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第二十二話 敵。


 建物の中に入ってからもシアンのワンサイド・ゲームは続いた。


 内部は廊下式の構造で、各部屋は前世で世話になった格闘技ジムのリングとほぼ同じサイズだったので、試合感覚で一人か二人ずつ相手にしていく内に建物は簡単に制圧出来た。


 元々総合格闘技は一対多の戦闘を想定していない為、大勢に囲まれる状況だったなら他の手を考える必要があったが、幸い敵が部屋ごとに散らばっていたため簡単に各個撃破されてくれた。


 商会のマネージャーはシアンたちを見て逃げようとしていたが、シアンが手を出す前にプレリアの【土の足枷】という、足元の地面を一瞬だけ泥に変えてまた固める、バインド系魔法であっさり拘束された。


 「すごいです……シアンさん。もう終わりましたね」

 「まあ、僕に有利な状況でしたので、なんとか処理出来ました。でも、どうしましょうかね。まず警備隊の人たちを呼ぶべきでしょうか?それとも先にそのマネージャーを尋問しましょうか?」

 「先に幾つか質問しましょう」

 「分かりました、では。聞こえてますよね、マネージャーさん?さっさと吐いたほうがお互い楽に出来ますよ!」


 「ひぃ!ち、近寄るな、化け物ぉ!!」

 「僕が化け物なら、戦人殆どが化け物になりますよ。それに僕、一人も殺してませんからね」

 別に強さだけで化け物断定しているわけじゃないのを知っているのに、シアンは惚けながらゆっくりとマネージャーの方へ近づく。


 「話す!何でも話すから!!殴らないでくれ!!」

 ただ少し近づいただけなのに、マネージャーは地面に埋め込まれ動かない足で必死で動かしながら、涙と鼻水でグチャグチャになった顔で懇願してきた。



 人間は想像する生き物だ。

 恐怖とは想像から来るものであり、厳密には《目の前の恐怖》という言葉は正しくない。全て自分の頭の中で起こる現象だ。

 現に銃を初めて見た何処かの国の軍人たちはそれが自分を殺す為の武器であることを知らなかった為、自分が持っている槍が長いから勝てると考えていた。

 だが、銃に関する知識が広まった今は長い棒状の物を銃のように構えて自分に向けられただけで、それがただの棒だと分かっていても人間は不快感を持ってしまう。

 

 しかし、素手の暴力は違う。

 人間は基本誰でも素手の戦闘が出来るため、武器とは違いそれの恐怖を身に持って知っている。

 だからこそ、筋力がない、小さい子供が素手の格闘で10人以上の大人を圧倒するという型破りなことをやって見せた時、人間は頭では分かっても感性がそれを受け入れることが出来なくなる。


 よってよく出る反応が、恐怖でパニックになるか、現実を否定するか、自分の常識の中に無理やり取り込むか、だ。

 マネージャーの場合は、反応その一の典型的なものだった。


 取り乱したマネージャーを見たシアンは、この後はプレリアに任せるのがいいと判断して一歩下がりながら目でサインを送る。

 プレリアもそのサインをキャッチして頷いてみせると、早速何時も以上に力が入った声で尋問を始めた。


 「それじゃ、単刀直入に聞きます。貴方は《ラ・ギルルスの剣》に所属していますか?」

 「は、はい! そうです!わたしは《ラ・ギルルスの使徒》です!」


 ストレート過ぎるプレリアの質問に必死に首を縦に振りながら答えるマネージャー。

 だが、《使徒》という言葉に違和感を感じたシアンはアンリの助言を求めた。


 (アンリ。使徒って言葉さ。宗教団体とかに使うあの使徒、だよな?)

 《『はい。間違いないと思います』》

 (じゃ、闇組織は宗教団体と絡んでるって事かな?)

