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SS 01ー02 プレリアの訪問。

※15/09/13 内容部分に関する助言を貰いましたので、少し内容を追加しました。

 「シアントゥレ様。バイエステス侯爵がいらっしゃっております」

 「バイエステス?」

 

 ある日の夕方、狩りの仕事が思ったより早く終わってしまい、早めに屋敷の方に戻ってみると、メイド長のマーシャがシアンに来客を知らせてきた。


 『シアン様。プレリアさんですよ』

 (あ、そう。そう言えばそうだったかも……)

 

 「じゃ、応接室に行けばいいんですか、マーシャさん?」

 「シアントゥレ様。ちゃんとお召し物を着替えて行きませんと礼儀に……」

 「いいんですよ。今日は血も付いてないし、殆ど汚れてないから」

 「ですが、」

 「連絡もなく来て待ってるんでしょう?むしろ礼儀に気をつけすぎて遅くなる方が逆に失礼だと思うんです。だから、今日はこのまま行きます」

 

 本当は面倒だと思っているだけだったのだが、シアンは何時も礼儀だ何だうるさく話してくるマーシャに、適当な理由を口にしながら先に応接室の方に走りだした。

 

 マーシャは逃げるように走りゆくシアンを見ながら「伯爵様だけじゃなくシアントゥレ様まで……なんでこの家の方々は……」と嘆きの言葉を口にしたが、既にシアンは視野の中から去った後だった。



 ◇



 

 シアンが応接室に入っていくと私服姿のプレリアが先に謝罪を口にしてきた。


 「急に訪ねてきてしまってすみません。シアンさん」

 「いいえ。それより連絡もなくどうしました?なんか急ぎの用事でも?」

 「明日仕事でバッシュマン王国へ行くことになったので知らせようと思いまして、ギルドに言ったらイプシロン伯爵が夕方には屋敷に戻っているからと……」

 「え?明日ですか?随分と急ですね……」


 「はい。でも、この間の事件のことで抗議とかもあって、急ぐ必要があるのですから、仕方ないんですよね……」

 「それは……仕方ないんでしょうね……」

 プレリアの「仕方ない」というところの声には、少し寂しい感情が滲みでていたが、シアンはそれに気づかず状況のことを考えて頷いてしまった。

 それを見たプレリアは小さく「はぁ……」と溜息を吐いた後にもう一つの用件に話題を変える。


 「それより、これが本題なんですが……」

 「挨拶だけじゃなかったんですね」

 「はい。カルーアさんのことです。取り調べが一旦終わりましたのでそのことを知らせに来ました」

 「僕には知る権限がないから、取り調べの結果は教えて貰えないと思ってましたけど……」

 「他のことならともかくカルーアさんのことはシアンさんに知らせようと陛下に許可をいただきましたので大丈夫です」

 「ありがとうございます。実はその後どうなったのか気になっていたんですよ」

 

 そこで嬉しそうに笑うシアン。それを見たプレリアはまた少し落ち込んでしまった。


 「……」

 「あれ?プレリアさん?どうしました?」

 『シアン様は鈍感系主人公でも目指してるつもりですか?』

 (なんだよ。僕なんもやってないだろう?)

 『いいえ。やりました。はじめからやらかしていました!』


 「大丈夫です。では始めましょう」

 「あ、はい。よろしくお願いします」

 アンリの責めているような言葉が気になったが、話の腰を折るわけにはいかなかったのでシアンはそのままプレリアの話に耳を傾けた。

 

 「結論から言います。カルーアさんがやったのは奴隷商と情報屋だけで、母の事件とは無関係でした。母の事件に関係していたのは別の人物です。カルーアさんもその情報を持ってはいませんでした。ですが、バッシュマン王国内にいる《白の剣》だと推定される人物たちの情報を、4人ほど得ることができたので、今回私が赴いた際、その人達のことを調べてくるつもりです」

 「じゃ、プレリアさんの母上のことは未だ解決されたわけではないんですね……」

 「ええ。ですが、諦めるつもりはありません。今回バッシュマン王国に行って必ず何かを掴んて戻ります!」

 「プレリアさんは余程母上のこと敬愛しているようですね。あんなことがあったのに……」

 シアンのその言葉にプレリアの顔に陰が落ちてくる。


 『シアン様!それは言ってはだめなセリフですよ!禁句です!線を超えてます!』

 (え?まじ?)

