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第二十話 捜査と書いてデートと読む。

日間ランキング三位!!

嬉しいです。ありがとうございます。

沢山の誤字を指摘してくれた方々もありがとうございます。


もっともっと頑張ります。





 次の日の朝。

 シアンは返してもらった腕輪と所持品類を確認してから、馬車に乗って王宮を出た。

 王都に到着して馬車を降りたシアンは丸で刑事ドラマのデカにでもなった気分で王都を歩いている。

 大きな目であっちこっちを睨みながら、犯人は誰だ?、と考え巡らせている姿は探偵ごっこをしている子供にしか見えなかったが……。



 法律上、戦人には犯罪者の捜査権と拘束権がない。

 だが、時によって犯罪者の捜査と拘束と即決処罰が認められる場合がある。


 生死不問のお尋ね者(デッドオアアライブ)を拘束もしくは処刑するとか、命に関わる脅威にさらされた時にそれが不法の脅威だと証明できる場合とか、依頼人が捜査権を持っていてその権利を一時的に譲渡した場合がそれにあたる。

 今回の場合シアンは国の最終決定権を持つ国王から捜査と拘束までの権利を一時的に与えられることになり……。


 (つまり今の僕は謂わば《国家公認私立探偵》ってところだな。アンリ)

 《『……楽しそうですね。シアン様』》

 (だってさ~。僕二日間囚人のようなものだったんだろう?自分の足で自分の意志で動けるってことは何とも素晴らしきことか)

 《『別に自分の意志じゃないでしょう?宰相の護衛なんだから』》

 (でも、やっとあの王宮から出られたじゃん。それだけでも俺は嬉しいんだよ。いい気分だから水ささないでくれ)

 《『はい。はい。お好きに喜んでいてくださいね~』》

 (なんだよ。含みのある口調だな)

 《『犯罪捜査なんて能力成長とはあんまり関係ありませんからね』》

 (あれ?そうなの?なんか捜査スキルとか作れるんじゃない?)

 《『捜査スキルって結局は心理分析とレンジャー系のスキルでしょう?心理分析は既にできますし、レンジャー系のスキルは数ヶ月前でも作れましたよ。でも、シアン様が半年前「スキルは出来るだけ必要な時に作ろう、嵩張るのも嫌だし」なんて言ったから作らなかっただけですよ』》

 (そう……なんか、御免な)


 自分の能力に謝る、これはとても可笑しな光景だ。

 だが、擬似でも人格を持ってるようになった為か、アンリの感情表現が色々出るようになってからシアンはアンリを一つの人格体として接するようになっていた。

 《『いいえ。私こそごめんなさい。ちょっと自分の存在意義を成長だけに限定していたみたいです。シアン様に降りかかった火の粉を払うのも私の仕事なのに……』》

 (いや。これからは僕もアンリのこと、もう少し気に掛けることにするよ。折角人格持ったんだ。それを無視するような無神経な人間にはなりたくない)

 《『ありがとうございます。シアン様』》


 こんな心温まる(?)会話をしながら、シアンは依頼受諾の書類作成のためにギルドへと移動していった。





 「はい。コレで問題ありません」

 「ありがとうございました」

 元気よく書類に不備がないことを確認してくれた受付のミリアーナに挨拶してから、シアンはプレリアと待ち合わせした広場の方へ足を運んだ。


 だが、シアンは広場の前で足を止めてしまう。

 約束した広場の横にあるカフェテリアの露天席に座っている一人の女性がシアンの目を奪っていた。


 頬杖を突いて周りを見回している姿。いたずらな風に乱れた青みかかった長い黒髪を手で整える仕草。高級そうに見えるけど派手じゃないカジュアルなツーピースに包まれたスレンダーなプロポーション。それを際立てるような線の細い小さな顔には繊細な造形の目と鼻と唇が付いていた。

 

 (な、アンリ。あれ、宰相閣下……だよな?)

 《『そうですね。大分印象が違いますが。間違いないです』》

 (なんか……メガネ外して、官服の代わりに私服着ているだけとは思えない変身ぷりだけど……)

 《『メガネ美女って卑怯ですよね~。でもコレもギャップ萌えに当たるのでしょうか?』》

 

 アンリがそんなどうでもいい感想を話している時、視線の向こうでプレリアがシアンを発見する。プレリアは一瞬目を細めてシアンのことを確認しては自分の居場所を教えるように手を振ってきた。


