密林の鉄獅子~フィリピン1945~
この話は“もし日本にこんな戦車あったら”なストーリーです。
日本戦車、バンザーイがお嫌いな人は回れ右をお願いします。
正直、日本戦車で互角以上の戦車戦をするのならコレ位の戦車を持ってこないと無理ですから。
昭和20年フィリピン・ルソン島
「ジャップの戦車部隊が居るだってぇ?」
戦車大隊を率いる米指揮官が尋ねた。彼が居るのは野戦司令部のテントの中。これから戦車大隊を率いて進軍を開始しようとする所だった。
「ああ、昨日先鋒部隊が交戦した。どうやらこの先のジャングルに潜んでいるらしい。そいつ等を君の部隊で海に叩き落として欲しい」
「分かった。それにしてもジャップも可哀想だな。こっちはM4が30輌以上もいるんだ。敵ながら同情するぜ」
1時間後、1個戦車大隊と1個歩兵中隊からなる部隊が密林の中を進んでいた。
「A中隊、敵は待ち伏せをしている筈だ。周りをよく見て慎重に進んで行け」
「「「ラジャー!」」」
前方を進む10輌のM4中戦車シャーマンから元気の良い返事が無線から聞こえる。力強いエンジン音の咆哮を立てながら進んで行く。
今の所は何も無い。ここに敵はいないのか?そう思案していた次の瞬間、密林の中から10以上の閃光が瞬いた!瞬く間に連続する爆発音。噴煙の立ち込める中、次々とM4シャーマンが撃破された。遅れて銃声も響き渡り、歩兵を薙ぎ倒されていく。
唖然としながらも叫んだ。
「全車、後退!急げ!!」
生き残った車両が辺りをやたら滅多らに撃ち始めた。しかし再び砲火が煌めき、撃破されていく。
何でジャップが正面から撃ち抜けるんだ!奴等の戦車じゃ撃ち抜けられない筈だぞ!
「一体、あそこに何が居るんだ!?」
そう叫んだ次の瞬間、激しい衝撃を受けて昏倒した。
“罠に掛かったな”そう口の中で呟きながら唇を湿らせた。
バナナやヤシの葉を被せて偽装した戦車の中から彼の見つめる先には燃え盛るM4シャーマンの残骸がある。
これでやっとマトモに戦える。今はその気持ちで一杯だった。
これまで自分達が操っていた九七式中戦車チハとは比べるモノに為らない、雲泥の差の火力を手に入れた車輌、五式“重”戦車チリなのだから。
帝国陸軍がようやく敵と互角以上の戦いを出来る戦車を手に入れた。
今までありとあらゆる日本戦車が手も足の出せず蹂躪されたM4シャーマンを歯牙にも掛けず撃破出来るのだ。魅力的すぎる。
そう思いながら次の獲物の指示を出す。
「砲手。次は二時に居る奴だ。落ち着いて狙え」「了解!」
砲手はそう答えながら発砲。照準器から見えるM4シャーマンに目掛けて徹甲弾が飛翔する。
砲撃の衝撃と共に撃ち出された徹甲弾はM4シャーマンの装甲を穿ち、炎上させた。
僚車も続けざまに射撃。次々と敵は炎に包まれ残骸と化していく。
密林の木々越しに撃破した10輌近くものM4シャーマンから黒煙が上がっていた。これまでの日米の戦車戦では見られなかった光景だった。
今までの日本戦車なら砲弾は弾かれ、決死の肉薄攻撃でやっと1輌か2輌の米戦車を擱座させられるかどうかだった。
それが撃てば必ず敵を撃破できて装甲も今まで以上に分厚い。
今までのように被弾即炎上、“ワンショットライター”のようにならず、コレまで培った技量を惜しみなく十二分に引き出して戦える。
「・・・どうやらあらかた全て片付いたようだな」
ハッチから車長が硝煙塗れの顔を出して辺りを確認した。見渡す先には進撃してきたM4シャーマンが連なって骸を晒していた。
「操縦手、今のうちに動くぞ」
そう操縦手に命じて陣地転換を開始した。中隊僚車も同様に動き出す。大きな損害は無いようだ。
これから一戦ごとに迅速な陣地転換を行い、こちらの戦力を幻惑。
空襲と砲撃から逃れて盛大に無駄弾を使わせて、アメ公をキリキリ舞いさせてやる!
