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第三十一話 コンタクト

 シアンが笑ったのには理由があった。

今までは計画を立てて、アンリがそれのサポートをする。それが基本ポジションだったが、今回はアンリが計画を立てて、シアンはとてもそれが気に入った。

 それがシアンの笑みの原因だったのだ。


 だが、その計画は役者たちのほんの僅かな変奏によって、少しズレた方向に進んでしまった。





 シアンはカルーアを抱えて出来るだけ目立たないように本館に向かい、執務室の真下の部屋に入っていった。


 「どうしてこの部屋なんだ?オヤジのところじゃねえのか?」

 「そこは今敵が注目しているから、今はここで待ってろ。直ぐ戻る。」

 「俺も連れて行け!」

 「しっ!静かにしてろ!敵が気付いたら台無しなんだぞ!」

 「何やるつもりなんだよ、お前……」

 「ちょっとした騙し討だ」


 それだけ言い残してシアンは部屋から出て階段を上がっていく。上がっている間も三次元空間探知を使い、敵の位置と行動確認を続ける。

 ライラがいた、執務室の隣の部屋の前を歩く時には思わずで少し緊張してしまったが、何事もなかったように執務室に入る。


 「シアントゥレか、一体どうし……!?」

 何も言わずに入ってきたシアンを見て驚いた公爵が口を開こうとした時、シアンは無言で人差し指を唇に付け、音を立てずに「しっ」のポーズをしてから、机に向かい置いてある紙に『少し芝居します。あわせてください』と急ぎで書いてみせた。


 それから、「カルーアさんを連れて王宮の方に行こうとおもいます。」と言いながら、そのまま筆談を続けていく。


 『まずカーテンを閉めてください。敵が窓と扉の外に、』

 それを見た公爵は目聡くそれをキャッチすると、目だけで補佐官に合図を送りながら芝居に合せてきた。それに気付いた補佐官も目聡くカーテンを閉めた。

 「いきなりなに言ってるのだ!まだ王宮からは何の連絡もないのだぞ」

 『カルーアは無事か?敵の戦力は?』


 「ここに敵がやってくる可能性があるからです。どうかご許可をお願いできませんか?」

 『無事です。二人です。強さは未知数です』


 「どうしてそこまで急ぐのだ?警備のものがいるではないか!」

 『これは敵を騙して捕まえるためか?』


 「……どうしてもっておっしゃるなら諦めますが。敵は狡猾です。最大限の注意が必要だと思われます」

 『はい。すこし本館を壊すかもしれません。それと、僕が部屋を出た後、部屋の中央に集まっていてください』


 「王宮から連絡が来るまでは警備に最大限の注意を払う!だから、今日はこのまま待っていなさい!」

 『許可しよう。出来るだけ被害を抑えてくれると助かる』


 「はい。分かりました。では」

 それで筆談を終えたシアンは、執務室を出て下に降りカルーアを待たせてある部屋に入る。

 

 「オヤジは無事か?」

 さっきまで「どうせ死ぬ」などの親不孝なことを口にしていたとは思えないカルーアの心配ぶりに、シアンは苦笑いをしながら「無事だ」と短く返事してやった。


 その後は地面に手を置いてアンリに最後の確認を頼む。


 (アンリ。コレが最善なんだよな?)

 『はい。この建物の建築素材には電線を作り出せるような成分は含まれていません。よって電撃を利用した制圧は無理ですから。コレ(・・)以外には二人の制圧にもっと時間が必要になります』

 

 今の《コレ》とは、簡単に言えば誘い込み作戦だった。

 敵を部屋に誘い込み魔法で一気に捕まえる。でも、それには公爵の安全が問題になる。だからここ、つまり真下の部屋で天井に穴を作り公爵をこの部屋に移動させて、空になった執務室にシアンが入って敵を待ち受ける。

 そういう作戦だった。だが、


 『ドン!!!』


 という音と共に少しの揺れが上の階からいきなり伝わってくる。

 『シアン様!先手を取られました!』

 「くっそ!」

 アンリの慌てる声を耳にしながら、シアンは急いで魔法を発動させた。

 だが、シアンが使ったのは、計画していた穴を開くだけの魔法じゃなく、公爵たちを守る為の壁を作る魔法だった。


 三次元空間探知で上の様子は見える。

 問題なく魔法も発動出来た。

 シアンが作った壁は確実に部屋中央の二人を囲んでいる。

 だが、何故か壁の中にいる一人が倒れていた。

 


