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第四十三話 ユウの目覚め

※ブックマーク登録10000件突破!!ありがとう御座います!これからも頑張りますのでよろしくお願いします!

 

 この世界には自分よりとんでもない怪物がウジャウジャしている。

 シアンが瞬間移動のことに欲を出した理由はそれだった。


 《赤の剣》のミレナの話によると、ギフトを持っている《赤の剣》のメンバーだけではなく、その連中ですら敵わないぐらい古代人の末裔は強いとのこと。

 つまり、シアンが武力で最強になるためには、そんな連中を凌ぐ力を得る必要があるとの事だ。


 他の人間の技を分析し、自分の物にしていくのは、効率的であることは間違いない。だが、それをするためには十分なデータが必要だ。

 しかし、人の戦闘を見る機会なんて、そこまで多くあるものでもなく、覚えたとしても、身に付ける為には、時間を費やした訓練が必要になる。


 そこでシアンは、瞬間移動が使えるというドライアードの話を聞いて、自分で使えたら、と考えてしまったのだ。

 瞬間移動を使えば長距離の移動が楽になる。そうなれば戦闘の場面にも多く出くわすことができる上、戦闘の幅も広がる。

 

 だが、そんなシアンの欲望がホイホイと叶う程、世の中は甘くなかった。


 「坊や。それは無理よ」

 「……交渉は決裂ってことか?」

 「違うの。瞬間移動を教えるのは構わないけど、それにはもう一つの資質が必要になるからよ」

 「資質って……?」

 「遠見よ。それが出来ないと瞬間移動する場所が少しズレてしまっただけで、死んでしまうのよ」

 

 遠見。

 遠くの状況を、目を使わずに視覚情報(・・・・)として脳内に映し出す力で、地球では【千里眼】もしくは【リモート・ビューイング】と呼ばれるものだ。


 「じゃ、目に見える範囲での移動は?出来るんじゃないのか?」

 「できるけど、それじゃ瞬間移動を使えるまでもないんじゃないの?」

 「……いや、使える。瞬間移動の活用範囲は広い」

 「まぁ、それなら構わないけど、本当に出来るのね?呪縛を解くことが」

 「実は既に研究中だ。ユウの呪縛をなんとかしてあげたくてな」

 

 シアンが言ったことは本当だった。ユウの呪縛のことがどうしても気になったシアンは自分の知る範囲内でいろいろ検討していたのだ。

 ただ、術式自体を構成する言語と、細かいプロセスなどが分からず難航している状態だったが、それも今は宛はついている。


 それは《赤の剣》の連中だ。


 ミレナが、さっき術式を補強したのを見ると、この呪縛のことをある程度、理解しているのは間違いない。そして、ミレナはこんな話もしていた。

 「ある人は古代人の末裔が使う術式を見て自分の世界の物だと言っている」と。


 つまり、《赤の剣》と接触が取れれば、呪縛のことを知る可能性が高い。


 それにミレナの気配は既にストーカーに登録済みだ。

 ただし、今は範囲内にない上に瞬間移動でいなくなったせいで、何回ぐらいは無駄足を踏む必要があるが……


 「それが可能なら、おやすいご用だわ。私が失うものなんて何もないもの」

 

 シアンの自信に満ちた話に疑わし目を向けながらも、ドライアードは渋々と頷く。


 「なら、交渉成立ってことでいいんだな?」

 「いいわよ。でも、私をこう言う目にあわせた奴等のことが先よ?でないと……」

 「でないと?」

 「坊やが死ぬまで裸で可愛がってあ・げ・る」

 