「ひい、ふう、みい・・・・・・オイオイ、冗談じゃないぞ」
五式中戦車の活躍は米軍にとって大ショックだったようだ。
アンブッシュやヒット・エンド・ランなどの戦術による神出鬼没のゲリラ戦を仕掛け、米軍はウナギ登りに損害を出し続けた。
業を煮やした米軍は“ジャングルを石器時代に戻してやれ!”“汚物は消毒だ!ヒャッハー!!”なノリと勢いで少しでも怪しい場所を見つけると物量に物を言わせた、文字通り“鉄の嵐”の砲撃を仕掛け、交戦すると航空支援を要請し、ジャングルを焼き払う勢いで空爆を行った。
お陰でジャングルの殆どが焼け野原になり隠れる場所が殆ど無くなってしまい、丸裸同然となっていた。
そしてこの日の攻撃は苛烈その物だった。数派に及ぶ入念な爆撃と砲撃の後、虎の子のM26パーシング重戦車やM18ヘルキャット駆逐戦車を含む50輌以上の戦車が押し寄せてきたのだ。
一方、コチラは連日の攻撃により12輌いた部隊が僅か4輌までに戦力を磨り減らしていた。
しかし敵の進行を遅らせる役目は充分に果たした。これまでの戦いで100輌以上の米戦車を撃破し、進攻プランを大いに崩してやったのだから。
「たった4輌相手にM1重戦車(M26パーシング重戦車の事)付きで50輌以上とはアメさんは相変わらず豪気なものモノですな」
「最後の桧舞台にはちょうど良いだろう。なぁ、諸君?」
肉食獣の笑みを浮かべながら心底、楽しそうに車内に居る乗員、僚車に聞いた。
「今まで散々、殺られたアメ公をキリキリ舞いさせたんです。思い残す事はありませんよ」
「先に彼岸へ逝った戦友達へ良い土産話が出来ます」
「アメさんに一矢報えたんです。悪くありません」
「そうです。あのM4の死骸を山ほど拝めたのですからイイ気分すよ」
「靖国へ行く手土産には丁度いい相手です」
「噂のチリⅡ型や五式砲戦車に乗ってみたかったですけどね」
車内や無線から男達のやり切ったと云う想いが込められた言葉が次々と返ってきた。
「行くぞ、諸君!日本の鉄獅子乗りの技量をアメ公共に見せてやれ!」
「「「了解!!!」」」
「全車、前へ!」
この戦いで独立遊撃戦車中隊は全滅した。しかしこの戦闘に参加したアメリカ側の戦車も全て撃破された。
この損害により米軍の進攻が一時的にストップ。ルソン島攻略は遅れ、対日進行スケジュールは大幅に狂った。
一方、大日本帝国側は防衛戦力を整える貴重な時間を稼ぐ事に成功。
結果、以後の戦闘では各戦線で米軍に多大な出血を強い、沖縄に上陸した1ヶ月後の8月15日、終戦を迎えた。
『五式中戦車チリ』
重量40t、全長7.30m、全幅3.10m、全高3.05m、
最大速度40km/h、最大装甲厚100mm、乗員5名、
武装:45口径88mm戦車砲×1、7.7mm機関銃×2
第二世界大戦における日本最強戦車。「五式重戦車」とも呼ばれる。
日本戦車の現状を憂いた陛下の“鶴の一声”により管轄や部署の垣根を越えて急ピッチに開発し実戦に投入された。
開発にはドイツ第三帝国から購入したパンターを参考にしたため“和製パンター”とも呼ばれた。
派生型に五式中戦車チリⅡや五式砲戦車ホリⅠがあり、チリⅡは帝国海軍の六五口径九八式一〇糎高角砲(長10センチ高角砲)五式砲戦車ホリは八九式十五糎加農砲を其々に搭載。
五式中戦車チリⅡや五式砲戦車ホリⅠは主に大陸方面に配備され、ソ連軍と死闘を繰り広げた。
連合国からは日本最強の戦車と称され日本戦車と戦車兵の面目躍如を成し遂げた。
*この話の五式中戦車チリは火力・装甲とも強化されています。
火砲は九九式八糎高射砲(45口径88mm砲)を搭載し、最大装甲を100mmに増強。
副武装の一式37mm戦車砲と砲塔左側面の九七式車載重機関銃を撤去しています。
性能は概ねⅣ号戦車とパンターの間くらいの戦車若しくは61式戦車並の戦車だと思って下さい。
また他の三式中戦車や四式中戦車については、三式は四式の長砲身75㎜を搭載し、九七式や一式などの改修車として採用。
四式中戦車は開発を中止。後に五式の試作車両として五式の車体と88mmを利用したヤークトパンターのような駆逐戦車として誕生。
四式駆逐戦車と名前を変えて試作車として戦線に投入。後に性能が評価されて正式採用。各戦線で戦った。