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第十三話 王宮。


 その日の午後。

 午前中に簡単な取り調べを受けたシアンは馬車に乗せられ移送されることになった。

 場所は言われていないがシアンは馬車の中で目的地を既に知っていて柄にも無く少しワクワクした気分になっている。


 (いやあ、王宮か……前世で一回江戸城には行ったことあるけど、この国の王宮は中世の西洋式王宮なんだよな。見て回ることは出来ないだろうけど、楽しみだな)

 《『許可していただければ魔力で空間把握でも試してみましょうか?一定範囲内なら立体的にマッピング出来ると思いますが』》

 (え?そんなこといつの間に出来るようになったの?)

 《『いえ、出来るかどうかは分からないんです。でも、一回ぐらい試してみたくなりまして』》

 (ああ、でも王宮の中ではダメかな……捕まっている状況で王宮で無闇に魔法使ってバレたら問題になるかもしれないし)

 《『仕方ありませんね。じゃ、次の機会にしましょう』》

 (そうだな。それがいいよ)


 《『いよいよ。王宮ですよ』》

 馬車が王宮の大きな門を潜る。

 シアンは少しでも王宮の風景を目に留める為に馬車の小さな横窓から忙しく目を漂わせていた。

 


 王宮の扉を過ぎてからも30分ぐらいを移動して漸く目的地に到着したシアンは、普通の衛兵たちじゃない近衛兵の手によって他の建物に比べ明らかに装飾が乏しい石造の建物の中へ通される。だが、外見とは違い廊下の床にも天井の証明も王宮で使われているだけあってとても綺麗な装飾が施されていた。

 シアンはその調度品の華麗さに目を奪われながら中の一室まで来ている。

 その部屋の扉は分厚そうな木製で大人の目の高さぐらいの位置に開け閉め出来る小さな窓が作られていて、この部屋が監禁を目的に作られたものであることを知らせてくれた。

 それでも、やっぱり中に入ると相変わらず華麗な調度品の品々が設置されており、何より広かった。


 (コレは……宿の部屋10個分ぐらいはあるんじゃないか?)

 《『天蓋付きのキングサイズベッド、ソファーとテーブル一式、椅子が8脚ある食卓、ちょっとしたワインセラーまでありますね』》

 (さっすが貴族向けの監禁部屋だな。拘置所より落ち着かない気がするよ)

 《『シアン様は根っからの庶民派ですからね』》

 (僕も後で権力持ったらこんな部屋が気楽になるのかな…?)

 《『無理でしょう。どう見てもこれは虚栄心をこんなものでしか満たせない人たちの為に作った部屋ですから』》

 

 シアンはアンリのなかなか辛辣な評価に同感して頷いた後、座り心地よさそうなソファーに疲れたように腰を降ろした。

 (まぁ、もうすぐ誰かが来るだろうし、その時まで少し休もう。大したことしたわけじゃなくっても色々疲れた)

 《『はい。誰かが接近したらお知らせします』》

 (じゃ、頼む)



 その頃、ギルドマスターヴァノアは一足先に王宮に呼ばれて来ていた。

 場所は王族専用のティールーム。

 いくら貴族でもおいそれと近づかない場所だったが、今回は国王直々のお呼びだったため、そこでホストである国王が来るのを待つことになった。

 

 「待たせてしまってすまんな。イプシロン卿」

 「いいえ。陛下。それほど待ってません」

 「エルフの長い寿命を考えみると、何十分ぐらいは長い時間じゃないのかな?」

 返事に困りそうな少し意地悪な冗談を口にしながら椅子に座った国王マキアデオスに続き、ヴァノアも挨拶の為に一度立ち上がった向かいの席に再び腰を降ろす。


 「それにしても今回は面白いことをしてくれたな」

 「なんのことでしょう?」

 「シアントゥレというわっぱの為に養子の話をでっちあげたことだよ」

 「でっちあげではありません。その子を養子に迎えることは前から話を進めておりました。才能にあふれているのに、頼る身よりもなく一人で頑張ってるあの子に少しでも力になれればと」

 「まぁ、そこまで弁明せずともよい。その御蔭で予も堂々とあのわっぱに会えるわけだ。なかなかおもしろい人材ではないか。プレリアが興味津々としていたぞ」

 「ほぉ。宰相殿にまでシアンの話が届いていましたか」

 「なぁに。予のちょっとしたイタズラの後にあのわっぱから手紙を貰ってそれを見せただけだ」


 マキアデオスはそう言いながら懐からシアンが書いた手紙をティーテーブルの上に乗せる。

 「拝見しても?」

 「ああ」

許可を得てそれを目にしたヴァノアは苦笑いをしながら、テーブルに手紙を戻した。

 「何時も予想を超えてくれますね、あの子は」

 「それを見たプレリアと予はその子が今回の犯人でないと判断した。犯人がその子ならこんな、自分だとバレやすいやり方は取らないだろうと」

 「私もそう思っています」

 「でもさっきまでやっていた御前会議の時、そなたのやったことでギルド員の庇い合いだの詐欺だのと言う話で持ちきりでな。少々コレじゃまずいかも知れんと思ったのだ。こんな状況で予が無理やりギルド寄りの裁定を下すと、反乱の切っ掛けを作ることになる」

