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第二話 無極の友。


 

 「いや……能力に名乗られても……。それにマスターって……」

 《『個体名ではありませんので名乗ったという言い回しは正しくありません。マスターは自分の持ち主の呼び方で合ってると認識していますが、違う呼び方が所望でしたら教えてください。今後そう呼ぶようにいたします』》

 

 少年の独り言を質問として受け取ったのか自分を【無極の友】と呼んだ謎の声は律義にその内容に対応してくる。だが、言葉遣いのせいなのか、その律儀さは少年にとっては性格のような感じではなくどこか機械的だと感じられた。


 《『私は人格のない一種のプログラムのようなものですので、その認識が正しいと思われます』》

 「な!?心も読めるのか!?」

 《『はい。私はマスターの精神と直接繋がっていますので』》

 (じゃ、こんな風に考えても?)

 《『当然わかります』》


 瞬間少年は少し顔をしかめて嫌な表情をしたが、すぐ諦めたように「ふぅ。」と溜め息をつく。

 「で、僕の能力、だって?」

 《『はい。正確にはいくつかの能力の集合体です』》

 「どんな能力?」

 《『では機能の説明を始めます。まずは視野の右下にある点を押してください。《押す》というイメージだけで結構です』》

 

 少年は手を視線の前に上げようとしては再び下げ、言われた通り押すというイメージを試してみた。するとまるでAR(拡張現実)のようにいくつかの半透明なアイコンが視野の上下左右に現れる。

 「うわぁ!なんだ、これ?ゲームの画面みたいじゃん!」

 少年は前世で格闘技ジムの先輩から借りてやってみた最新のRPGを思い出し、思わず子供のようにはしゃいでしまう。肉体年齢が子供なので、さっきの複雑な表情より遥かに自然に見えた。


 《『地球のゲームを模して作らせて頂いたインターフェースです。ご希望がありましたらカスタマイズも出来ますので、おっしゃってください』》


 少年はそんな説明を聞きながら、誕生日の贈り物でも見ている表情でどのアイコンを先に押すか悩んでいる。


 (左上にあるのは人間のようなアイコンと剣と鎧のアイコン、フォルダーのアイコン。地図のアイコン。右上にはミニマップ。左下にはメッセージウィンドウ。下中央には赤と青と黄色のバー。右下にはノートのアイコンとさっきの点か……)


 《『人のアイコンはマスターのステータスです。剣と鎧は武器と防具の、フォルダーはアイテムボックス。地図は行ったことある場所が自動で地図でマッピングされます。ミニマップはマッピングされた地図を元に半径300メートルを目安に表示されますが蓄積は任意に変更できます。メッセージウィンドウは情報の変更などが時間と共に表示されます。赤のバーは生命力の目安です。体の状態を総合分析した結果を百分率にして表示されています。青のバーは魔力量です。これは百分率ではなくレベル一の封印が解かれた時点を100に設定しています。黄色のバーは疲労度です。これは百分率で表示されてます。ノートのアイコンは脳内で自由に記録できるノートのようなものです。目に見たものを写真として残すこともでき、音声の録音も残せます』》


 少年がワクワクしながら確認している間、少年の視線と興味に合わせた【無極の友】の説明がすぐに続く。少年はソレを少し鬱陶しく思いながらもちゃんと説明に耳を傾けた。

 

 「そのレベル一ってのはなんだ?」

 《『マスターの記憶が戻った時に覚醒した私の初期段階のことです』》

 「初期段階ってお前も成長するのか?」

 《『はい。成長します。マスターの能力ですのでマスターの成長が私の成長につながります』》

 「そのマスターって呼び方、ちょっと気に入らないから、名前で呼んでくれるか?」

 《『では、シアントゥレ様で』》

 「いや、シアンでいい」

 《『はい。シアン様』》


 それから少年、シアンは一番気になっていた自分のステータスを確認することにして人間のアイコンをクリックした。


====================


 シアントゥレ・リベレン。(簡易1)


 年齢:5歳。

 称号:なし。

 

《 ステータス 》

 

 生命力:72%

 魔力量:100

 疲労度:42%

 

 STR(力):10

 INT(知能):10

 DEX(器用):10

 AGI(敏捷さ):10

 VIT (体力):10

 REG(抵抗力):10

 MAG(魔法親和):10

 MRG(魔法抵抗力):10


 《GIFT (先天的能力)》


 無極の友 LV1


 《ABILITY(後天的能力)》


 なし


 《SKILL(技)》


 総合格闘 LV1

 木工 LV1

 料理 LV1

 

 

 

====================


 

 (前世での経験もスキルになってるな。でも、パラメータは10だけで、レベルは全部1……、そう言えばレベル一の封印が解かれた時点で設定したって言ってたっけ。でも、あの《簡易1》ってのなんだろう?)

