ビグキーとシュリキー
あるところに、小さいネズミと大きなネズミが、同じ穴に、同じように住んでいました。
大きいネズミはビグキー、小さなネズミはシュリキーといいました。
二人はいつも喧嘩ばかりしていました。ひげが一本抜けたと言っては、相手が抜いたと考えて、靴下がないと言っては、お互いが無くしたと考えて、一年中喧嘩ばかりして過ごしていたのです。
ある年の冬、ビグキーとシュリキーは食べ物のことで喧嘩を始めました。
シュリキーが言いました。
「だいたい君は大きいから、いつだって僕よりよけいに食べていたじゃないか!君が今までのように一度にたくさん食べていなければ、今だってたくさん食べ物があっただろうに!それを君が食べたから、今では何もなくなってしまった。ああ、いったいどうすればいいんだ。もし僕が飢え死にしたら、君のせいだからね!君なんていなくたって生きていけるし、食べる分が増えて、逆に好都合さ。」
「何だって!?ああいいさ!好きなだけ人のせいにするがいい!俺だって、お前なんかいなくたっていいやい!」
ビグキーも怒って言いました。
するとシュリキーも、
「ふん!いつまでもそうしてすねていればいい!僕はこれから、ニンゲンのところへ行って、ごちそうをどっさりもらってくるから。でも、君には小さなかけらもやるものか。君に少しでもやったら、君は全部食べちゃうもんな!」
「何!?よーし、お前が行くなら、俺も行くぞ。お前にだけいいものを取られてたまるものか。そのかわり、俺だってお前にはかけらもやらないからな!」
そういうと、二人は出かけていきました。シュリキーは食器棚の裏へ、ビグキーはテーブルの下へ入って行きました。シュリキーは食器棚の裏で、大きなクッキーと二粒のナッツを見つけたので、それを持って外へ出ようとしました。
でも、シュリキーのような小さなネズミにとって、大きなクッキーとナッツ二粒は、大変な荷物です。大きくて重いクッキーとナッツのような大荷物は、到底一度には運べませんでした。
シュリキーはビグキーに助けを求めようとしましたが、喧嘩をしていたことに気がついて、助けを呼ばずに一つずつ、穴に運んで行きました。運び終わって外に出て、ビグキーを探しました。ビグキーが食べ物を見つけたかどうか、確かめようと思ったのです。
そのときです。人間が、シュリキーの前をどしんどしんと音を立てながら通りました。シュリキーは、見つかったら大変と、素早くおもちゃ箱の裏に隠れました。そのとき、ビグキーが一生懸命大きいビスケットを運んでいるのを見つけました。大きいビスケットを持っているので前が見えず、人間が近づいているのに気づかないようでした。シュリキーは喧嘩をしているので教えるわけにもいかず、ただ隠れているだけでした。そしてとうとう人間は、ビグキーがビスケットを持っているのを見つけてしまいました。
人間はいいました。
「お前か、泥棒ネズミは。なんだか時々食べ物がなくなっていると思ったら、全部お前が持って行っていたのだな。やい、泥棒ネズミめ、今度こそ逃がさないぞ。」
そう言いながら人間はビグキーを捕まえようとしました。怖がりながらもビグキーはシュリキーと喧嘩をしているので、助けを呼ぶことも出来ませんでした。
ビグキーはクッキーをほっぽりだして必死で逃げ回りましたが、最後には人間に捕まってしまいました。
捕まってしまったビグキーを見てシュリキーは、やっぱり助けに行けばよかったと思いましたが、ビグキーには「いなくなったっていい」と言ってしまったので、嬉しいような振りをして、穴に戻りました。
でも、どうしても心配になってきたので、人間の後ろから、そっとついて行きました。ビグキーは、人間に捕まって、殺されてしまうのではないかと怯えていました。そして、もし殺されてしまうのだったら、シュリキーにあんなこと言わなければよかったと思いました。
喧嘩をしたまま死ぬなんて、そんなことは絶対にいやです。
人間はビグキーをしっかりと押さえて、子供部屋に連れて行きました。そして、その部屋の隅にあった古臭いピンクのかごにビグキーを閉じ込めて鍵をかけ、かごを持って地下にいくと、薄暗い灰色の部屋のはじにかごをおきました。人間はドアを閉め、鍵をかけると、行ってしまいました。
「ああ、お腹がすいたなぁ・・・。シュリキー君は、今どうしているだろう。どうにかして、ここから出られないかな? でも無理だなあ。シュリキー君なら、あの小さい爪で器用に鍵を開けられるかもしれないけど、僕じゃ無理だよ・・・。」
その夜ビグミーは、そんなことを思いながらうとうとしました。
後からついて行っていたシュリキーはびっくりしていました。この家に、こんな場所があるなんて、気づかなかったのです。でもシュリキーは夜が大嫌いで、いつも怖くて早く眠っていました。
その日も怖くなったので、いつもの穴に戻って眠ろうとしました。でもそこは「いつもの穴」ではありませんでした。
ビグミーがいないのですから。
しばらく一人で穴にいたシュリキー、やっぱりどうしても心配で、怖い気持ちも忘れて外に出て、地下室の真上から、掘っていくことに決めました。
どんどん掘っていくと、とうとう地下室の天井に穴をあけることが出来ました。シュリキーは勢い余って落っこちてしまいましたが、ビグキー君が殺されてしまうかもしれないことを思ったら、痛くなんかありませんでした。それからかごを探しました。トコトコ歩き回っていると、
「遅かったじゃないか。ここだよここだよ」
というビグキーの声がしました。
シュリきーは嬉しくて、思わずぴょんと飛び跳ねました。
その声をたよりに進んでいくと、ありました。灰色の部屋の中で、ピンクの大きなかごはとても寂しく見えました。
シュリキーの器用で小さい爪を使っても、鍵はなかなか開きませんでした。それでもやっと開くと、ビグキーはシュリキーに飛びついて、なんどもありがとうとごめんねを言いました。シュリキーも、なんどもなんどもごめんなさいを言いました。
二人は一緒に穴を掘って外に出ました。それから、二人で改めて相手を見て、笑いました。
「ごめんねぇ、シュリキー君、あんなこと言って。今日初めて一人で寝て、やっぱり一人じゃ淋しくて死んでしまうんじゃないかと思ったよ。」
ビグキーはもう一度謝りました。シュリキーも、
「僕もだよ。一人じゃやっぱりだめなんだね。これからもよろしくね、ビグキー君。」
と言いました。ビグキーはにっこり笑って、うなずきました。
それから二人は、喧嘩もほとんどしなくなって、二人でがんばって食料も取りにいくようになったそうです。