 「す、すみません。プレリアさん。無神経でした……」


 アンリのダメ出しにシアンは真っ直ぐ謝ったが、プレリアは落ち込んだ口調で「大丈夫です。事実ですから……」と呟いた。

 (これは大丈夫じゃないです、って言ってるよな……)

 『当然です!!』


 「すみません……」

 もう一度シアンが謝ると、プレリアは「あ、そう言えば言ってませんでしたね……」と何かを思い出したように顔を上げた。


 「この前、言いそびれましたが、母は自分がやってることが国の為と思ってやっていたそうです。つまり、知らずに利用されていたことになります。私が母を完全に憎むことが出来ないのはそのためですよ」

 「利用されていた?」

 「はい。自殺する時書いた遺書に『《ラ・ギルルスの剣》が国の膿を取り出す為の秘密結社だと思っていた』『薬のことも組織の資金調達の為に必要だと言われた』と書いてありましたから。もちろん自分を守るための嘘である可能性もありますが、死ぬ直前にそんな嘘を残したとは思いません。いいえ。思えません」


 (そう……か……だから、あんなに夫の死に気を病んで、自殺まで……)

 『でも、プレリアさんとは違い頭が真っ白な感じの人ですね。遺書の内容だけ聞きますと』

 (それ、純粋な人……って意味だけじゃないな、お前)

 『シアン様。今は私よりプレリアさんに謝りませんと……』

 (こら!逃げんな!って僕もそうか、これはちゃんと謝るべきだな)


 「改めて本当に申し訳ありませんでした。本当だめですね。古傷を抉るような話までさせてしまって……」


 シアンは心から謝罪の念を込めて頭を下げる。

 それを見たプレリアは少し奮発した大人の微笑みを顔に浮かべて、シアンの謝罪を受け入れた。

 「いいです。シアンさんは子供ですから、そこまで気がまわらないのも理解できます。でも、これからは気を付けてくださいね。女性の心は繊細なんですよ?」

 「はい。肝に銘じておきます」





 その後、シアンは少し機嫌を直してくれたプレリアと丁度良く戻ってきたヴァノアと共に夕食を楽しんだ後、プレリアが乗ってきた馬車の前で別れの挨拶をかわしていた、が……


 「明日見送りには来ないでくださいね」 

 「え?なんでですか?」 

 「それは……内緒です」 

 「!?」

 「それじゃ、後にまた会いましょう。次に会う時まではもう少し成長していてくださいね」


 プレリアはそう言い残して馬車に乗ってさっさと帰ってしまった。


 (アンリ。やっぱりさっきのこと根に持ってないか、あれ……)

 『いいえ。あれは乙女心ですよ』

 (え~?なんだ、それ?)

 『乙女心が分かるように成長してくださいね。シアン様』

 (しょ、精進します……)


 そうは言ってはみたものの乙女心というのはシアンにまだ高い壁のように感じられた。







 その頃のプレリアは……

 (シアンさんだけが皆と別に挨拶することに意味があるんですよ……でも、出来るだけ知らないでいてくださいね。変質者な私を知らないでいてください……)

 そうやって自分とシアンの歳の差を恨みながら、悩みに深けていた。




 八歳児に恋をした変態(ショタコン)さんは乙女であった。

 だが、シアンの中身は子供ではない。

 本当の意味では変態ですらない彼女は、自分が変態ではないことを知らない。

 自分を変態だと思い込んだ上で恋をしているのだ。


 真に恋とは恐るべきものだった。 


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