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第二十一話 ラウンドワン。

 プレリアを連れて気配の方へ移動ていたシアンは慣れてない尾行をするより、ある程度距離を維持しつつ気配が目的地に着いた後に接近しようと考え、出来るだけ大通りをゆっくりと歩いていた。

 やがて、マネージャーの気配は移動を止める。

 そこで、シアンは行動を開始した。

 

 (アンリ。《三次元空間探知》だ)

 《『はい』》

 一瞬でシアンの目の前の風景が入れ替わる。一回テストしたお蔭で発動の速度が上がっていたようだ。


 午後の時間なので未だ通りを歩く人の数が多い。だが、マネージャーが入っていた建物の中には人口密度が更に高かった。


 《『マネージャーを除いて34人ですね』》

 (結構多いな。これは出るのを待った方がいいか……)

 《『ですが、その中で22人はどうやら狭い部屋に閉じ込められているみたいです。もしかしたら、じゃなくほぼ確実に奴隷商ですね。ここ』》

 (でも、ここ、公認の奴隷商じゃないよね?これはもしかするともしかするのかな?)

 《『もしかしなくてももしかしますよ、これは』》


 以心伝心だともいうようにアンリがシアンの話に続く。

 二人が言っているのは不法奴隷商のことだった。

 基本奴隷は公認されてない場所での売買が禁止されている。指定されている場所意外での奴隷の軟禁も禁止事項だ。

 しかし、何時の世も合法の裏には不法が生きている。完全に合法だけの世界は存在しないものだ。


 (じゃ、せっかくの逮捕権を持ったんだし、残りの12人捕まえてみるか?)

 《『マネージャーのこと忘れてますよ。シアン様』》

 (あ、そうだな。じゃ13人逮捕だ!)


 それからシアンはプレリアを連れて行くべきか、安全な場所で待たせて逮捕が終わってから呼ぶべきかを悩んだが、一緒に行かないと逮捕の時自分の正当性を認めてくれる人がいないかも知れないと思い、連れて行くことにした。


 「宰相閣下。行きましょう。マネージャーはあの建物の中のようです。ただ、少し手荒なことになりますので、一応気を付けてくださいね」

 「低級の魔法ぐらいは使えます。足手まといにはなりません。それに、私の事はプレリアでいいです」

 「でも、出来るだけ僕の後ろから前に出ないでください、僕はプレリアさんの護衛ですからね。それと僕のこともシアンとお呼びください」

 「はい。では、シ、シアンさん」


 恐る恐るシアンの名前を呼びながら少し恥ずかしそうに微笑むプレリア。

 メガネを外しているせいなのか、シアンにはそれがとても可愛く見えた。


 《『あ、捜査現場の何処からかピンク色の空気が~』》

 (流れてない、流れてないからな!)


 

 ◇



 ピンク色の空気から必死に気を取り直したシアンはプレリアを連れてマネージャーがいる建物の方に向かった。


 地上3階、地下1階に建てられたその建物の中には、地下に奴隷と思われる22人が一つの部屋に集まっていて、地上階の方にマネージャーを含む13人の人たちが部屋ごとに散らばっていた。


 シアンはどうやってその人達を捕まえるかを考えたが、自分とアンリの判断ミスの可能性とアンリのスキル作りの情報を集める為に、前日のような土魔法と雷魔法を使った制圧方法は封印することにした。

 そして女性の前で物騒な流血沙汰を防ぐために剣も封印。

 結局選んだのは《徒手空拳》の戦いだった。


 「おじさん達。ちょっといい?」

 シアンはおどけない顔をして入り口を守っている人相の悪い二人に近づいた。緊張感を持たせずに近づくには子供の外見は良く役に立つからだった。


 「なんだ?チビがこんな所にいると怖い人達に攫われるぞ。さっさと帰れ……っておい。そこの後にいる女、随分と上玉じゃねぇか。おい。お姉ちゃん。ちょっと遊んでいかねぇか?旨い酒売ってる店知ってるけどよ」

 「けへへ。いっぱいいっぱい飲ませてやんよ」


 しかし、直ぐシアンからプレリアの方に関心が移ってしまったせいで、シアンの企みは初っ端から砕けてしまう。

 自分の計画が頓挫したせいなのか、プレリアに色目を使う男たちが気に入らないせいなのか、妙にイラッとしてしまったシアンは、口調を変えてもう一度男たちを呼びかけた。


 「おい。確認だが、あんたら不法奴隷商人だな?」

 「!!?」

 シアンの言葉にプレリアが驚く。


 「ああん!?」

 「誰だテメェ!?」

 プレリアを強引に誘う為、歩み寄ろうとしていた男たちもシアンの言葉に真っ直ぐに反応してきた。だが、たったそれだけの行動でもシアンの予想を確証に変えるには十分な反応だった。


 「やっぱりか。親切心から教えてやるが、そういう時にはもう少し反応を遅くするか、「何言ってんだ?」というセリフを先にやるもんだぞ。聞いた途端に反応して、相手の素性を聞くような言葉を口にするのは「何故そんなことを知っている?」と答えるのと同じだ」

 「ガ、ガキのくせに生意気言いやがって。おい!捕らえろ!地下に放り込む!」

 「お、おい。いいのか?ここでの拉致はお頭が禁止したんじゃ……」

 「関係ねぇ!どうせ明日には去る身だ!さっさと捕まえるぞ!」

 

 シアンの言葉に苛立ちを顕にしながら、男たちは聞きもしない情報をべらべらしゃべり出す。正に三下。絵に描いたようなバカっぷりだった。


 「ガキ!怪我したくなかったら大人しくしてろよ。俺もガキ相手に手荒な真似は……」

 「これな~んだ?」


 不法奴隷商の三下のくせに中々人情溢れる言葉を口にする一人の男にシアンは自分の左手を持ち上げてある物(・・・)を見せてやる。

 

 「!?その腕輪!!オイ!戦人だ!皆を呼べ!!」

 「馬鹿!ハッタリだ!戦人の中にガキなんて……ガキの、戦人って……まさか」

 「はい。正解。正解の賞品は《固い地面のベッド》で~す。返品は受付けません!」


 シアンはそんな呑気な言葉を口にしてから素早く一人に近寄り、十分な勢いをつけた回し蹴りを相手の膝に食らわせる。その一発だけで男の左膝が砕かれ、頭の高さがシアンの目の前まで降りてきた。その隙を逃さずにシアンの跳び膝蹴りが顔面に炸裂して男の意識を完全に奪ってしまった。


 たった一瞬で行われた一連の動きに目を奪われていたもう一人の男は、それに危機感を覚えて仲間を呼ぶために視線を一瞬建物の方に移したが、その一瞬に近づいたシアンの、全身をネジのように捻ってから放った見事なまでのレバーブローが男の右脇腹に吸い込まれ男の声を奪っていった。

 その後の流れは前の男と同じで、痛みで低くなった顔面に跳び膝蹴りが見舞われ男の意識は完全に沈んだ。


 「じゃ、入りましょうか。プレリアさん」


 大の男二人を相手にしたとは思えないぐらい爽やかな顔でシアンはプレリアに道を急がせる。


 「え、ええ」

 素手の格闘はあまり目にしたことないプレリアは男たちの素手の喧嘩はあまり好きではなかった。だが、今シアンがやってみせた《素手の格闘》は、剣撃とか魔法戦とは違う種類の華やかさがあると感じた。そして、


 (あんなに小さくても男……だよね)

 自分でも気付かない一瞬の間にそんな考えが頭を過ぎっていった。



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