ROLLING STONE
「ローリング・ストーン、 ね。 回転してくるのかしら」
「だろうね」
ケインの手には既に爆弾が握られている。
敵の手が動きを見せた瞬間
――Pursuit――
MP消費の少ない追尾爆弾を放った。 爆弾が生き物のように曲がりくねりながら敵へと向かう。
爆弾は妨げられることなく、 その身を敵に爆発させる。
敵の体に纏われた岩の一部が吹き飛ぶ。
「エナキス!!」
「任せて!」
女騎士が疾走する。 敵を見据え、 レイピアを爆弾が当たった部分に突き立てる。
――Red Destiny――
淀むことを知らない連続突き。
そもそもレイピアは斬ることを目的としていない。
その役割はその軽さを武器にした突きである。
「ハァアアアアアアアアアア!!」
無謬にして苛烈なその突きは少しずつ、 しかし確実に岩を削り取っていく。
ケインはローリング・ストーンを見る。
巨大な岩は特に気にする様子もなく、 攻撃を受けているのだ。
「どういうことだ?」
攻撃を受ければ反撃するのがCPUの役目である。
しかしこうも長く何もしないとなると――
ケインの目が岩の禿げた部分を見る。
そこは溶岩のように赤く赤く染まっていた。
――もしかすると
不安が頭をよぎる。 同時にケインはエナキスへと叫んだ。
「まずい!! エナキス離れろ!」
「え?」
刹那――敵から岩の塊が四方八方に吹き飛んだ。
大きさも形もさまざまな岩は火をその身に纏っている。
「――ッ」
エナキスは岩に対応できずに中を舞った。
――Wormed――
ケインは目の前に迫り来る岩石めがけ、 小型爆弾を放った。
だが――ケインは見た。
火を纏った岩が爆弾を飲み込み、 己が体を膨張させるのを。
身を翻すことも叶わないケインは為す術もなく火炎を受けた。
「ぐわっ!! 」
体がはじけ飛び、 岩壁に体が直撃する。
過剰なエフェクトかとケインは思ったが、 HPゲージを見て誇張などではないことを悟った。
2300/2800
わずか一撃で6分の一近いダメージ。
――これはマズイな……
攻撃力の高さも問題だが、 敵の防御力の高さも難関だ。
先のエナキスの突きはほとんど効いていないだろう。
虚ろな視界の焦点を合わせ、 敵を視界に捉える。
溶岩のような岩が剥ぎとれ、 岩に包まれていた敵はその全貌を表した。
――巨大な鉄
身に纏っていた岩よりさらに冷たく、 色というものを感じさせないほどに光を反射する鋼。
恐らくは拷問器具をモチーフとした肉体なのだろう。 腕に繋がれていた鎖の長さも先の3倍は大きくなっていた。
腕と腕の間には太陽のように赤い2つの目が覗かせていた。
右手に爆弾を具現化した瞬間――
鋼が回転し、 エナキスをひねり潰さんと突進した。
「エナキス!!」
ちょうど3人の位置は直線上にある。 ケインが全力で走ったところでつまりは岩の後追いにしかならない。
手を伸ばす。 何かに躓く。 視界が低く低く暗闇に落ちていく。
虚空を手は掴み、 目の前では岩が"何か"に衝突する音が響いた。