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第三十八話 ダンジョンへ行こう

 ユウが参戦した初めての依頼から十数日が過ぎた。


 ユウも大分シアンとの生活にも馴染んできて、回りの人もユウの少しおかしい行動に慣れ始めている。

 シアンもこの数日、自分に懐いてくれるユウを仲間として受け入れるようになり、ユウのことを色々知ることが出来てきた。


 まず、ユウの歳は13歳で、物心ついた時から奴隷商人のところでいたそうだ。初めて呪縛を付けられた時は覚えてないしく、8歳の時に主人の前で暴れたことでもう一つの呪縛が付けられたそうだ。

 ただ、普通、子供が暴れるからと呪縛を付けることはない為、その理由を聞いてみると、暖炉の横に置いてあった鉄で出来た焚き付け棒を素手で曲げることで簡単に理解させてくれた。つまり、もっと幼い頃から馬鹿力を持っていたのがその理由だったのだ。

 余談だが、焚き付け棒はマーシャから怒られるのを避ける為にシアンが同じように素手で元に戻したが、その行動でユウは更にシアンに懐くようになってしまった。


 他にも、半年前に盗賊に自分の主人が殺されて盗賊の魔紋をつけられたことなどを知ることが出来たが、肝心な声の部分はユウすらもその理由を知らなかった。

 アンリの予測では、初めて付けられた呪縛が余りにも幼い体に負担をかけた為、脳内の言語領域を一部損傷させたのではないかってことで、回復出来る可能性は低そうだった。

 

 それ以外には、あんな苦しい時間を過ごしたのにも拘わらず、明るく元気な普通の女の子で、喋れない事を除けば何の問題もなく、シアンの依頼を手伝うこともちゃんと出来ているユウであったが、奴隷であるため他の職に付くことが出来ず、このままずっとシアンの側でいさせるしかないことが、シアンには少し心苦しかった。

 そんなシアンの気持ちを感じ取れるかのように、ユウはちょくちょくシアンの前で自分の元気さを表現しているが、残念なことにむしろそれが《犬の愛嬌》のようにシアンを含む回りの人に映ってしまい、ユウのアダ名が《シアンのワンちゃん》として広まりつつあるのが、シアンのもう一つの悩みの種になった。


 そんなこんなで時間が過ぎて、季節は本格的な夏の空気が時々顔を出すようになっていた。

 


 戦人は仕事柄、防具を身につけることが多いため、夏場は規定数だけ仕事をこなして普段は別の仕事をするか、休暇を取っている人が多い。

 防具は厚いし、素材も金属か革の場合が多いため、基本暑い。それも普通の人間なら汗の流し過ぎで、倒れこむぐらいの暑さだ。

 無論、それを耐えて仕事をやり続ける人たちもいるが、それも軽装でやっていける仕事に限られてのことだけだった。


 そんな中、怖いもの知らずの五級以上の人間だけが行ける、仕事も出来、避暑も出来る最高の場所があるのだが……


 「ダンジョンに行ってきます」

 「では、シアンさんは明日から王都を離れることになるんですね?」

 「シアン。お前もダンジョンへ行くのか?」


 夕方、仕事を終えて報告にギルドに来ていたシアンが、ミリアーナに明日からの予定を話していると、後からレパロが話に混ざってきた。

 

 「はい。明日出発です。ヴァルファス迷宮って確か3日ぐらい馬で行けば付くんですよね……って、もしかして?」

 「ああ。俺とリャナもそっちに行くことにしたよ」

 「そうですか……じゃ、向こうに行ってもまた会えますね」

 「おい。そこは「行くんだったら一緒に」って言うところだろう?」

 「残念ですが、僕はあっちにいるユウと一緒に馬で行きますので、時間的にあわないと思いますよ?二人は馬車でしょう?」

 「あ……それはそうだ、が……」


 シアンが扉の横でちょこんと座っているユウを指しながら答えると、レパロが困ったように口籠る。

 その時、後から機会を伺っていたリャナが声を上げならが近づいてきた。


 「ああ、もう。レパロ、あんたはいつもいつも回りくどいのよ。男だからピシっと行きなさい。ピシっと!」

 「あ、こんにちは、リャナさん」

 「早速だけど、シアン君!ウチのパーティーに入らない?」

 「すみません。今はパーティーに入る気はありません」

 

