俺の人生6
家族揃って晩飯を食っていた。母ちゃんと新しいお父さんそれに俺と弟の雄輔。家族揃って晩飯を食う。たったそれだけのきっとどこの家庭にもある平凡な光景なんだろう。俺達兄弟にとってはこの平凡で普通である事を経験するのに俺は12年もの歳月をかけてようやく体験する事が出来たわけだ。わざわざ危険を犯し食糧を調達することもなく母ちゃんが作ったけして豪華とは言えないのであろう晩飯だが俺ら兄弟には贅沢で安心し罪の意識など抱える事なく食える事は幸せ過ぎて怖いぐらいだ。飯を食い終わった頃新しいお父さんが俺に話しかけきた。いつもの事だ。このいつもの事を俺は普段なら適当に受け流していたはずなのに今日は虫の居所が悪いのか適当に合わすと言う行為がうまく出来なかった。
『大輔!宿題をしたのか?』
『いやまだ』
毎日毎日同じ事を聞いてくんじゃねーよ。
『勉強ぐらいしていないと将来困るのはお前なんだぞ。男は家族を養っていかなきゃならないんだ。勉強がわからないんだったら塾へ通うか?そんなことじゃ中学でも勉強についていけなくて不良になるのが目に見えているぞ』
『別に不良だろうがなんだろうが生きていければそれでいいじゃん。父親ぶるなよ。俺の親父はあんたじゃねーんだ。食わしてくれている事には感謝するけど俺の人生は俺が決めるよ。勉強出来なくてのたれ死ぬならそういう運命だったって俺は諦めもつく覚悟はとっくに出来てんだよ。だからガタガタうるせーこと言うんじゃねーよ!』
俺は家族揃って飯を食うと言う一般家庭では普通なのであろうこの光景に幸せを感じると共にこの普通である光景に今だ慣れずむしろストレスを抱えていたのかも知れない。いつもなら一言わかったと言えば済む話しだ。だけど今日の俺はお父さんの言葉に噛み付いてしまった。
『大輔!お父さんに何言ってんの?あんた誰のおかげで普通に学校通えてると思ってんのよ!』
『だからそれは感謝してるって言ってるだろ!クソ女!いってぇー!何すんだよ!』
もうお前も黙れよクソ女。俺だってわかんねーんだよ。ありがた過ぎて逆に不安みてーなんだ。万引きを犯す事なく飯が食え普通に学校へ通える。感謝しているんだ。でもなぜだかわからねー不安が俺を襲うんだよ。俺が発した暴言にお父さんは俺にビンタを食らわせた。当然だろう。母親に向かって俺はクソ女と呼んでいる。そして俺はすぐに家を飛び出した。
『お前のお母さんだろ。クソ女なんて言うんじゃない。大輔!待ちなさい!』
俺が間違っているのはわかってんだよ。お父さんあなたには本当に感謝しているんだ。だって俺はやっと普通の生活が出来てんだからな。全てお父さんのおかげだよ。わかってんだよ。わかってるからもう俺を追い込まないでくれよ。俺だってなぜこんなにも不安で意味のわからぬ苛立ちを抑えられねーのかわかんねーんだ。適当にやり過ごしうまくやっていきてーのに俺の中の俺が言う事を聞かねーんだよ。お父さんにビンタを食らい家を飛び出した俺は走り疲れて近くの公園のベンチに座り地面を見つめながら息を整えていたが急に顔を上げ夜空を見上げた。あー星だ。結城壮一郎さん!あなたと語り合った公園のベンチで見た空と今俺が見上げている空は繋がっているんだよな?あなたも今日の星空を見てる?俺はあなたの息子代わりとしてバイトだと思っていたし俺があなたの喋り相手になってやってるんだと思っていたけど違ったよ。俺があなたに聞いてもらったり教わったり俺自身が癒されていたんだな。大人は敵だって思ってきた俺にあなたはいとも簡単に俺の中に入ってしまっていたんだ。俺勘違いしていたよ。やっぱ大人には勝てないよな。あなたと語り合いたい。聞いてほしいよ。結城壮一郎さん!あなたに逢いてーよ!俺は普通で平凡であるむしろ幸せすぎる生活が出来ているのに俺の心は何故こんなにもあなたを求めてしまうんだよ。わからねーけどとにかくあなたにただ逢いたい。
『大輔!今日はどこの病院行くんだよ?お前いったい誰を探してんの?』
『恭一!お前なんでついてくるんだよ!』
いちいちついて来なくていいんだよ。俺はとても逢いたい人がいるんだ。
『いやー暇だから?で、誰?女?』
『ちげーよバカ!俺は女なんかめんどくせーからどうでもいいんだよ』
恭一!お前は軽すぎる。毎日誰々がかわいいと日替わりじゃねーか。
『ななちゃんはクラス1のかわい子ちゃんだぞ!その子にコクられてフルお前はおかしい!俺だったら喜んで付き合うわ!ななちゃんをフッてまで大輔が夢中になる女の子はどんな娘か気になるじゃん!入院してんのか?前の学校の娘?』
ななちゃんもかわいいけどあんなちゃんもかわいいよなー。どっちでもいいから付き合いたい!でも大輔はななちゃんをふった。こいつは絶対バカだ!ななちゃんよりかわいい子がいるんじゃねーのかよ?
