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第一話 望まない転生。



《『記憶の復旧を確認しました。コレより【一の封印】を解除します』》

 

 薄暗い未明の時。

 さらに陰湿な下水道の横で、小さな体を丸めて眠っていた茶髪の少年は聞き慣れない声に眉間をしかめながら薄っすらと目を開けた。


「だ…れ?」


 少年は目を擦りながら声の持ち主を探し、なかなか覚めてくれない頭を左右に回し視線を巡らせる。だが、どこを見ても汚水と捨てられたあらゆる生活ゴミだけで、声を出せるような存在は見当たらなかった。


「…寝ぼけて……!!…いや、マジか……」


 だが、血が巡り始め、思考能力がすこし戻った脳ミソが少年の現状を知らせてくれる。それは徐々にはっきりした形を取っていき、数秒もしない内に大体のことは理解できるようになってきた。


 少年は半年前に始まった、隣国バッシュマン王国との戦争で家族皆を失い戦災孤児として避難民と一緒に王都まで命からがら逃げてきた。

 だが、戦争で物資が不足していた為、難民グループは国からまともな支援を受けられることが出来なく、難民の間で食物を巡り争いごとが続いている。今の少年の状況は結局その争いに負けたことが原因だった。


 戦争は子供に優しくない。

 もちろんそれは大人にでも同じことだが、戦う力も無くちゃんとした労働力にもならない子供は、あらゆる場面で簡単に優先順位から外されてしまう。


 少年はなんとか腹の虫を落ち着かせる為に捨てられた食物でも、と思い王都を歩きまわってみたが、結局何も見つけることが出来ず空腹を耐え兼ねて汚い下水道の側で眠ってしまったのだ。

 だが、今少年の顔には腹を空かせた子供とは思えない複雑な顔色が浮かんでいた。


「転生か……」


 転生。

 そう。自分の前世を思い出した少年が自分の今の状態を説明する言葉はソレしかなかった。

「……僕は誰かに呪われることでもしたのか?」


 記憶を取り戻した少年が思わずそんなことを口にしてしまうぐらい、少年の今の人生も前世も恵まれたとは到底言えないものだった。

 

 貧乏な家に生まれ、母親は父親の暴力癖に耐え兼ねて出て行き、その後は母親の代わりとして父親に殴られながら育ち、学校でも小中まではイジメられ、父親が酒の飲み過ぎで死んだ後、父親が残したヤミ金の借金を返すため高校をやめて仕事をするようになり、19になってやっと借金を返し終わり、新しく入社できた町工場では嫌な上司の下で10年も苦労した末、主任まで上がったのだが、その年に会社はつぶれ、失業者になった。

 それでも10年間ためた貯金とフリーター生活でなんとか生活自体は出来るようにはなったんだが……。


 長い間の精神的苦労は鬱病を発病させてしまう。

 通っていた精神科医の推薦でストレス発散のため始めた総合格闘技が役に立って症状は少しずつ落ち着いて行き、格闘技の方も案外見込みがあるとかで、アマチュア試合にまで出ることになったのだが……


 試合直前のメディカルチェックで膵癌が発見。余命2ヶ月を言い渡されそのまま入院。

 家を出払い、貯金で自分の葬式費用を葬儀屋に先払いして、病院の中で静かに32年の人生を終えた。


 だが、生まれ変わってまで、戦災孤児になりゴミ溜めを漁るような人生……当に誰かに呪われたとしか言いようがないかもしれない。


「でも、殴られ続けた人生よりはマシか……。5歳で32歳の頭なら少しはいい未来が作れる可能性だってあるし」

 自嘲的な口調でつぶやきながら、服についた泥を叩き落とし立ち上がった少年は、ふと視野の隅に変な《点》のような物がどこを見てもついて来ることに気づき、自分の目を何回も擦る。

「あ、消えねぇ。変な所で寝て病気になったんじゃないか?どうしよう……」


 《『機能の説明が必要ですか?』》


「ウワァっ!?」

 少年はいきなり聞こえて来た感情がなく、機械的に聴こえる女性の声に尻餅をついてしまう。

 せっかく落した泥が再び服を汚していたがそんなことを気にしている暇はなかった。


「だれだ!?」

 《『私は貴方の魂に内蔵された能力です』》

「?の、能力?」


 《『はい。ギフト、【無極(むきょく)の友】です。マスター』》


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