 「そう……ですね」

 

 マキアデオスのその話にヴァノアは少し顔に陰を作る。

 だがその後、ヴァノアのそんな顔が見たかったかのようにニヤリと少し意地悪そうな笑みを作りながら、マキアデオスは話の続きを口にした。


 「で。予がそなたを呼んだ理由だがな、予とプレリアは事態を迅速に纏めるためにちょっと手荒なことをすることにしたのだが、それの確認が必要だったのだ」

 「は?何のことでしょう?」


 「そやつ。近衛兵の精鋭何人までならやれる?」

 その質問を口にしたマキアデオスの顔にはとても楽しそうな笑みが浮かんでいた。


 ◇


 それから少し後。

 衛兵によって呼び出されたシアンは訳も分からずに宮殿内にある練兵場まで連れて来られていた。


 (練兵場だね。横には兵舎もあるよ)

 《『すごい顔ぶれのギャラリーたちもいますよ』》

 (見えてるよ。なんかすごい血相で睨んでるね。皆貴族みたいだ)

 《『貴族じゃない人もいますよ。近衛兵もいますし、騎士も、それにあの白い髪の人、王様ですよ。三年前の戦勝式典で見ました』》

 (へえ。あの馬鹿を送り出した王様か……)

 

 そんな緊張感の欠片もない二人の会話はその王様の側にいる近衛兵によって遮られる。

 「御前であるぞ!跪け!!」

 その言葉を聞いてシアンはやっと王様の前にいることを知った振りをして、片膝を地に付けた。


 「申し訳ございません陛下。知らずとはいえとんだご無礼を」

 「まぁ、よい。其方をここに呼んだのは明け方起こった事件の犯人が其方かどうかを確かめるためだ。そこに兵舎は見えるか?」

 「はっ」

 「そこは事件が発生した兵舎と同じ構造をしている。中には犯行現場と同じ31名を配備させておいた。其方には今からその兵舎を襲撃し中の兵たちを倒してもらう。明け方行われた襲撃の時、犯人は中途半端な状況で逃げたと聞いた。もし其方が全員を倒すことが出来ればその犯人のように逃げる必要がないのが証明されるわけだ。ただし、時間は襲撃から犯人が逃げた時点までの四半刻(約30分)の制限をつける」


 その言葉に貴族たちに動揺が広がる。

 それも当然のこと。幾ら明け方と同じ状況を作ったといえ、中の兵達は明け方の様に寝ているか気が緩んでる状態じゃなく、しっかり戦闘の準備をしている。それに中にいる兵達はただの衛兵じゃない、近衛兵の精鋭だ。幾らポロスと互角で戦ったと聞いていてもコレはどう思っても分が悪い。ポロスなら精鋭の近衛兵とある程度やれるだろうが、30分という時間制限まで付けるとポロスですら不可能なはずだ。

 国王はそれをこの年端も行かない子供にさせようとしている。

 どう考えても正気とは思えない。

 

 「そなたらもこれで文句は無いな!?」

 マキアデオスは左右の貴族たちに言質を急かす。

 しかし、誰の口からもその返事が出ない。出した人は真っ先に非道な人間になるのは自覚しているからだ。

 そこで一人の老貴族が口を開く。


 「陛下も酷いことをやりますなぁ。そんな子供にそこまでして一体何がおやりになりたいのですかな?」

 「パルマエレン卿。それは予の言うことだ。こんな子供が犯人だと御前会議で散々言ってきたのは誰だ?そなたたちであろう!今それを証明させると言っているのにそれすらも反対するのか?」

 「反対はしません。だけど、このコトはしっかり史官が国の歴史として残すということをお忘れなきよう」


 色々回りくどい言い方だが、コレは「今酷いことをやっているのは自分たちでは無く国王だ。だから、文句は言わないが後になって問題になっても自分たちには何も言うな!」と言う一種の脅しだった。


 だが、マキアデオスはそれに屈すること無く、他の貴族にもそれを確認する。

 「そなた達も同じ意見か?」

 その質問に貴族たちの口々からぼそぼそと「はい」「同感です」との言葉が流れて来た。


 それを聞いたマキアデオスは貴族たちを忌々しそうな目付きで一回見回した後、高々に声を上げて宣言した。


 「皆の言付けは取った!これから《貴族審議》を始める!!」


 

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