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第十九話 戦争の裏側。


 三年半前の戦争。

 バッシュマン王国のラザンカローへの侵攻から始まったその戦争を掻い摘んで説明すれば、こうなる。


 バッシュマン王国は自分の国の貴族がラザンカローの工作員に殺害されたという名目で戦争を仕掛けて来た。だが、それは狂言だった。殺害された貴族の死因は不治の病と言われている、《ミラビナ変色腫》。つまり病死だった。


 だから、戦争の原因は一般的にはバッシュマン王国の狂言から始まった、国境線近くにある二つの街の利権を狙って勃発された戦争だと知られている。

 その二つの街の内、アリエットの街は隣国モラーク王国との重要な交易路として使われている街で、残りのフラネット街は港町として他の大陸との貿易拠点だ。

 よって、一番大きな戦場はその二つの街を中心とした一帯になり、その一帯はかなり大きな戦争の傷跡を負うことになった。

 一応、理には叶っているように見受けられる。

 

 だが、戦後ラザンカローで行われた戦争史の研究で、少しおかしい所が発見される。

 それはラザンカローの紋章が入っているバッシュマン王国の病死した貴族を暗殺せよという指令書だった。

 勿論それは偽造された物であり、バッシュマン王国の方でもその文章が偽造であると認識していた為、戦争を起こした直接的原因がバッシュマンの方にあるのは間違いない。

 しかし、その偽造をした張本人が問題だった。


 約二年間、密偵を利用して調査した結果、その偽造指令書がある国際犯罪組織から出たのだと判明された。


 組織の名は《ラ・ギルルスの剣》。

 

 だが、その全貌は誰にも知られていない。

 ただ、多数の暗殺、拉致、密貿易、奴隷狩り、不法薬物の流通、テロ活動などに加担したか、それを裏で操っていたという幾つかの証拠が発見されただけだ。

 何人かの犯人も捕まえたが全員毒物で自殺するか、牢獄で殺害され関係者の確保は皆無。

 戦争関連で行われた、二年間に渡る捜査でもそれは同じだった。

 

 だが、その組織が危険過ぎる最大の理由は、身分と役職を選ばない組織の構成員の面々だった。

 今までラザンカローで組織の構成員として捕まった人間は総数28人。

 その中で農民2人、商人4人、貴族(役職あり)3人、貴族(役職なし)3人、戦人4人、騎士2人、近衛兵1人、衛兵5人、盗賊4人が捕まり全員、今は死んでいる。

 

 自分の直ぐ側に闇組織の構成員がいるかも知れない。

 それはどんな人間にでも大きな恐怖になる。

 ヘタすればその人間と話し合った内容、その人間が掛けてきた好意、その人間が頼んできた大したことない頼み事が全て闇組織の活動の手助けになるかもしれないからだ。

 だから、この情報は厳しく統制され一部の人間だけがその事実を知っていた。

 そしてその一人であるプレリアがシアンの事件をその組織がやった可能性が高いと見ているのだ。


 

 「そう思った理由は?」

 短く質問する国王の声が重くなっている。


 「今回亡くなったのはアンブロッテ子爵のご子息です。アンブロッテ子爵は《ギルド国営派》の重鎮。それにシアントゥレさんはギルド員の中で、最近一番注目を浴びた人物です。つまり、今回の目的はギルドと貴族間の対立の激化。もしそれが成功したとしたら、戦後安定してきた国内が混乱に陥ります」

 「話が少々飛びすぎているのではないか?」

 「いいえ。他にもあります。数日前バッシュマン王国から戻った諜報員の情報はご存知だと思います。その情報にはバッシュマン王国の軍備拡張の件が含まれていました。我が国の混乱とバッシュマンの軍備拡張。戦争の可能性が高くなるのは明白です」

 「それだけで《ラ・ギルルスの剣》との関係を断定するのは少々厳しいと思うが。むしろバッシュマンからの間者の先が余程可能性が高く思えるな」

 「はい。しかし、7日前アンブロッテ子爵の御前会議での発言がその可能性を裏付けてくれました。『ギルドの国営はモラーク王国でもやっていることです。この国でも多くの支持者達が私の意見に賛同しています。この前もその代表者からの苦情が来ました。ギルドは狩で得た獲物の取引の際、多くの利益を欲していると。これはこの国の商家に多大な負担を掛けているのです』彼はそう言いました。私が直々に調べたところ、ギルドは規定率以上の金額は貰ってませんでした。あるギルドの幹部が市場価格の問題で商人と少し揉めたことが一度あっただけです。それを考えると、商人が無実の罪をギルドに擦り付け、アンブロッテ子爵を焚き付けたことになります」

 「つまり、その商人が組織の人間である可能性があると?」

 「私はそう思っています」


 怒涛のようなプレリアの報告を側で聞きながらシアンはアンリと今聞いてる内容の確認と共に分析をしていた。

 (アンリ。お前の考えでは実行犯はスパイで間違いない。その後には宰相閣下が言っているその組織が絡んでる可能性が高いってことだな?)

 《『はい。裏組織が実在することを前提に話を進めると、国内で隠れていながら混乱を合法的に(・・・・)招く方法はいくらでもあります。でも、それが可能な人間たちのやり口としては今回の事件は強引過ぎると思います。つまり、組織が活動しているのはバッシュマン王国の国内。それに誘導されてスパイがこの国で工作を実行した。それが妥当な線だと思います』》

 (でも、宰相閣下はその裏組織と何かあったのかな、ヤケに熱くなってるように見えるけど……)

 《『多分個人的な恨みではないかと思いますよ。何があったのかは分かりませんけど』》

 (そっか。まぁ、それはいいとして。この話をどうやってこの二人に教えるのかが問題だな……)


 シアンは話し合いに熱中している二人の間にどうやったら入って行けるのかを考える。だが、その機会は訪れることはなく意外な方向に話は進んでしまった。

 

 「プレリア。これは言いたくなかったがな。そなた、あの組織が絡むと熱くならずにはいられないのは知っているが、今は少し頭を冷やす必要があるようだ」

 「まさか。私の話は間違っているとお考えですか!?個人的感情で判断を見誤っていると!?」

 「間違っているとは思えない。だが、証拠が足りない。だから、そなたにはその証拠探しを任せる。その間は休暇として処理するからちゃんとした裏付けを持って戻って来なさい」

 「陛下!」

 「シアントゥレ。其方にも依頼だ。プレリアを護衛しながら捜査を手伝って其方に冤罪を被せた真犯人を捕まえてこい。これは明日の朝ギルドに正式な依頼として処理させる」

 「はい。陛下」


 これでシアンの短い王宮生活が終わる。

 王宮生活自体馴染めなかったシアンにとってそれは、むしろ願ってもない状況だった。

 更に、自分の嵌めた犯人を自分の手で捕まえることが出来ることに思いの外ワクワクしているシアンであった。


 執務室を出る頃……


 《『シアン様が捜査ですか……』》

 (なんか問題あるの?)

 《『ありません。でも、こんな時は……そうですね。こう聞くべきですかね?』》

 (?)

 《『シアン様。カツ丼食べたいですか?』》

 (何でやねん!!!)

 今回はアンリのボケに負けて突っ込んでしまうシアンであった。


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