 《『情報が足りないから確証はありませんが、そう見て間違いないのでは?』》


 そこでプレリアとマネージャーの話からシアンとアンリの予測を裏付けるような内容が聴こえてきた。


 「太陽神の名を語った宗教団体の構成員にしては素直ですね……信仰心は何処に売りました?」

 ヤケにプレリアの口調が攻撃的だ。


 「か、彼らは、聖人ギルルスの教えに従っています!『闘争こそが神の意志』と聞きました!それ以上は知りません!!本当です!!」


 まるで自分は関係のない人間だとも言うような口振りだ。だが、まだプレリアの質問は終わらない。


 「私が聞きたいのはそこではありません!なぜ、アンブロッテ子爵を煽る様なことをしたかを話してください!」

 「そ、それは……」

 「自分がやったことが戦争を起こす可能性があることを知ってやったのですか?」

 「い、いいえ!!何も知りませんでした!!」


 《『嘘ですね』》

 「嘘ですよ、それ」


 アンリの話を聞いたシアンが直ぐにそれを口にする。

 しかし、プレリアは邪魔はしないでくれとも言うように、シアンをじろっと見てから再びマネージャーに視線を戻した。


 「正直に話しなさい。貴方は何時から組織に身を置きました?」

 「……に、二年前……」

 「そうですか。やっぱり貴方もあの事件(・・・・)に関係しているんですか……」

 

 『あの事件』の処でプレリアの顔が一瞬曇る。

 プレリアの顔をずっと見ていたわけではないシアンにはそれが分からなかったが、アンリは声と身体兆候を読んでその言葉に複雑な感情が込められていることを認識していた。だが、敢えてシアンには教えない。

 それは自分の感情を抑えているプレリアに対する配慮でもあり、負の感情を受けることで傷付くかも知れないシアンに対する配慮だった。

 

 そして、プレリアは今聞くべき情報は全部聞いたとも言うように踵を返しシアンを呼ぶ。

 「大体のことは分かりました。残りは正式な尋問の時に聞けばいいと思います。シアンさん。警備隊を呼びましょう」

 「や、やめてくれ!わ、わたしは……」

 警備隊を呼ぶと言う言葉にマネージャーが騒ぎ出す。それが少し耳障りに聞こえたシアンは【テーザーガン】の魔法で直ぐに静かにさせた。これで警備隊が来る間は静かになる。だが、その時、

 扉の方で一度も聞いたことないチャラチャラとした男の声が聞こえてきた。


 「あ~あ。これじゃ商売上がったりじゃねぇか~」

 「誰ですか!?」

 プレリアはいきなり聞こえた声に驚いて、振り返りながら声の主を睨む。

 だが、シアンとアンリは違う意味で驚いていた。

 

 話を掛けてきた20代ぐらいの、赤い髪を持つその男は傷跡がクッキリと残っている手で無精髭が生えている顎を擦りながら、扉にもたれかかっていた。


 しかし、その男からは何の気配も感じられない。

 アンリが幾ら分析を試しても、呼吸と心拍などの生命徴候の一欠片も見つからなかった。

 幻術のたぐいなら魔法の兆候があったはずだ。だが、それもない。

 どう見ても目の前で実在している人間だった。

 だからこそ、シアンとアンリにはそれがとても危険に感じられた。

 

 シアンとアンリの一番の強みは分析と理解力だ。

 勿論、身体のスペックも子供の基準で見れば化け物じみている。でもあくまで子供の時点での話だ。大人の中ではシアン並の能力を持っている人間なんて幾らでもいる。

 なのにその強みを活用出来ない存在が目の前にいるのだ。

 危機感を覚えずにはいられないのだろう。


 「誰、か……そうだな。俺は《ラ・ギルルスの司祭》って所かな?別に好きでなったわけじゃないけど。それより少年、君だね?俺の手下共をこんな風にやったのは」

 「ああ。これでも戦人なんだ、僕」

 「知ってるよ。シアントゥレ・イプシロン君」

 「ああ、やっぱり組織の上の人間だから色々情報持ってるみたいだね」

 「それは関係ないよ。俺の本業は情報屋と奴隷商。だから少しばかり耳と鼻がいいだけさ」

 「組織の事、随分とどうでもいいように言えるんだな、あんた。宗教団体なのに不謹慎過ぎると処罰とか受けないのか?」

 「受けないね。ウチ、別に宗教やってるわけじゃないし。基本任務貰う時以外、放任主義なんだ。ほら、そこのボンクラが貴族を煽るような余計な真似するとかさ」


 少しでも情報を得て危険度を減らす為に、色々質問を繰り返していたシアンだったが、色々気になる情報まで聞いてしまって、むしろ危機感は増していく一方だった。

 しかし、シアンが会話をしている間、アンリは自分の分析を進めていた。

 そして一つの結論を導き出した。


 《『シアン様。あれはフレッシュゴーレムです』》

 

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