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第十七話 お茶会と言う名の品定会、そしてプレリア。


 「其方に話しもせずに勝手に日程を決めてしまってすまんな」

 「いいえ。陛下」

 「あなたがわたくしに魔法の講義をしてくださるの?あなた、何歳?」

 「八歳です。フィアローナ王女殿下」

 「八歳にしては随分と大きいわね。60カッスル(120センチメートル)はあるんじゃない?」

 「はい。そのぐらいだと思います。王妃様」

 「でも、本当可愛らしさの欠片もないわね、あんた」

 「アンジェローナ。それは客人に対しての言葉ではないぞ」

 「だって、お父様。本当なんですもの」

 「だけど一理はありますよ、お父様。ルードヴィアスと同じ年とは思えないですもの。貴方、後で弟のルードヴィアスに会ってみない?」

 「はい。パオローナ王女殿下、機会がありましたら是非」

 「シアン。少し楽にしたらどうだ?顔がゴーレムみたいになってるぞ」

 「はい……ヴァノア様」

 「もうすぐ私の息子になるんだよ。母上と呼びなさい」

 「それは……出来れば正式な手続きが終わったら……」

 

 一応自己紹介が終わり、お茶会が始まってシアンはずっとこんな感じで話の種になっていた。国王に返そうと色々考えた文句も、いつの間にか返す気さえなくなってしまっている。

 当に玩具のような状態だった。

 立て続けに質問されて、短く返事をしていくシアンにとっては、出来れば自分のことは蚊帳の外にしてほしいと願っているばかり。だが、質問を含む、まるで品を定めるような視線はシアンから一瞬も離れてはくれない。


 (カルブレン隊長。貴方との模擬戦は本当に楽しかったです)

 シアンが現実逃避気味にさっきの戦闘狂との模擬戦を懐かしむぐらい、この場の居心地は最悪だった。


 その茶会のメンバーは国王を除き全員が若い美女、美少女の集まりだったのもシアンの現実逃避を手助けしていた。

 メンバーの顔ぶれを簡単に列挙してみると、

 第一王妃システア(37歳)金髪、泣き黒子、包容力あふれる顔と()を持つ4児の母とは思えない絶世の美女。

 第一王女パオローナ(18歳)プラチナ・ブロンドで、母親の写し鏡。

 第三王女アンジェローナ(14歳)プラチナ・ブロンドで、吊り目の美少女。

 第四王女フィアローナ(12歳)プラチナ・ブロンド、落ち着いた感じの美少女。

 ヴァノア(?歳)……母親になる人、

 国王マキアデオス(43歳)。

 そして、ずっとシアンを観察するような眼差しを眼鏡越しに投げている、クールビューティー。宰相プレリア(21歳)だ。

 

 「あのお、僕に何かおかしい所でもあるのでしょうか、宰相閣下」

 「ありません。でも、そうですね。今日の日程が終わったら少し時間貰えればと思いますが。少し折り入って話がありますから」

 「はぁ、分かりました。特別にやることもありませんから」


どうやら、この《シアントゥレ品定会》はまだまだ続きがあるそうだ。


 「で、シアントゥレ。事後確認のようで悪いが今日と明日、フィアの魔法講義を頼む。元々は宮廷魔導師が担当していたんだが、フィアと少し仲違いをしてしまってな。新しい者を探す間の繋ぎと思ってくれ」

 「喜んでお受けさせて頂きます。若輩者ですがよろしくお願いします。王女殿下」

 「フィアと呼んで。わたくしもシアンと呼ぶから」

 「はい。フィア様」

 「おお、フィアは其方が気に入ったみたいだぞ。これじゃ講義をずっと其方に任すことになるかも知れんな」

 「それは……光栄(迷惑)です。陛下」

 

 《『シアン様。顔から本音が出ようとしてますよ』》

 そんな風に所々、アンリの助言が大きいミスを未然に防いでくれたお蔭で、無事2時間のお茶会、もとい品定会を終えることが出来、シアンはその道で西の宮にある王族の講義室へ移動した。


