俺の人生19
あーやべーな。昨日の酒が残ってんぞ。慶太郎よりは酒に強いはずなんだけど。酒乱の息子だからな。ママと飲むと効くぞ。強すぎる。二十歳過ぎたらもう老化へと向かう一方か。もう今年は22歳だし俺らも年だな。結城さん!あなたと出逢った時にあなたは33歳って言ってましたよね。俺達は30代を迎えますか?自業自得の10代を過ごしてきたわけだしわかりませんよね。のたれ死ぬ気でいましたし慶太郎なんかドラッグにも手を出していた頃はかなりヤバイと思いました。酒は中学から浴びる程飲んでいるし今も俺が店を回しているとは言え俺だってまだホストもやっていますからね。俺達のホスト完全引退は25歳ぐらいが一応目処です。後3年飲める体でありしっかり人材が育てばの話しっすけど。まあ俺は酒乱じゃないだけまだ親父よりマシかと思います。人にカラむ事はないはずですし。酒乱であればホストで成り立ってもいないですけどね。俺達がホストをやらずに済む人材を育成しなければならないのになかなか難しいっすよ。翔太の自殺があって以来やっぱりこういう世界に身を置く人間はそれなりのものを抱えて飛び込んで来るんだとは心得てはいるはずなんすけど人の心の中までは見えないっすから神経使いますね。えーあと店の備品は何がいるんだったかわすれたじゃねーか。早く買い物済まして店行かなきゃいけねーのに。トイレットペーパーに芳香剤とまだなんかあったはずなんだよな。おっ?あのガキ万引き少年じゃねーのか?まるで昔の俺だな。俺もこんなふうにあなたに見られていたんですか?でも俺は遊びではなくマジで金がなく仕事としてプロだったはずなんであんなに挙動不審ではなかったと思うんすけどね。
『おい!チビ!ポケットに入れたものを俺の方を向いて俺のカゴに入れろ』
めちゃくちゃ動揺してるじゃねーか。罪を犯すんだ。もっと覚悟を決めてやりやがれ。俺は地獄へ落ちる覚悟をしていたぞ。生きる為にな。
『え?ぼ、僕、し、しらない!』
どうしよう?逃げたいのに足が動かないよ。
『大丈夫だよ。お前みたいなチビは俺が前に立ってたらスッポリ隠れるからな。お前はすぐに見つかるぞ。ここには私服の万引き保安官がいる。ここで出して店を出なければお前は1発でアウトだぞ。捕まったら親が呼ばれるんだ。いいのか?早くしろ』
ビビるぐらいならやるんじゃねーよ。
『で、でも警察に言うんでしょ?』
僕逮捕されるんだ。テレビで見たもん。
『言わねーよ。俺が買ってやる。早くしろ怪しまれるだろ!お前初心者か?ガムだけ?あるものは全部出せよ!店出たら終わりなんだぞ!』
めんどくせー事になるんだからさっさと出せ。
『まだこれだけだよ!今からだったもん』
ホントに買ってくれるの?警察に連れていかれないのかな?
『あっそう。他には何をパクろうと思ってたんだよ?』
今からってそんなに挙動不審で覚悟も決めてねーのにうまくいくと思ってんのか?まあまだチビすぎるもんな。そこまで考える知恵はないか。
『け、消しゴム』
『じゃあ持ってこいよ』
消しゴム?そしてガム。食う為に困ってねーんだろうな。ちょっとした好奇心か?
『うん』
なんで買ってくれるのかな?
『あそこに茶色い服着たおばさんがいるだろ。普通に買い物をしているように。でもあのおばさんはお前みたいな万引きを捕まえるのが仕事だ』
俺は見たらだいたいわかる。私服でいかにも普通のお客さんを演じてるけど一日中いるのがおかしいんだよ。俺はまず怪しい奴がどの時間帯までいるのかを観察する事からが仕事だった。買い物かごに物を入れているが絶対に買わないしそして勤務時間帯を何日も偵察していた。勤務地が変わるところもあるから人間も当然変わる。二、三日置きに警備する人間がかわっているとかそこまで調べてやってたんだ。だから学校なんか行く暇なんかねーよ。所詮雇われ警備員だ。昼休憩があるし勤務が終わる時間帯が必ずあるんだ。遊びじゃねーんだからこっちもそれなりに仕事していたっつうの。
『え?あの普通のおばさんなのに捕まえるの?』
どうしておばさんが捕まえるのかな?