『だから女じゃねーっつってんだろ!俺が探してるのは男だ』
恭一!お前は本当に平凡な幸せを満喫しているな。羨ましいぜ。俺もそうしたいはずなのにそれがうまく出来ねーんだ。
『えっ?大輔ってまさか男が好きなのか!?』
お、男って!お前まさかそういう趣味?テレビで見た事はある!そういうのなんて言うのか覚えてねーけど。
『バカか!お前は!俺はそっちにも興味ねーよ!ただめんどくさい女が嫌いなだけだ』
俺は今恋を楽しむ程平和ボケして暮らしていけねーんだよ。なぜだかわからねーから俺が唯一信用した大人に話しを聞いてほしいんだ。
『めんどくさいってなんだよ?女の子とデートしたり楽しい事だらけじゃねーかよ。んで男って兄貴かなんか?』
大輔バカじゃん!デートは楽しいぞ!かわいい子を連れて歩くのは幸せだろ!
『まあそんなような感じ。俺が初めて憧れた大人だ。どこの病院か聞いときゃ良かった。俺がバカで勘違いしていたからな。俺が助けてやっていたんだと思ってたんだから俺は本当にバカだ。今頃気づくなんておせーんだよな。俺が助けられてたんだ』
本当に俺はバカだ。俺はあなたに出逢ったあの日からあなたに助けられていた。何かわからない不思議な感覚が俺の心のに入っていくのを感じていたのにやっと今更気づいたよ。あなたは何かわからねーけどとにかく大事なモノを俺の心の中に入れてくれたんだろ?
『大輔!名前しかわかんねーんだったら無理だよ。諦めろ!親と喧嘩した時は俺ん家泊まりに来ればいいじゃん!俺も親うぜーけど』
大輔がそんなに必死で探す大人ってどんな人だよ?でも無理だろ。お前どんだけ病院回ったと思ってんだよ。名前しか知らねーんじゃ無理ってもんだ。
『あー。ありがとう。恭一』
お前の言う通りだ恭一。俺が勘違いしていたからこんな事になるんだ。どこに転勤かまでは聞かなかったしこんなにすぐ逢いたいなどと思うはずがないと思っていた。大人になった頃そのうち逢えるんだろって軽い気持ちでいたからな。
『大輔!元気だせって!うわっ!いってー』
大輔!そんなに会いてーんだな。ゲッ?ヤバっ!よそ見してたからぶつかっちまったじゃん!
『おい!クソガキどこ見て歩いてんだよ!いてーのはこっちだ!バカ!慰謝料払え!』
『あっ、ごめんなさい』
最悪だ!中学生のヤンキーじゃん!慰謝料ってなんだ?
『シュウ!そいつらまだ小学生じゃねーか。小学生からもかつあげする気かよ』
短気だねー。でもそんな小学生のガキが持ってる金なんて小銭ぐらいだろ。時間の無駄だ。
『ごめんなさいじゃ済まねーんだよ!お前がぶつかってきたんだろ!いてーんだよ!慰謝料出せって!いくら持ってんだよ!』
『あの!すいません。でも恭一はちょっと当たっただけだしそんなに痛くないでしょ。慰謝料なんか払わねーよ!バカ!』
かつあげか?怪我もしてねーのに何が慰謝料だ!ふざけやがって!年下相手にかつあげなんてダセー事すんじゃねーよ!
『はあ?なんだてめぇ!なめてんのか!』
『シュウ!やめとけ!行くぞ!学校の近くでガキ相手にもめんじゃねーよ!』
『今度見つけたらぜってー払わすぞ!』
『大輔!お前あの人達来年俺らが入学する中学の先輩になるかも知れねーんだぞ。3年で卒業してくれたらいいけどどう見たって3年ぽくないよなー最悪じゃん。俺らやられるんじゃねーか?』
助けてくれたのは嬉しいけど逆に喧嘩売ってどうするんだよ!大輔はびびんねーのかよ?
『上等だよ!やっちまえばいいんだ!恭一!俺らが入学するまでに鍛えよう!ボクシングジムに行こうぜ!』
クソったれ!てめぇーらラクして金得ようとしてんじゃねーよ!しかも弱い者しか相手に出来ねーんだろ!俺は絶対強くなってやる。お前らみてーな弱い者にしかいきがれねー奴を見るとムカつくんだよ!
『えー!マジかよ!やる気?俺らと体格違いすぎだろ。やっぱ中学生と小学生ではえらい違いだよなー!俺はやれる気全然しねーのにお前普通にからんですげーな!大輔!勝てる気するわけ?』
大輔!お前ヤベーな!先輩相手にやる気かよ!
『しねーよ!だから鍛えるんだろ!バカ!』
結城壮一郎さん!俺はあなたを必死で探したけど結局見つけられなかったよ。俺の少ないお小遣いでは行ける範囲も限られてくるしやっぱ神の計らいがないと無理みたいだ。あなたを頼らず強くなれって言われているみたいな気がするから俺はあなたと逢えるまで待ってるよ。まずは友達を守れる男になるわ。バカな俺にはそれぐらいしかわかんねーよ。結城壮一郎さん!あなたに教わった事をちょっとずつ思い出して深い意味を理解出来るようになるまで俺は頑張ってみるよ!俺はあなたから何か大事なモノを俺の中に入れてもらってるんだから俺の中にあなたがいるようなもんだと思って待ってるからな!