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Jailbreak Online  作者: BURN
58階
8/10

探索

朝7時。


太陽光などありはしないが、 時間を体感させるためにいかにも太陽が照らしているかのように世界が光っている。


恐らく現実の肉体も眠っていたのだろう。 精神的な面ではいつもの朝とかわりはしない。



収容所の出口には既にラインハルトがいた。


こちらの姿にラインハルトが気づき

「おはよう」

と言った。


こちらもおはよう、 と返しラインハルトのもとに歩み寄った。



「それが……お前の武器か」


ラインハルトの背には大剣が背負われていた。


ラインハルトの体格と、 その全身を覆う無機質な鎧に吊り合うほどに巨大な剣。


そもそも大剣自体、 ゲーム内では使用者は少ない。


リーチや威力の代わりに、 一発一発のタメが長く、 隙が大きいからだ。


ラインハルトにはぴったりだな、 とケインは思った。



「まぁ見てからのお楽しみってことで」


そう言ってラインハルトは門へと向き直った。


半円型の扉を目の前に臨む。 もう幾度とくぐってきたはずなのに、 緊張感が鼓動を速くする。


「十中八九アイテムはボスに近い強さの敵がいるだろうから、 引き締めてかかれよ」


「そんなの言われるまでもないわね」


エナキスが自信満々に門を引き開けた。


ギィ、 と硬い音を立てて門が開かれる。


門の奥は霞がかったように白く、 時折虹のような数多様なエフェクトがかかっている。


しかしここを出れば、 そこは無法地帯が現れる。 そこで死んでも誰にも文句など言えはしない。


だが今更怖気づく3人ではなく、 その境界線は容易く破られた。



「さて――行きますか」


目の前には一階の収容所のように薄暗く、 まわりが壁だらけのステージが現れた。


鳥の声を数段低くしたような雄叫びがステージ全体に響き渡る。


その雄叫びに3人は辟易することもなく、 視界を一望する。 ステージの様子を確認するためだ。


ステージの把握は実力者もそうでないものにとっても等しく重要だ。

脱出用のアイテムはあるものの、 もしアイテム使用不可のステージに遭遇し、 なおかつ倒せない敵に出会った場合逃げ帰るしかない。


そのときにステージを把握せずに行き止まりに出てしまった場合、 ゲームオーバーだ。



ケインがアイテムボックスを開き、 さらにアイテム【マップ】を選択する。


このマップはいままで通った道のみを表示する、 いわば足跡を確認するものなのだ。


当然ながらこのステージは初めてなので地図には何も表示されていない。


ケインは慣れた手つきで、 マップの左端にあるプレイヤー一覧を指で押した。


すると地図上にプレイヤー名が表示された。


「7人か……」


このステージに来たことのある人数、 それが7人だとマップは示している。


収容所にはラインハルトを含め5人のプレイヤーがいた。


7人の内5人が58階にいるとしても残り2人は先に進んでいると考えたほうがいいだろう。


「先は……長いな」


そう言ってケインは溜息をつく。 7人に先を越されているという事実と先に進んでいるのは多くとも2人程度だという事実に。



「気にしても仕方が無いわ。 行きましょ」


アイテムを確認しながらエナキスの足が進んでいく。 そして2人が追いかけるようについていった。



道を突き進んでいく。


薄暗く、 周りには鉄で出来た木が生えている。 壁は無個性で、 縦と横がクロスして引かれかろうじて模様を作っている。


無機質で不愛想な空間である。


しかしそんな空間も長くは続きはしない。


道を進んでいけば、 次の階の収容所の光に照らされるかのように空間そのものが明るくなり、 緑に染まった木々が見えるようになるのだ。 つまり光を辿っていけば、 いずれは目的地へと到着できるのだ。


少しずつ光が強くなるのを感じながら3人は歩く。


道の途中で出会った敵はエナキスが一人で倒していた。


流石に58階ともなると一撃で倒せるわけはないのだが、 エナキスはスキルを使い、 群がる雑魚を一掃していった。


目付きの悪い看守の敵の首がレイピアの一閃で吹っ飛び、 赤いエフェクトをまき散らしていく。


首がケインの方を向き、 恨めしそうに視線を向けた。


プレイヤーにダメージを与えること無く死んでいく敵にケインは同情した。



「さぁここを曲がるのよ」


出発して20分後、。 エナキスがある場所を指さした。


道は二手に分かれ、 そのうちひとつは真っ直ぐ、 もう一つは真横に曲がる道である。 エナキスは横の道を指さした。


「……どうしてこの道だと思った?」


「女の勘ってやつ? やっぱこうも横に曲がってると怪しいでしょ?」


「まぁ確かにBOSSでもない敵がさらに奥にいるとは考えにくしな。 今までもアイテムクエストは道の途中だったわけだし」


ラインハルトが腕を組み、 悩んでいる。


確かに今回のようなアイテム系のイベントやクエストでは道の途中で別の道が発生している事が多い。


しかしそれは絶対ではなく、 なかにはボスの部屋の隣にあった、 なんてこともあった。



ケインにも少し迷いが生じ始めた時、 ラインハルトが言った。


「じゃ俺真っ直ぐ行ってみるわ」


「「え?」」


「3人まとめて行って、 横の道はフェイクでしたー、 じゃ時間の無駄だろ? なら俺は真っ直ぐ行って確認してくる。 そうしたらどっちかは正しい道を行ってるわけだしな。 まぁもし俺の道が【聖処女の采配】持ちのモンスターだったら連絡する。 もちろんそっちにモンスターが出てきたら連絡くれよな」


そう言ってラインハルトは重そうな大剣を背に走りだした。


「私達も行きましょ」


エナキスも納得したのか、 さして気にかける様子もなく横の道へと足を踏み入れた。



それからさらに10分ほど進んだ。


視界は少しずつ明るくなり、 なぜか監獄内にもかかわらず緑の木々が茂っている。


道の端は気がつけば岩で出来た壁に変わっていた。


「いままでにないステージだな」


「こんなに明るいのは収容所以外では初めてね」



二人で笑いながら歩く。


出てくる敵はケインの爆弾で近距離に入られる前に倒していった。



歩いて行くと、 目の前がさらに明るくなった。


――場所が移動した?


このステージに来る時にくぐった門のように、 ステージをロードする場所――ステージ同士の分かれ目――では視界が一時的に変化する。 プレイヤーにとってはロードは強敵への警告のようなものだ。



――つまりここがアイテムホルダ―の……!!



円――そう形容するのがふさわしいほど丸い広場が現れる。


円の周囲は岩に覆われていて、 入り口はケインたちの入ってきた場所のみである。



円の内部へと一歩を踏み入れた瞬間――空から球体、 否、 丸い岩が降ってきた。


直径10mはあるであろうそれは地面へと地響きを立てて着地した。


岩が震え始め、 地響きは更に強くなっていく。


「あれが敵かしら?」


「――恐らく」


ケインが言葉を告げた時、 岩の一部が吹き飛び、 細長い棒のようなものが出てきた。


「あれは――」


腕だ。 腕には鎖で鉄球が繋がれていた。


敵が臨戦体勢に移ったと見ていいだろう。


「ようやくお出ましってわけね。 58階にしては途中の敵も弱かったし、 楽しませてもらおうじゃない」

そう言ってエナキスが腰のレイピアを抜いた。


二人には大きさによる圧力など関係ない。


ただ倒すだけである。


【ROLLING STONE】

そう敵の頭上に表示された。


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