 「すみません。待たせてしまいましたね」

 止めていた足を再び動かし、席の方へ駆け寄ったシアンはまるで初デートで遅刻した人のような口調でプレリアに謝る。

 「いいえ。私もちょっと前に到着しました」

 プレリアのセリフも同じ感じだった、のだが、

 「それじゃ、時間も惜しいですし、行きましょうか?」

 「はい」


 シアンの到着で仕事モードに切り替えたプレリアは直ぐ席から立ち上がる。

 その一瞬で少し前までシアンが感じていた甘酸っぱい空気が行き場を無くして、口に入れた綿菓子のように溶けて消えていた。


 シアンは何故か少しガッカリした気分になってしまった。


 「最初はアンブロッテ子爵を焚き付けた商人の所へ行きましょう……ん?どうしました?」

 「いいえ。大丈夫です。行きましょう」


 色々台無しな気分になり、シアンは肩を落として、急ぎ足で歩いて行くプレリアの後に続いた。



 ◇



 それからシアンとプレリアはアンブロッテ子爵と関係のある商人の商会から始め、地道に捜査の足を伸ばしていった。だが、最初に会ってみることにした商人が留守中だった為、犯行現場の確認とか警備隊の捜査報告書の検討など、まともな収穫のない時間が午後まで続いた。

 結局二人は午後になってから、留守のせいで聞き込みが出来なかった商人に会うため、《カルパルム商会》をもう一度訪ねることにした。


 「ええ?カルパルムさんまた留守ですか?」

 「すみません。昼に一度戻ったのですが、他の商人との話があるとかで今はそちらに……」

 鼠のような顔をした商会のマネージャーが、申し訳なさそうに頭を下げながら口にした話を聞いたプレリアは失望したように深く溜息を溢す。一日中歩き廻って何の収穫もないせいで心的に結構疲れているみたいだった。


 「伝言を残してもらって後にアポを取るのが一番確実ではありますが、どうやら急いでいるみたいですね。もしよろしかったら、店主の居場所に直接行ってみますか?遠いところではありませんから」

 「本当ですか?じゃお願いします。直ぐにでも会って確かめたいことがあります」

 「はい。それではその商会の住所を書いて持ってきますので、少々お待ちください」


 《『シアン様。あのマネージャーには気を付けてください。何か良くない考えを持っているようです』》


 マネージャーが店の奥の方に行くのを見ていたシアンに、いきなりアンリの声が聴こえる。

 心理分析に長けたアンリの助言だ。無視することは出来ない。シアンは直ぐプレリアにそれを耳打ちすることにした。

 「宰相閣下。あのマネージャーどうも感じが良くありません。気をつけてください」

 「え?何ですか?いきなり、どうして……?」

 「しっ。静かに。あの人に聞かれますよ」

 「……」

 その時、奥からメモを手に取ってマネージャーが寄ってくる。

 もう少し警告をしたかったシアンだが、今はもう遅い。この人から情報を得るのが先だ。だが、怪しいという心証だけで、人を尋問するのはいい方法じゃない。よってシアンは相手のペースを乱すことから始めることにした。


 「あの、マネージャーさん。住所はとっておきますが、アポもお願いできますか?もう直ぐ夕食の時間なので食事をしてから行くかもしれません(・・・・・・)。でも、その時にはもう店主さんも戻っているかも知れませんから」

 「え?あ、……はい……では、何時ぐらい……?」

 「じゃあ、二刻後、もし会えなかったらここにまた来ます」

 「あ、はい。分かりました。では二刻後ということで」

 「じゃ、また」


 挨拶をしてからシアンは豆鉄砲を食った鳩のような顔をしているプレリアを連れて急ぎで店を離れ、大通りの方に歩いていく。歩きながら手に持ったメモをプレリアに見せながら小さい声で説明していった。


 「これ、罠かも知れません。何かを隠しているのは商人ではなく、いいえ商人もグルかも知れませんが。あのマネージャーも絡んでいると見て間違いないと思います」

 「どういうことですか?シアントゥレさん?」

 「僕、人の悪意には人一倍敏感なんですよ。あの人は僕達に悪意を持っていました。だからかまをかけてみたんです。店で会う約束をするか、すぐ会いに行くか、分からないとね。でも、それを聞いたマネージャーは明らかに戸惑っていた。これは僕らに是非とも会いに行って欲しかったということでしょう。でも、僕は両方の可能性を言いました。今頃マネージャーは僕達に掛けようとした計画の修正に乗り出しているはずです」

 「シアントゥレさん、貴方一体……」

 「あの人の気配はもう捕捉済みです。それじゃ行ってみましょうか」


 シアンは驚いているプレリアを見て少し腹黒い笑みを見せ、動きだしたマネージャーの気配に向けて移動し始めた。


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