『だいたいどこにでもいるんだよ。普通の買い物客に紛れこんでな。その見分けがつかねー素人がやってんじゃねーよ。おっさんだっているし若いねーちゃんが警備やってる事もある。ほら!ちゃんと金を払ったんだから堂々と持って帰れ。次やるときは捕まる覚悟でやるならやれよ。お前は確実に捕まるぞ』
まあ金に困ってるわけでもねーんだし一回捕まっちまった方がいい勉強になるかもな。
『あ、ありがとう!お兄ちゃんはなんでわかるの?』
す、すごい!
『俺もやってた頃があるからだ。お前みたいにただのお遊びじゃねーけどな。本気でその日の食料を得る為だ。遊び半分でやっていたんじゃねーよ。お前は食う事に困ってねーんだろ?』
毎日食料を足りる程確実に得れていたわけでもねーんだ。パン一つが限界の日もあった。弟の雄輔に食わして俺は空腹のまま水だけで我慢もしていた。
『困ってないよ。施設だから』
『あっそう。じゃあいいじゃねーか。消しゴムぐらい言えば用意してくれるんだろ?』
施設なら食う寝る全て安全な方じゃねーか。
『欲しいものじゃないし選べない』
だってみんなが持ってるのが僕も欲しいもん。
『最低限食えて必要なものも貰えるなら危険を犯す事はねーと思うけどな。お前名前は?』
贅沢な。貰えるだけありがてーじゃねーか。
『壮太郎!結城壮太郎!』
『はあ?結城壮太郎?まったくどんなご縁だよ。お前の施設はどこ?親は?』
まさかだろ?俺は結城って苗字にご縁があるのか。
『お父さんは知らない!僕が生まれる前に死んだって言ってた。お母さんは1年生の時死んじゃったから僕に親なんてもういないよ!』
『お前いくつ?』
『7歳だよ!春休みが終わったらもう2年生になる!』
『そうか。壮太郎!万引きは絶対にもうやめろ。これは俺の名刺だ。携帯の番号が書いてあるだろ。どうしても欲しいものがあるんだったら電話してこい。施設に電話ぐらいあるだろ』
何やってんだ俺は。こいつに何が出来る。単なる結城って苗字つながりだけなのに。なぜこんなにこいつが気になるんだ。
『名前なんて読むの?』
まだ学校で習ってない字があるよ!
『大輔だ。渡部大輔』
『うん。わかった』
結城さん!これは神の計らいですか?まさかですよね?でも同じ結城なら何かのご縁があるって事でしょ?何を意味するんすか?まさかあなたの子じゃないですよね?あなたは慶太郎と暮らしていたんでしょ?俺バカだからわかんないっすよ。そもそも慶太郎はなんで中2の時俺らの中学に転校してきたんすか?中1の時はあなたと暮らしていたんでしょ?慶太郎の尻叩いて躾てたんすよね?慶太郎は尻叩かれて泣いてたって言ってましたよ。あなたは慶太郎を捨てたんすか?違いますよね?あなたはそんな人じゃない。慶太郎が出て行ったんすか?そもそもなんで坊っちゃんの慶太郎が荒れたんですか?わかりませんよ。7歳の結城壮太郎が万が一あなたの子ならあなたが亡くなって今年8年目ですよね?壮太郎が今年2年生で8歳になる。13歳の慶太郎とあなたにいったい何があったんすか!わかりません。ただの偶然ですよね?頭の悪い俺が考えてもわからねーよ。
『お疲れ!大輔!給料明細出来ましたんで持ってきましたよ。皆さんに配ってくださいね。つうかマジで事務員雇おうぜ。俺も大輔も仕事減らねーよ!』
本当にめんどいんだぞ。せめて給料計算は事務員にやってもらいてーんだけど。いや他にもいっぱいやってもらいたい事は山程ある。
『おう。お疲れ!慶太郎。女はめんどくせーっつってんだろ。つうかお前飯食った?』
女を指導するのも事務所にいるのもうざってーんだよ。
『いやまだっすよ。もう飯を準備してくれてる女もいませんからね。それより荷物が片付けられねーんだよ。誰か貸してくんない?』
俺は飯より家の片付けをどうにかしてほしいんですけどね。
『よし飯行こうぜ!慶太郎!』
『はあ?つうか俺が言った事を聞いてます?片付けをしてもらいたいんすよ。だいたいこんな早朝から何食うんすか。まあ俺らにとっては晩飯みたいなもんすけど。こんな時間じゃ美味い物なんか食わせられませんよ。ファミレスぐらいしかないじゃないっすか』
食うより寝る事の方を俺達が優先すべき事だろう。1時間寝るのと寝れねーのとでは大きな違いだぞ。
『なんだっていいんだよ!行くぞ!』
『マジっすか!俺もう帰ってちょっとでも寝ないとヤバイんすけどって聞いてます?』
全然聞いてねーよな。つうか大輔はいつだって強引だ。俺の事を暴走するって言うけど君もかなり強引で譲らないっすよね。
『慶太郎!お前は中2の時に転校してきたよな?結城さんとは中1の時一緒に暮らしてたんだろ?お前はなんで転校してきたんだよ?実家より結城さんの方が居心地良かったんじゃねーのかよ?尻を泣く程叩かれて辛くて逃げ出してきたのか?』
お前の中1の頃が謎なんだよ。慶太郎!何があったんだ?
