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第十一話 ドラゴンは虫を踏まない?


 訳も話さずに平謝りしている少女を一旦起こしたシアンは土魔法で二つの椅子を作って少女を座らせた後向かいに腰を掛けた。


 「まずは自己紹介からいきましょうか、僕はシアンです。お姉さんは?」

 「イ、イレナ・ラバネットです」

 《『偽名ですね』》

 少女が自分の名前を語った直後、アンリからダメ出しの声が出る。


 アンリがレベルアップによって習得出来た真偽判定のスキルはとても強力だ。判断を間違うことは殆どない。

 しかし、何分マイクロエクスプレッション、視線の動きとか顔面筋肉の微かな動きなどを分析しての判断なので自分を隠すことに長けている人間には効果が薄いがそんな訓練をしている人間はこの世界に殆どいない。


 だが、シアンはその能力を使うのはあんまり好きではなかった。

 最初にその能力のことを聞いた時は便利かも、と思ったけど実際使ってみると人間が吐く嘘のあまりの多さに唖然としてしまったからだ。


 人間は嘘を吐く。だが、その嘘は必ずしも他人を欺くためとは限らない。それ以外にも自分を守るための嘘や、配慮のための嘘、未来を守るための嘘、など敢えて知る必要もない物も多くある。

 それに気付いた時、シアンはアンリに「出来るだけ使わないでくれ」と頼んだ。


 それなのにアンリが今それを使った。それはその偽名のせいでシアンに被害が及ぶ可能性があると言っているのだ。


 (マジ?じゃあ、さっきの土下座も?)

 《『いいえ。アレは完全に本気でした』》

 (了解。ここからは会話じゃなく、尋問で行ってみよう)

 

 「お姉さん。今から僕が幾つか質問するけど、正直に答えてね。嘘つくと直ぐ分かるからね。因みにお姉さんが僕の方に赤狼連れてきたことも、その後の下手な芝居も、お姉さんの名前も嘘だとわかってるよ」

 「え~!!!」

 「だから、正直に話してね。じゃないとクオーレの時以上に暴れるかも知れないから」

 

 声変わりすらしていない幼い声だからあまり威圧感が出てるわけではないが、シアンの意図はちゃんと伝わったらしく少女は何度も首を縦に頷いた。

 

 最初、三文芝居をそのまま返して自ら情報を吐かせるつもりが、脅迫混じりの尋問になったのは釈然としなかったがシアンは気をとり直してもう一度最初の質問から初めた。

 

 「お姉さんの名前と職業は?」

 「リエラ・バードソング。職業は……騎士見習いですぅ」

 《『本当ですね』》

 (オッケー。もし嘘ついたら教えて。)


 「で、その騎士見習いさんが僕に近づこうとした目的は?」

 「……陛下の命令で……」

 「陛下?国王様の事?この国の?」

 「はひぃ……」


 段々小さくなっていく少女、リエラの声は言ってはならないことを言ってしまった後ろめたさが滲み出ている。下を向いた目には涙まで溜めて少し可哀想にもなってきた。だが、シアンにとってはそんな感傷より内容の方が問題だった。

 

 「王様が一体僕に何の用なの?」

 「……昨日ポロス様と互角で戦ったという少年が……どんな人なのか接近して調べるように、と……」

 「じゃ、赤狼の芝居のことも王様の指示?」

 「いいえ、それは自分が……」


 (だよな…。王様がそんな頭の悪い指示出すわけないよな。でも、おかしな話だ。たった一日で情報が王宮まで行ったのも変だが、即座に王様が動くのも変だ)

 

 「僕に助けて貰うフリしてお姉さんはどうしたかったの?」

 「命の恩人になって貰って何かを手伝う形で自然に側でいられるかな……と」

 「その後は?」

 「親しくなって、出来るだけ情報を聞き出して陛下に報告するつもりでした」


 (馬鹿だ。どう考えても馬鹿だ。仮にも一国の国王がこんな馬鹿に秘密任務を任せるって一体どうなってるんだ?コレでもう一つ変な所が増えてしまったな。なぁ、アンリ。どう思う?」

 《『嘘じゃないようですし。何か国王の方に考えがあるのではないでしょうか?』》

 (その考えが何なのかを聞きたいんだけど)

 《『推測はいくらでも出来ますが。直接会ってみないと確証が持てせんよ』》

 (推測でいいから聞かせて)


 《『可能性が一番高いものは……わざと王様がシアン様に関心があることを知らせるためですね。この場合、害意がないことを知らしめる為にリエラさんのキャスティングはむしろ必要なものになります。目的は……そうですね。シアン様が貴族と関わりを持った際の保険でしょうか。三年前の戦争の後、王様は貴族の勢力をかなり弱体化させたとの評判ですから、前途有望な者である、かも知れないシアン様に先に唾を付けておく。こんな筋書きである可能性がありますね』》


 それを聞いたシアンは顔を少し歪め、アンリの予想が外れてくれることをこっそり祈った。この予測が正しければ、この後貴族がらみでコレ以上の面倒ごとが自分を待っていることになるからだ。


 シアンの将来設計には確かに権力も入っていて、いつか貴族とか王族との綱渡りも覚悟していた。だが、それはあくまで武力と財力を得た後の計画であった。


 武力だけでは権力と財力によって簡単に潰されてしまう。

 人間社会を捨てて山奥で暮らす、もしくは武力を人外クラスまで上げてクーデターでも起こして武の権力を手に入れない限りそれは変えられない事実だ。

 それをよく知っているシアンにとって、今の時点で権力側からの接触は決して好ましいものではなかった。

 