 《『はい。設定した時点の初期値です。それと表示できるバリエーションは、簡易1,簡易2,詳細。この三つになりますが、詳細は複雑すぎる為、お勧めできません』》

 

 人間は「するな」と言われるとしてみたくなるもの。

 シアンはどうしても気になり表示を《詳細》に変えてみた。そして、

 「うん。分かった」

 と短く言いながらすぐ表示を戻してしまう。

 

 全ての筋肉の名前とその筋肉が出せる最大出力、その筋肉の動きを制御する神経分布から血液の成分分布と血管の分布とエネルギ供給率と効率、体内至るところでの栄養状態などまで、頭が痛くなるほどの情報量が目の前に広がっていて一体その情報をどう計算すれば簡易の数字になれるのか見当がつかない。そんな情報全てに目を通すってことはシアンには到底自信が持てなかった。

 よって、【無極の友】がお勧めしないと言うことは、可能な限りしないでおこうとこっそり心に誓ったシアンであった。

 

 それからシアンは【無極の友】の項目をクリックしてその詳細を確認してみようと思ったが、慣れない視線処理に目が少し疲れてしまって、いったん右下の点を押して画面を消し直接聞くことにした。それとその前に、

 「一々【無極の友】って呼ぶのもあれだし、これからはお前の事【アンリ】と呼ぶな?」

 《『私の個体名は本日より【アンリ】になりました』》

 

 無極は無限だから、それを英語にしたアンリミテッドから取った実に安直な名前だけど、シアンはなかなか気に入ったようで、アンリの返事に満足そうに頷いた。


 「じゃ、アンリ。お前の能力の詳細を教えてくれ。出来るだけ簡潔に、な」

 《『分かりました。私は今は2つの能力を持っています。シアン様の健康管理能力と情報分析能力です。健康管理はあくまで健康状態に合わせたアドバイスする程度ですのが、情報分析能力は色んなバリエーションがあります。先までシアン様が見ていたゲームのような画像も情報分析能力を一部可視化したものです。その他にもシアン様が見るもの聞くもの感じるものを分析しデータ化出来ます』》


 それを聞いたシアンは思ったより簡単に終わった説明にガッカリしてしまっていた。しかしその感じすらもアンリには分かってしまうらしく、続いて説明が加わって行く。


 《『この情報分析は知識でスキルを作る(・・・・・・・・・)ことも出来ます。例えば、シアン様が誰かの戦闘を見て十分な分析材料を集めることが出来れば、その戦闘技術を分析して自分の技にすることが出来ます。料理、建築、工芸、鍛冶のような生産系スキルも同様です。そして情報が揃えば揃う程、その幅の広がり方は加速度的に広くなっていきます』》

 それを聞いたシアンの口元がゆっくり上がっていく。

 「そっか。つまり僕はどんな経験も無駄に出来ずに自分の物に出来るってことなんだな?」

 《『その認識で間違いありません』》

 

 いきなり超人的な力が出来たとか、見た瞬間に自分の技に出来るとかのチートでは無いけど、シアンには十分に自分の転生に感謝出来る程の能力だった。


 アンリがいれば、シアンの今回の人生は前世で出来なかったことが出来る。何もかも手に入れることが出来なかった人生じゃ無く、あらゆる物を手に入れることが出来る。


 前の世界とは違いこの世界は魔法もあり、個人の武力が重要視される世界だ。武力も技術も手に入れることが出来ればそれに連れ財力も得ることが出来る筈だ。でも、それだけじゃダメだ。得るなら全てを、あらゆる力を、前世では夢の中でも望むことすらなかった、その全てを手に入れたい。

 シアンはそう思った。そして、


 《『可能です。シアン様』》

 そのアンリの返事がシアンの心の火種に空気と燃料を惜しみなく入れてくれる。

 「ああ、何もかも手に入れるぞ!!」

 

 この宣言がシアントゥレ・リベレンの人生にとって本当の意味でのスタートラインとなった。

 

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