 (いくら苦しい時も耐えれば時間は着実に過ぎてくれる)


 前世で金言のように心にしていた言葉だったが、今回ほど切実に時間のありがたみを感じたことがないシアンであった。




 ◇



 

 午後の講義は思いの外、スムーズに終わった。

 フィアはいい生徒役を全うしてくれたし、シアンもそれにあわせて精一杯講師役を務めた。

 勿論知識的な部分はアンリの手助けが必要だったけど、フィアはシアンの講義を興味津々に耳を傾けてくれて、シアンはその熱意に応えるように《魔力探知》と《スタンガン》の魔法をフィアに教えてやった。

 概念だけの教えだったがもうすぐ使うことが出来るだろうと思ってしまうほど、フィアは中々魔法の才能を持っていた。

 少し青みかかったプラチナ・ブロンドの美少女であるフィアは確かに魅力的であったが、お茶会の美女、美少女の視線攻撃に耐え切ったシアンはその経験値をもってあまり緊張することなく、国王が決めた日程イジメを全うした。


 貴賓室に戻ってきたのはいいがまだ王宮生活の初日は終わらない。

 宰相プレリアとの会話の時間が残っていた。

 だが、夕食の時間後、プレリア貴賓室まで直接訪ねて来てくれたお蔭で、この会話が終われば少し気を楽に出来る。それがシアンにとってたった一つの慰めになった……のだが、


 「単刀直入に聞きます。貴方は何者ですか?」

 

 プレリアが会話のはじめに投げてきた質問によってその慰めは余りにも簡単に壊されてしまう。


 「それはどういう意図での質問でしょう?」

 「今日一日貴方を観察させて頂きました。いいえ、正直に申しましょう。今日の日程を決めたのは私です。それは貴方がどんな性格をしていて、何処まで出来るのかを確認するための物でした」

 (あんたが、全ての元凶だったのかよ!)

 シアンはプレリアのカミングアウトに少し怒りを覚えたが、それを抑えて続く言葉を静かに聞くことにした。


 「やっぱり怒らないんですね。自分をイジメた張本人が目の前にいるというのに」

 (イジメだと認めやがったぞ、この人!)


 カミングアウトすらもシアンの反応を見るための物。それを教えることでシアンに更なる心理的圧力を掛ける。そのやり方は心理攻撃と呼ぶべきものだった。それにこの人はシアンが何かの秘密を抱えていることを前提に話を進めている。


 《『シアン様。演技が下手なシアン様では心理戦でこの人に勝つことは厳しそうです。出来るだけ言葉を濁してください』》

 

 シアンが三年前から、能力のことは隠さないが、アンリのことと前世のことは一生の秘密にしようと決めていた。

 それを今プレリアが暴こうとしている。これはシアンにとって明白な攻撃行為だった。


 (アンリ。僕は今回の人生では売られた喧嘩は出来るだけ買うことにしている。僕はこの戦い受けて立つよ)

 《『はぁ、分かりました。では、出来るだけ正直に行きましょう。相手のペースを乱すにはそれが一番適していると思います』》

 (了解。じゃその勝負と行きましょうか、プレリア宰相閣下!)



 「最初の質問には既に宰相閣下の知っていること以上のことはありません。ヴァノア様の養子になる予定の八歳の戦人。それが僕です」

 「嘘ですね。貴方は八歳の子供じゃない。子供が持ってる筈のない力を持っている上に、自分の力に対する子供らしい自慢もない。それに経験したこともない筈の物まで慣れ過ぎている。それなのに私に貴方の言葉を信じろっていうのですか?」

 「自慢がないのは理想が高いからです。僕は確かに子供らしくない強さと智恵を持っている。でも、僕の理想はもっと高い所にありますよ。それに経験していない物とは一体何のことでしょう?少し理解に苦しみますが」