 褒美か罰か分からない脅しなのに、何故かシアンの背中には冷や汗が流れ始めた。今の「可愛がる」の意味は言葉自体の意味では絶対ない。そんな予感が頭を過ぎていったのだ。

 シアンはそんな予感をかき消すように、さっさと赤の剣の話に混ぜでミレナから聞いた《古代人》のことを説明し始めた。

 だが、関係の説明で色々こっちゃ混ぜになってしまって、余り簡略な説明にはならなかった。


 「つまり、その《古代人》というのがわたしの敵で、《赤の剣》が古代人の敵で、《赤の剣》が坊やの敵、なのに坊やはわたしの味方になるって言うの?」

 「違う。古代人は人類の敵であんたの敵、赤の剣は人類の敵と戦う為に許せないことをやっている馬鹿どもだ。つまり、あんたと手を組んで問題はない」

 「じゃあ、その赤の剣からも色々聞く必要がありそうね。~でも私はダンジョンに縛られているし……」

 「それは後で僕が調べてやるよ。その前に僕の札は一枚切った。次はあんたの番だよ」

 「……分かったわ。これからその娘は坊やのものよ。可愛がってあげてね。接続は切れているけど、わたしの分身なんだから~ん」


 シアンをユウに惚れている人間と勘違いしているのか、ドライアードがからかうような笑みを浮かべたが、別に訂正する必要を感じないシアンはそれを無視して話を進めた。


 「今回はあんたからだ。瞬間移動を教えてくれ。それがあれば赤の剣を追う時も役立つはずだから」

 「教えるのはいいけど、坊やが使えるかどうかは分からないわよ?」

 「一回、いや二回だけ目の前で見せてくれるだけでいい。見て判断するから」

 「まあ、それぐらいなら問題ない、かな?」


 ドライアードがそう言った瞬間、いきなり目の前に二メートル四方の光の幕が現れる。

 そして少し離れた場所にも同じような幕が現れ、ドライアードが目の前の幕に入っていって、ほぼ(・・)同じタイミングで離れた場所にある幕から出てきた。まるで光の幕が場所を繋ぐ通路になっているような感じだった。だけど、


 「これは瞬間移動じゃないだろう?」

 

 そう、これは瞬間移動ではない。【転移魔法】だ。


 「あら、分かっちゃった?でも、原理は同じよ。このゲートを自分の内部に作ればそれが瞬間移動なの。正し、注意しないと確実に死ぬ(・・)わよ」

 

 再度警告を口にして、今回は何の前触れもなく離れた場所から消えて、シアンの目の前に現れるドライアード。


 「これが瞬間移動。どう?すごいでしょう~?」

 「はい、はい。すごい、すごい」


 心にもないお世辞を口にしながら、シアンはアンリの分析結果を待つ。そして、


 『スキル【転移魔法】とスキル(・・・)【瞬間移動魔法】を作成しました。それともう一つ、特殊魔法【空間魔法】も、ですよ!これで色々応用できそうです!』


 こんなアンリのメッセージが戻ってきた。


 (よっしゃ!)


 シアンは心の中でガッツポーズを作る。

 その時、ドライアードがまるでハイタッチでも求めるように手を出してきた。

 だが、この世界にハイタッチの風習はない。ドライアードが元いた世界はどうか知らないが、シアンは自分が別の世界の魂を持っていることを知らせないためにその手を見て、頑張って知らないふりをしてみせた。


 「ん?なんだよ?その手は?」

 「坊やのことは信じたいけど、何の保証もなく、研究が終わるまで待つことはできないのよね~。だから、魔力でわたしと繋がりを作るの。そうすれば何時でも坊やをここへ呼べるから~」

 「なんだそれ、嫌だ……って言いたいところだが、そうだな。保証も何もないんだよな。分かったよ。繋ぐよ。でも、あんたからじゃなく僕からだけど」

 「あれ?坊や。付与魔法も使えるの?」

 「まぁな」


 シアンはそう言って突き出されたドライアードの手に、自分の手を当てて【共振】の魔法を付与する。

 「これで、あんたの魔力と僕が魔力が共振状態になったよ。あんたが魔法を使っても、僕が使ってもお互い何処で魔法を使ったのか、感知出来るようになった。これで問題無いだろう?」

 「そんな魔法があったの?」

 「僕が作った魔法だよ。疑わしければ、ほら」

 シアンは人差し指に小さな火の玉を作り出す。

 するとシアンが【共振】の魔法を付与した手に何か感じるのか、ドライアードが自分の手を見て、


 「あ~本当だ~おもしろ~い、い、い、いいいいいいいい!!!!!!きゃああああああああああ!!!!!!!!!!」

 「!!?」

 

 共振を感じて面白がっていたドライアードがいきなり悲鳴を上げた。

 何かの冗談だと思うには余りにも苦しそうなその声は、森すらも震わせ続けている。

 シアンは自分が何かを誤ってしまったのではないかと、一瞬身を固めてしまったが、数秒しない内に悲鳴の声は収まり、ドライアードはその場でへたり込んでしまった。


 「お、おい。大丈夫、か?」

 

 心配そうにシアンが一歩だけドライアードに近づく。だが、ゆっくり目を開けたドライアードからでた初めての言葉がシアンの足を止めてしまった。


 「あ……(あるじ)様?」

 

 初めて聞く呼び名だったが、シアンには何故かその言葉が聞き覚えのあるもののように思えてきた。そして、それが誰の言葉だったのかまでも……


 「ユ……ユウ、か?」


 シアンの質問にドライアードが、いやドライアードの顔をしたユウがシアンに飛び込むように抱きついてくる。


 「主様ぁ!!!」


 シアンは、状況を理解するために必死に回し続けている大脳と、自分の顔を包み込む二峰の圧迫感で頭が爆発寸前の状態になってしまっていた……

 

 ……

 

 …と自己弁護したが、


 『シアン様。脳内で嘘はいけません。胸の感触のせいで頭がまわらないだけですよ』



 アンリには通じなかったようだ。

※次回の更新は21日の午後の予定です。出来れば午後3時前にアップできるように頑張ります。

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