 シアンは発動速度が一番速いオリジナル土魔法【メルト(溶かす)】を使った後、魔法で強化した足でジャンプしてそれを突き破って執務室へ入る。そこは壁の中ではなく、窓際に立っている、ボヤンの直ぐ側だった。


 地面を破って湧いて出たシアンを見たボヤンは、間髪入れずに投擲剣をシアンに向けて投げてきたが、シアンはそれを簡単に避けてから素早くボヤンに近づいた。


 しかし、ボヤンも安々と間合いをやらないように格闘を混ぜた短剣術で、シアンを攻撃し始める。

 それは、地球のフィリピン武術、エスクリマと良く似ている動きだった。

 少し長い短剣と手足を使った非定型的な動きがシアンの接近を止めようとする。

 

 だが、シアンはそれを屁とも思わないかのように接近し、自分を攻撃してくる剣を避けてその代わり足に蹴られた。

 普通ならこれ程の体格差ならシアンは簡単に飛ばされている筈なのに、蹴られて少しぴくっとしただけで、シアンは何の問題もなかった。

 

 それは当然、シアンが《軌道投影》を使用していたからだった。動きの虚実が色と透明度で分かる為、幾ら手数を増やしてもシアンには通じない。

 (カルブレン隊長がもっとややこしかった)

 そんな感想と共に既に自分の間合いの中に入ったボヤンの体に電撃を纏った手を当てる。その時ライラの驚いた声が聞こえて来た。


 「な、なんで部屋の中にもう一つ部屋があるのよ!!!」


 短く何発も電撃を喰らい気絶したボヤンを引きずってシアンは魔法で囲った壁の中に入っていく。中には補佐官の上着を着た公爵が剣を手に持ってシアンの入室を驚いた顔で見ていた。


 「こいつが敵です。少しの間見ていてください」

 「こ、これを君が全部……?」

 「説明は後にします。今はこいつを。それに補佐官の方は……済みませんもっと急いでいたら……」

 シアンは既に事切れている公爵の上着を着た死体に向けて軽く謝罪を述べてから、若干の怒りを込めていた顔を無理やり笑顔を変えた。



 その後、

 「お久しぶり……ってほどじゃないですよね。ライラさん」

 そう口にしならが執務室の中の石室の扉を開た、シアンの声にはとても|楽しそうな感情が込められていた。


 「シ、シアントゥレ!!何故!?あんたはさっき!?」


 (ああ、なんか楽しい気分だ。これで僕は完全な優位に立った。貴女を苛める名分もある。だから、作戦がズレてしまった憂さ晴らし、ちゃんとさせて貰いますよ。ライラさん)


 それから、シアンは自分が完全に優位に立ったことをライラに示すことから始めていった。

 「まだ驚くのは早いですよ。これは何でしょう、か?」


 そしてシアンは気を失っているボヤンをライラに見せる。


 「ボ、ボヤンさん……」

 「詰みですね~ライラさん~」


 シアンは絶望しているライラを、勝負に買った子供のようにからかいながら笑う。

 それはライラに正しい意味で伝わっていた。

 悪魔の笑み……として。


 だが、シアンの楽しみはそこで終わってしまう。


 「あ~あ。幾ら白だと言っても簡単にやられやがって……弱すぎるだろうが」

 

 急に聴こえてきたその声はこの部屋の中にいる誰の声でもない、ガリガリしたとても耳に触るような声だった。しかし肝心な声の持ち主が何処にもいない。いや……


 「なんで気絶した人間が口だけ動かせるんだ!?」

 公爵のその言葉で声の出処はわかったが、それはボヤンの声ではない。何故なら……

 『シアン様。あの人死んでます』

 そう、死んだ人間は声を出さない。つまりこいつは……

 

 「カルーアさんにフレッシュゴーレムの技術を教えた赤の剣の人間か?」

 「へえ。私を知っているのか~。それともハッタリかな?でも、そうだな。人の体を借りての挨拶になるが、私は赤の剣の司祭《銀血のトガ》ってんだ。長~い付き合いになるかも、と思って挨拶しにきたぞ。シアントゥレ」



 それがシアンの人生の中で一番長い付き合いになる、赤の剣のメンバー《銀血のトガ》、別名《死の弁者デストーカー》との初めての接触だった。


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