 「昨日の審議の電撃魔法、フィア様にも教えたでしょう。微弱な雷が人を気絶させることが出来るというのは昨年宮廷魔術師によって判明された物です。電撃はコレまで炎と一緒に高熱を以って物を焼くのだと認識されてきました。それを、上手く使えば殆どの傷も残さず気絶だけさせられるとのことは、まだ何処にも流れていません。それなのに貴方はそれを当然の様に使っていました」


 (へぇ。そうだったのか……一般的には雷魔法はそんな扱いだったんだな。それなら疑われても仕方ない、かな?…だが、)


 「僕の魔法は全て誰にも教えてもらってない自分のオリジナルです。つまり、僕の魔法は知識より経験の方が先。知識は上達を手伝いますが経験は知識を生むものです。研究より先に使えることはむしろ当然のことだと思います」


 すらすらと、自分の歳のことを考えずにシアンは質問に正直に答えていく。

 アンリの計画通り、その正直さがプレリアのペースは少しずつ崩して行った。


 「じゃ、じゃあ!先日の手紙の内容!それはどうなんですか?それはまるで政治のことをよく知っている人物が書いたような内容でした!それに今日の王族に対する対応もそうです。必要な状況に応じて自分の感情をそこまで制御できる子供がいるとは私には思えません!」


 少し声を荒らげ、プレリアは攻め入るようにテンポを上げてくる。

 それに対しシアンの対応は淡々とした、いや、ほそぼそした物になっていた。


 「感情を制御ですか……別に制御していたわけではありませんが、ただ昔ある商人の人から聞きました。「死にたくなかったら、貴族以上の身分の人には幾ら理不尽なことをされても感情を表に出すな」とね……。僕はただ、その言葉を思い出しておずおずしていただけです。手紙のこともそうです。自分の能力に興味を持つ王様、それなら貴族も同じ筈。でも、僕にはどうすることも出来ません。だから、もっと上の人に助けを求めよう。そんな考えで書いただけの手紙です。今もそうですよ。宰相閣下が余りにも攻撃的ですから、正直こうしてお話ししているだけでも怖くて仕方がありません。もし何か失言でもしたらどうするのか、と……」


 何処か悲しそうに呟いていくその声は、少し演技が含まれていたが殆どはシアンの本音だった。

 前世から続く、無力で臆病な自分への自嘲と、もっと強くなって行かないとダメだという決意が入り混じったその声は、プレリアの感情を完全に揺さぶることに成功する。

 

 「じゃ…その高い理想というのは……」

 「力も智恵も誰も追いつかないように、武でも智でも最強になればこんな惨めな気持ちはせずに済むのかと……ひたすら頑張って、ひたすら努力して、それでもまだだと思って、馬鹿みたいにまた頑張って……地位もお金もない僕にはそれぐらいしか考えつかなかったんですよ」


 シアンはそう言いながら恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。

 すると、プレリアの眼鏡越しの大きい両目から、一筋の涙が頬を伝って落ちてきた。涙の流れは段々強くなっていき……、

 「い、ったい、どんなきもちれ(気持ちで)……どんなふうにほよく(努力)すれば…そんな……」

  完全に泣かれてしまっていた。


 「あれ?いや。宰相閣下!?どうしました?いや。ぼく何か……」

 「いいん、れすぅ……(いいんです)じぶんおかってなものさしではんらんして(自分の勝手な物差しで判断して)……わらしがわるいんれすかや(私が悪いんですから)」

 


 演技は少ししか混じっていないが、少しでも演技が含まれていた分、シアンはここまで共感してくれるプレリアに負い目を感じてしまう。

 だが、仕方ないことだ。

 シアンは自分を攻撃してきたプレリアに出来るだけ(・・・・・)正直に返しただけだ。ただ、意外にも、余りに意外にもプレリアが涙脆かっただけ……。

 ただ、それだけのことだ。

 シアンは、そう割り切ることにした。




 (でも、この人の泣き顔、なんか可愛いかも……)

 《『不謹慎ですよ。シアン様』》

 

 

王妃の年齢の誤字がありましたので修正しました。

27ではなく、37です。



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