息子として恥ずかしくない化け物になりますよ?」

 

 からかうようにシアンはヴァノアの昔のアダ名を口にした。

 その言葉を聞いたヴァノアは、何故か自分の昔のアダ名がそこまで嫌いなものでもないような気がしてきた。

 (化け物の母だから悪魔か……それも悪くないかもね……)


 そして、シアンのピュロス迷宮行きが決定した。



 ◇



 ユウの力を借りて、ピュロス迷宮近くの安全な場所に移動したシアンは、早速行動を開始した。

 遠く離れた場所で、数百人の戦人たちと魔道士たちが協力して魔獣たちと戦っているのが見える。だが、魔獣の数はその数十倍、いや百倍以上に及ぶだけではなく、強さも段違いだ。このままじゃ、二日もしない内に味方の戦力は全滅してしまう。

 

 (アンリ。ストーカーを発動させてくれ。人間と人間じゃない物の色だけを分けるように頼む)

 『はい。シアン様!』

 シアンの視界の中にいる全ての生命体が、一瞬で赤と緑に分かれた。

 「ユウ。今回は近接戦闘は出来るだけさける。だが、僕が魔法を使った後に寄ってくる敵は任せるよ」

 「はい!主様!」


 そして、シアンとユウの一方的な殺戮が始まった。

 

 最初に立てた間引きの計画はもう見る陰もない。

 強い魔物と弱い魔物の区別なんて、一万を超える魔物を見て頭から消してしまった。

 方法は手当たり次第に殺して、殺して殺し尽くすだけ。

 正に殺戮と呼ぶしかない光景をシアンとユウ二人で造り上げていった。


 空間魔法で、広範囲の空間の断層を作り、地上1メートルぐらいの場所を水平に飛ばして、それに触れた魔獣たちを切断していく。それでも死ななかった敵は、ユウが木属性魔法を使い、草原の草を刃に変えて足元から切り刻んでいった。


 だが、魔力にも限界がある以上、無駄使いには出来ない。

 そうやってある程度数を減らすことに成功し、敵の注意を引きつけたシアンとユウは、魔法と近接戦闘を混ぜる形に切り替えた。

 瞬間移動であっちこっちを移動しながら行われた、シアンの斬撃とユウの馬鹿力による打撃が、次々と魔獣たちの命を奪っていく。

 空を飛ぶ魔獣は、飛び道具などを使って落としていったが、直ぐに球切れになってしまい、死んだ魔物の牙と爪を折ってそれを飛ばして落としていった。


 魔獣の数が1000を切った時点で、シアンのレイピアと短剣も、これ以上使うことが出来なくなってしまい、シアンは残りの魔力を殆ど使い、土から金属成分を集め、数十本の剣を作って、戦闘を続けた。

 

 それを、その狂気じみた戦いを目にした戦人と魔道士たちは、勝利の喜びなど頭に浮かべることが出来ず、誰もがこの言葉を口にしていた。


 「化け物だ……」と。


 そうやってシアンは正真正銘、化け物の称号を自分の物にした。


 ◇



 しかし。

 だれも、予想できなかった。

 だれも、考えつかなかった。

 だれも、こんな大掛かりな暴走事件がただの囮(・・・・)だったとは、夢にも思わなかった。


 その日。

 シアンが化け物の称号を手にした、その日。


 ラザンカロー王国の王宮の地下で、新たなダンジョン(・・・・・・・・)が、口を開いた。

 

※次回の投稿は23日の午後1時前後の予定です。頑張ります。

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