 元気よく勧誘してきたリャナだったが、間髪入れずに戻ったシアンの断りにあっさりと撃沈した。

 だが、リャナは諦めるつもりはなかった。

 

 「ダンジョンに行くんでしょう?中に入ると一人じゃ厳しいわよ?理由もなく五級以上限定になってるわけじゃないんだから!」

 「知ってます。だから暫くは下見を兼ねてあの娘と二人で入るつもりです。それでも厳しかったら……まぁ。その時になってから考えます」

 「あそこに行ってメンバー探すのは大変よ?」

 「別にダンジョンだけに命掛けてるわけではありませんから、その時は戻るだけですよ」

 「……」

 「もう、いいですか?」

 「……手厳しいわね……」

 「あ、先に言っておきますけど、下手に出てもお断りしますからね?」

 

 シアンは最初から二人の意図を分かっていたように、鉄壁のような防御で二人の提案を断った。


 「リャナ。ここは引くべきだな。いくらレンジャーが欲しくってもこれ以上無理強いは言えねぇよ」

 「でも!」

 「シアン。足止めして悪かったな。また、機会があれば一緒に仕事しようぜ」

 「はい。機会がありましたら、是非」


 そうやって二人から開放されたシアンはユウを連れてさっさとギルドを後にした。




 『最近、勧誘してくる人がかなり多く出てきてますね』

 (万能型の宿命みたいなもんだろう?何処にでも使えるんだから、チームとしては役立つ人材に見えるんだろうさ)


 屋敷に戻る途中、アンリが不満そうな口調で愚痴をこぼすと、シアンは大したことではないように返事を返す。

 

 『でも、それって結局、面倒なこと全部シアン様に押し付けるって意味も含まれてるんですよ?』

 (知ってるよ。だから断り続けてるじゃないか)

 『それでも、気に入りません!』

 (じゃ、どうしろと?)

 『勧誘する人たちにガッツンと言ってやりましょう。「使い走りを探すなら他をどうぞ」、いいえ、「自分のことは自分でなんとかしてください」がいいです!』

 (それじゃ、喧嘩売ってるようにしか聞こえないだろう?)

 『そうです。喧嘩を売りましょう!シアン様を甘く見てる連中に鉄槌です!これならこの前まで、化け物だと敬遠されてた時の方が良かったですよ!』

 (それは僕が嫌だよ……)


 どうやら、アンリも最近のパーティーの勧誘の多さに少しウンザリしていたようで、かなり思考回路が荒くなっていた。

 それも当然なことで、シアンはほぼ毎日、色んな人達から勧誘を受けていて、その人達の中では、かなり強引な勧誘をする人間から懇願までしてくる人間まで様々な人たちがいたのだ。


 最初にシアンを化け物扱いしていた人たちすらも、10歳で五級まで上がり、万能型で、ギルド長の養子と言う確実した身分で、魔導学園を卒業して、王子とも学友、人当たりの良い性格まで色んな利点を持っているシアンに近づいてきている。

 無論、その全てはシアンが気に入ったからの理由ではなく、損得勘定からの行動であったし、アンリの心理分析がそれを全てキャッチしていた。


 アンリが荒れている理由も、シアンがダンジョン行きを決めた理由も殆どそれが原因だった。


 「まぁ、明日はダンジョンへ出発だし、元気出していこう!」

 シアンはアンリとユウ、両方に聞こえるように元気よくそう言って右拳を持ち上げる。

 「アウッ!!アウウッ!!」

 ユウもそれに釣られて同じポーズで叫びを上げた。





 だが、数日後シアンは激しく後悔することになった。

 

 この日、レパロとリャナの勧誘を断ったことを……

 

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