『なんだよ!大輔!お前もまたなんなの?俺の過去に触れる必要ねーだろ。そんなことの為にファミレスに来たわけ?ふざけんなよ。もうねむてーっつうの。俺が逃げ出しましたよ。それでいいっすか?』
何を今さら聞きてーんだよ。お互いに傷を持っている事を知っているだけでいいじゃねーか。だから俺も聞かねーだろ。
『お前捨てられたのか?』
ありえねーけど。カマかけるしかねーよな。
『はあ?バカか!大輔!壮ちゃんはそんな奴じゃねーよ!俺を1番愛してくれていたのに俺が逃げ出したんだ。はぁー。もう俺が13歳の夏にパクられた。学校も退学になった。壮ちゃんにこれ以上迷惑かけたくなかったから俺が実家に戻る事を決めたんだ。壮ちゃんに合わせる顔がなかったから俺が逃げ出したんだよ。これでいいっすか?』
大輔!お前は何をしたいんだよ。そんなこと今さら聞いてどうしたいんだ?
『そうか。それなら良かった。捨てられたんじゃなくビビって逃げ出したのはお前なんだな!慶太郎はチビの頃だけじゃなく中1になっても尻叩かれて泣くぐらいだからそりゃビビるわな』
やっぱりか。あれ程お前を毎日想い心配していた結城さんが捨てるはずがないんだよな。
『うるせーよ!お前だってやられたら絶対泣くよ!俺が中1の時のお仕置きは素手だけじゃないんだぞ!2週間ぐらい尻に跡が残ってたんだからな。座るのだっていてーんだよ。壮ちゃんは優しそうに見えるけど怒らせたらマジ鬼だった』
マジいてーんだっつうの。やられた奴しかわからねーよ。たかが尻叩かれるぐらいだって思うんだろ?俺はもし壮ちゃんが今いたら絶対にもう壮ちゃんに逆らうバカはしないな。尻出して反省までさせられてたんだ。
『お前がそれだけの事をしたんだろ』
『そうですね。俺は泣かされて当然ですよ』
結城さん!慶太郎がパクられた理由までは聞きませんでしたが退学になったのであれば中1の二学期以降から俺らの中学に来てもおかしくないっすよね。保護観察処分ではなかったと言う事でしょ。中2でパクられた時短期の少年院送致でした。鑑別所だけでは済まなかった。と言う事はあなたと慶太郎は離れて暮らさなければならない程13歳の慶太郎の処分は重く実家に戻れたのも中2からだったわけですね?だとしたら慶太郎が居なくなってから出来た子が壮太郎ではないんですか?あなたは知らされていなかったのか知っていたのかはわかりません。結城と苗字だと言う壮太郎があなたの子なら籍に入れたんでしょい?死ぬ前にわかったんですか?俺の予想は合っていますか?もしあなたの息子なら血の繋がりはないけど慶太郎の弟ですよね。慶太郎に知らせるべきですか?俺にどうしろと言うんすか。神の計らいの意味がわかりませんよ。