 だから、シアンは悩んだ。これからどうするのかと。そして決めた。

 (せっかくなら、もっと強い味方がいい)、と。

 

 今は王権が力をつけはじめた時期だ。それにシアンが今所属しているギルドは貴族と対立している。つまり、選ぶなら貴族より王族だ。

 そうと決まれば早い方がいい。


 シアンは不安そうに座っているリエラに、出来るだけ温和な声で一つの頼みをすることにした。


 「お姉さん。今から僕は手紙を書きます。それを誰にもばれずに王様だけに渡してください。それで、今回の事は忘れます」

 

 ◇


 その夜。ラザンカロー王国の王宮。

 国王の執務室で、40代の顔に似合わない白い髪を持つ国王のマキアデオスとメガネを付けた20代ぐらいの若き、世にも珍しい女宰相、プレリアが机を挟んで座っていた。

 机の上には王室で使われている紙より数段低級の紙に書かれた文書が置かれており、その紙の最下段には《シアントゥレ・リベレン》と署名が入れている。


 「どう思う、プレリア?」

 「この手紙を書いたのは子供ではありません」

 「だが、リエラが子供が書くのを直接見ていたぞ」

 「なら、その子供が子供ではありません」

 「可笑しな話をするなよ」

 「何かの病気か体質の問題で肉体の成長が遅いだけの、大人だと思います。それ以外にコレを説明出来る言葉はありません」

 「でも、ちゃんと戸籍に載っている、紛れもない八歳の子供だ」

 「じゃ、入れ替わりです」

 「どうも頭が硬いな、そなたは。なぜ天才の可能性を否定する?」

 「天才は『才』を『天』から貰っている者を呼ぶ言葉です。コレは『才』ではありません。『()』です。『理』は経験でのみ作られるものです。何故なら『理』は種族、住む環境、知識の積み方によって転変するからです。この手紙にはその『理』が詰まっています。だから彼は天才でも子供でもありません」


 マキアデオスも異常であることは分かっていても、そこまでは言い切れなかった。

 だが、プレリアは確信している。コレは決して子供が書いたものではないと。

 

 「確かに……そう言われてもう一度コレを見ればそうとしか言えないな」

 マキアデオス王は困ったように顎鬚を擦りながらゆっくり手紙の内容を口にして行く。


 「『陛下のご関心はとても嬉しく思います。未だ若輩の者ですので陛下のご心労を肩代わり出来るわけではありませんが、一言だけ自分の意見を述べさせて頂きます。遠くない日に貴族たちも陛下のように僕に接触してくるだろうと思います。なので、僕は出来るだけそれを回避しつつそのことを陛下に直接知らせようと思います。多分彼らの接触は今回の陛下の試し以上に巧妙で不当な物になる筈です。陛下はそれの隙を利用し王権の足しにしてください。連絡手段は陛下にお任せします。』か……」


 生意気を通り越して不敬にも読めるその手紙は、シアン自身の話のように書かれているが、勢力間の関係図及び、その力関係、勢力の出方とそれの隙を作り方まで、到底子供には考えつくことが出来ない内容が載っている。

 勿論、この文章はシアンがアンリと一緒に相談しながら書いたものだが、それを知らない、判断材料をこの文章だけしか持たない、国王と宰相にはシアンの年齢を疑うしか何も出来ない。


 「陛下。私が一度会ってみてはどうでしょう?」

 「そなたがか?」

 「はい。少し、いいえ。大いに興味があります。『ドラゴンは虫を踏まない』と言います。でも、ポロス殿と互角の戦闘が出来る武を持ち、陛下の意図を読んでこんな手紙まで書ける智恵を持つ人間が、まるで自分の力を隠そうともしないのが、どうにも気になります。一回会って自分の目で確認してみたいです。この手紙の話に乗るか乗らないかはその時、お決めになるのがよろしいかと思います」


 プレリアが口にした『ドラゴンは虫を踏まない』との言葉は日本式で言うと『能ある鷹は爪を隠す』と同じ意味で、能力を持つ人間は回りにその力を無闇に見せつけないことを示す言葉だ。

 

 しかし、プレリアは知っている。

 いざという時の為に自分の力を隠している(・・・・・・)人間は怖い。でもそのいざという時の為に自分の力を見せつける(・・・・・・)人間は危険だと。

 知らないで見せつける人間は純粋に自分の力に酔っている場合が多い。だが、知っていて見せつける人間は必ず見せつける目的を持っている。その目的は9割9分穏やかなものではないのはこの世界の歴史が証明している。

 だからプレリアはシアンを危険かもしれないと考えたのだ。


 「プレリア。そんな話はもう少し締まった顔でするものだぞ?」

 「は?私の顔に何か?」

 「思いっきりニヤけてた」

 「そ、それはお見苦しい所を……」

 「プレリアをニヤつかせるとはやっぱり面白いやつのようだな。シアントゥレという奴は。分かった。許可しよう。そなたが会ってきちんと見極めてみよ」

 

 そうやって、シアンとプレリア、その二人の出会いが決まった。


 しかし、それはある事件によって少々変わった形の出会いになる。


 

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